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11件
ふくわらい
著者 西 加奈子
書籍編集者の鳴木戸定。彼女は幼い頃、紀行作家の父と行った旅先で特異な体験をする。不器用に生きる定はある日、自分を取り巻く世界の素晴らしさに気づき、溢れ出す熱い思いを止めることができなかった。第1回河合隼雄物語賞受賞作。
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ふくわらい
2021/11/10 21:54
守口がいい!
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
社会人になるまで友達も恋人もなく、家で福笑いをして遊ぶのが唯一の趣味だったという主人公の定、亡くなった紀行作家の父がマルキ・ド・サドが好きだったという理由から(苗字も鳴木戸とマルキドに似ているし)つけられた名前、母親はその名前に反対だったらしいが。いろいろな人の顔を空想で福笑いのように入れ替えるという遊びに大人になってからも夢中になる定、でも社内に友達もできて、「好きだ」と言ってくれる男性や熱くて福笑いの失敗作のような顔のプロレスラーと付き合うようになって定は変化していく、乳母に初めてできた友達を紹介した時の彼女の泣きださんばかりの歓喜、こちらまで涙がでそうだった。本当に西氏の小説を読んでいると捻くれた私が、真っすぐなまともな大人に生まれ変われるのではと思ってしまう、生まれ変われないんだけどね
ふくわらい
2015/10/27 22:38
物語的な面白さを超えた面白さに溢れた本でした。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:koji - この投稿者のレビュー一覧を見る
こんなふうに
普段の自分では感じられないことや
自分では普遍的で常識的なものの見方や考え方だと
思っていたことの外に別の世界が重なって在ることを
知ることの嬉しさや楽しさがあるから
本を読むことが止められません。
物語的な面白さを超えた面白さに溢れた本でした。
2023/01/09 08:26
人の心に刺さる「一本の矢」。 差異へのこだわりを乗り越える、西加奈子の人間賛歌。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:mitu - この投稿者のレビュー一覧を見る
身分による差別の激しかった古代インドにおいて、釈迦はこのような言葉を残したという。
「私は人の心に見がたき『一本の矢』が刺さっているのを見た」
「一本の矢」とは、差異へのこだわり。
人間の中にある差別の心は、刺さった矢のように抜くことが難しい。
それを克服しない限り、幸福も平和もないのだ、と。
本作は、第1回河合隼雄物語賞受賞作。
文学賞は、優れた作品に授けられるもの。
「物語としてしか命を持ちえない作品」
「世界をバラバラにぶっ飛ばす風のような力を持った、稀有な物語」
との評価で、作品の方から、文学賞の性格や方向性を決定づけてしまった。
主人公 鳴木戸定(なるきど・さだ)は、紀行作家の父と病弱な母のもとに生まれた。
定を愛し抜いた母は若くしてなくなり、婆やの悦子が定の面倒を見た。
父は、世界中の「秘境」の様な場所へ定を連れて歩く。
その旅の途中、父は定の目の前でワニに食われて命を落としてしまう。
その後の定の取った行動で社会的なバッシングを受けてしまう。
そんな世間と隔絶するように友情や愛情を知らずに育った彼女は、編集者となった。
担当する一癖も二癖もある作家たち。
猪木に憧れて、闘魂三銃士と同期で、それでも地味ながらエッセイを書き続ける守口廃尊。
「一目惚れです」と定に言い寄る盲目の青年 武智次郎。
恋愛に失敗してばかりの後輩の美人編集者 小暮しずく。
現実世界で出会ったのならば、「変わっている」とひとくくりにされてしまいそうな面々。
だが、この作品では我が事のように共感しながら読み進めることが出来る。
「変わっていない」人など、この世の中に存在しない。
自分のことを大事にする。
相手のことを思いやる。
ほんの少しの強さと想像力。
「人のこころを支えるような物語を作り出した優れた文芸作品」との評価も、心の底から共感できる。