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12件
中原の虹
著者 浅田次郎
「汝、満洲の王者たれ」予言を受けた親も家もなき青年、張作霖(チャンヅオリン)。天命を示す“龍玉”を手に入れ、馬賊の長として頭角を現してゆく。馬と拳銃の腕前を買われて張作霖の馬賊に加わった李春雷(リイチュンレイ)は、貧しさゆえに家族を捨てた過去を持つ。栄華を誇った清王朝に落日が迫り、新たなる英雄たちの壮大な物語が始まる。(講談社文庫)
中原の虹(4)
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中原の虹 第1巻
2011/06/24 20:43
すごいところまで行ってしまっている
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
これだけ重厚な物語を、これ程までにすいすいと読ませてくれるというのはもう、奇跡としか言いようがない。構成のうまさ、文章のうまさ、言の葉の美しさ、いきいきとした登場人物たちなどなど。それらが奇跡のように相まって、このような作品が生まれ出るのだろう。読む側はがっしりと心を捕まれ、いや身動きさえ出来なくなって息つくことさえ忘れさせられてしまう。さすが当代切っての文筆家、浅田次郎。すばらしいの一言。なんというか「すごいところまで行ってしまっている作品」だと思う。
浅田氏の作品はこれまで全て追ってきた。どれを読んでも心奪われる傑作ばかりだけれど、中でも「蒼穹の昴」を読み終えた時の感覚は忘れられない。浅田次郎という作家は、異国のこんな壮大なストーリーも書けるのかと。しかしその蒼穹の昴から繋がる本作品、それとは比べようもなく、すごい。何しろ横幅と縦幅が圧倒的に大きい。中国の歴史と世界感、これが圧倒的に読むものを魅了し掴んで離さない。しかし本作品は決して、中国の歴史が好きだ興味があるといった者の為だけの本、ではない。云わば本好きが本の素晴らしさを再確認し、その悦びと快感に身もだえ打ち震える為にあるといって、過言では無いと思う。
西太后という圧倒的な官軍と、次の世を狙う賊軍白虎張という、非常に分かりやすい設定がまず物語りに入りやすい。そして徹底した研究から為されるのであろう構成とストーリーは、読んでいて何の違和感もなく納得の連続で進んでいける。そして何より、キャラクターが魅力的だ。賊たちの粋と独特の理屈にわくわくとさせられ、西太后の神がかり的な雰囲気と相反した茶目っ気にはくすりとさせられる。さらに終盤に日本人将校吉永が登場し、物語はさらに面白さを加速させて次巻へと続いていくのだ。
溜めに溜めて読み始めて良かった。次巻以降、一文字一文字、舐めるように読んでいこう。
中原の虹 第3巻
2011/07/21 10:23
巨星落ち、天下が動き始める。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
前巻で絶対的権力者西太后が逝去し、いよいよ天下が動き始める。まだ幼少の皇帝「溥儀」が即位するものの、虎視眈々と日本を含め諸外国がその土地を、そして革命勢力が覇権を狙い始める。その勢力に対抗する為に袁世凱が呼び戻され、実権を握るようになる。しかし物語の主人公、白虎の張作霖が満州から東北地方を統べ、名実ともに「東北王」となった。そして覇者の印「龍玉」は、その張作霖の息子の手の中にあるのだ。果たして中華の国は、一体どのような命運を辿るのか。
王朝崩壊から中華民国の樹立まで。中国の歴史の何と興味深く面白い事か。国ががらりとその様相を変えるあたり、日本における大政奉還にも似た感触があるが、まるでスケール感が違う。物語構成も大きいが、登場人物の感覚もまた大きい。島国日本ではちょっと得難い感覚で紡ぎだされる歴史と冒険的物語は、何とも読み手の心を捉えて離さない。
孫文に蒋介石、梁文秀と役者はそろった。次の4巻で最終巻。さぁ物語は一体どう終結するのか。期待度120%で進んでいきたいと思う。
中原の虹 第4巻
2011/08/08 11:04
世界の真ん中に咲く華の、行く末
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひろし - この投稿者のレビュー一覧を見る
前巻でとうとう崩御した西太后。当然のごとくその後の世界を巡って、世は混迷する。東北王として君臨し、伝説の龍玉を持つ張作霖。清朝を倒して新しい国家を築こうとする新勢力、革命家の孫文。その勢力に対抗するべく復活した「天才的俗物」袁世凱。そして清朝の延命をはかる、実の皇帝宣統帝溥儀とその側近の者達。明日の中華を思う力がぶつかり拮抗し、今にも崩れ落ちそうになったそんな時。天才的指導者、「宋教仁」が現れる。選挙にも圧勝して中国を民主化の道へと導き、新しい世界が開けるのかと思わされた、その矢先。なんと宋教仁が暗殺され、あろう事か袁世凱が皇帝に即位してしまう。そして世にもおかしな皇帝が二人いる国家が誕生してしまうのだ。一体中華の国の行く末は、どうなってしまうのか。
世界の真ん中に咲く華、中華の大輪。その激動の歴史を垣間見れ、非常に面白かった。まともに学術書でも開いたなら、とてもとても読み切れた物ではないだろう。それを春雲兄弟のような架空の人物を絶妙な按配で織り交ぜ、この壮大な歴史絵巻をエンタテイメントの粋にまで昇華させて読ませてくれたのは、さすがとしか言いようがない。この4巻で完結となったけれど、しかしまだ「蒼穹の昴」シリーズは終っていない。本作品では、登場人物それぞれの最終的な道が示されてはいないのだ。次作では明らかになるのか、楽しみでならない。
蛇足ですが「蒼穹の昴」から続くこのシリーズを読むと、非常に読書力と日本語力が付くと思う。重厚な物語でありながら、非常に魅力的な登場人物やそこここに交えられたユーモアなどで、中学生くらいからでも十分読めると思う。また浅田氏らしい美しい言葉や言い回しが随所に見られ、「ああ日本語は美しいなぁ」と、思わずため息が出てしまうほどだ。そういう意味から、夏休み中の中学生高校生に、ぜひ挑戦してみて欲しいシリーズだと思います。