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8件
嵐が丘
著者 エミリー・ブロンテ (作) , 河島弘美 (訳)
ブロンテ3姉妹は,イギリス北部ヨークシャーの一寒村に牧師の娘として生れ育った.本書はその一人エミリー(1818―48)が残した唯一の長篇小説で,ヒースの茂る荒涼たる自然を背景とした,二つの家族の3代にわたる愛憎の悲劇.浮浪児であった主人公ヒースクリフの悪魔的な性格造形が圧倒的な迫力を持つ.新訳.(全2冊)
嵐が丘 下
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嵐が丘 下
2020/02/10 22:08
異常な傑作
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
キャサリンは病に倒れてヒースクリフの野望はそれでも燃え尽きない。嵐が丘とステッシュクロスの2つの家族をめぐる愛憎は、その子や孫にまで3代にわたって続く。こう言うのは安易だとは思うが、言葉では表せない異様な表出力で、ヒースクリフや周囲の登場人物たちを突き動かす宿命そのものを描いているようだ。ヒースクリフとキャサリンの激しい関係性はやはり異様な言葉の応酬で極彩色に彩られて社会通念や善悪を顧みず、片方が死んでからも肉体を超え出て、子孫たちさえも突き動かす。ヒースクリフの死は、悲劇を完成させるご都合主義なものでなく、必然的だが不可解なもの。この小説は劇薬だが、早く読めばよかった。
嵐が丘 上
2004/03/04 04:54
愛
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:すなねずみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
(あらすじなど書かない。ただ、バタイユが『文学と悪』のトップで取り上げてるぐらいだから、「甘い恋愛ドラマ」ではなく「悪の香りが濃厚な物語」であるということだけは、断っておいたほうがいいかな。礼儀として。)
『嵐が丘』という小説は、とても「読書空間」という感じがある。それは何より作者のエミリ・ブロンテが「読書空間」をとても大切にする人だったからだろうと思う。作品のなかに、とても素敵な「読書空間」が用意されている。もう、そうとしか思えないのだ。
ヒースクリフといい、キャサリンといい、リントンといい、ヘアトンといい、キャサリン(娘のほう)といい、リントン(息子のほう)といい、怒涛の如き「恋の嵐(甘くはない、まったく甘ったるくなどない)」であるが(で、そんな中、くそ爺のジョーゼフがいい味を出している)、少々気取ったところのある紳士ロックウッド(個人的には嫌いではない)にヒースクリフの物語を語る「語り手」のネリーが、とにかく素晴らしいのだ。一読者として言わせてもらえば、単にネリーの話をその場で聴いている感じがするという意味での臨場感だけではなくて、彼女の語る「ヒースクリフ物語」そのもののなかに、「一読者」に過ぎない「自分」が「存在」しちゃってるような臨場感さえ醸し出してくれる(そんな場所、特等席を用意してくれているのだ、たぶんエミリ・ブロンテが……スゴイ!)のだから、ただものではない。しかも、まったく破綻がない(と思う)。
キャラクターの描き分けが、とても素晴らしい。しかも、全員、とめどもなく(ポジティブな意味で)魅力的なのである。ふつう小説っていうと、「こいつ、いけ好かない奴」と思えるキャラクターが一人はいるものだが(いても悪くはないのだが、もちろん。で、ジョーゼフは嫌いな人は嫌いかもしれない、うるせーし。でも僕は愛すべきキャラクターだと思うし、そう思わせるだけの描写がなされている)、これはつまり、エミリ・ブロンテの「愛」以外の何物でもない。ここで安易に「作者」を出してくるのは、小説の読み方として間違っているのかもしれないが、『嵐が丘』が傑作であるのは、やはりエミリ・ブロンテが自らの作り出したキャラクターを情熱的に愛していたからであるとしか考えられない。いかに悲劇的な結末であろうとも、「愛」に包まれている。読み終えて……「愛に包まれた世界にいること」を、これほど強く感じさせてくれた小説はない。(僕には)
ぜったいに、おすすめ。(実は僕が今回読んだのは新潮文庫の旧版、田中西二郎さんの翻訳だけど、たぶん翻訳云々ではなくて、この作品はとにかく最高に素晴らしいと確信している。)
もう一度読み返して(岩波文庫で。原書も参照しながら)、細やかな、厳密な分析をしてみたいと思う。でも、しばらくは、この世界にとどまっていたい。(「また甘いことを書いてるなあ、おれ」と心の片隅で少し反省しつつも。でも、甘いのはこれで最後のつもりだから。)
<追伸>
『嵐が丘』を下敷きに書かれた水村美苗さんの『本格小説』もすごく好きだけど、やっぱり『嵐が丘』の方が上かな、と思う。今の僕には「どこが」とは言えないし、だからって『本格小説』の価値を貶めるつもりはないけど(というか、貶めることにはならないと思う)、やっぱり「物語」というのはこうでなきゃ、という「究極」なものが、ここにはある。
嵐が丘 上
2020/01/31 19:33
イギリスのノワール小説
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
英文学はフランスのような社会への反抗はなく、悟りきって落ち着いた品の良いイメージがある。この小説は冒頭からそれを見事に裏切る。話者のロックウッドが取引相手の客人なのに、嵐が丘の住人は恐るべき失礼な応対を見せる。ヒースクリフだけでなく、全員がひと癖どころでないくせ者ばかり。構成も入り組んでいて、極度に狭い舞台に犇めく人物の関連性も濃厚で複雑なので、読むのに疲れるが、このテイストはまさに暗黒小説。ヒースクリフがキャサリンもイザベルも引き込んでしまってから、これ以上どうなりようがあるのか、とあきれつつもかなり気合いを入れて下巻に。