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5件
坊っちゃんの時代
〈明治〉という時間軸に交錯する群像を、関川夏央の気鋭の原作を得て、名手・谷口ジローが渾身の力で描いた話題作。歴史上の人物たちの同時代的邂逅が意表を突く!!
坊っちゃんの時代 5 不機嫌亭漱石
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『坊っちゃん』の時代 第1部 凛冽たり近代・なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)
2002/03/09 15:49
切り貼りで、明治を描く職人技
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「漱石狂す」の報とともに、留学期間半ばでイギリスから戻った漱石が、東京帝国大学文科大学講師及び第一高等学校英文学講師をしながら、小説『坊ちゃん』を執筆する頃の様子が描かれている。
とにかく、錚々たるメンバーが、この一冊の中に次々と登場するのに魅了された。
散歩に出た漱石と、目白台に向かう途中の森鴎外を出会わせる。二人は、樋口一葉がかつて住んでいたという家の前で感慨にふける。
漱石の帰郷の陰には、小泉八雲の退官劇があった。
ハイカラの先端をいっていたであろう「ビヤホール」では、苦虫を噛み潰したような顔をしてビールをちびちびやる漱石が、カメラをパーンすると小さな点となり、ホール全景の中には、石川啄木青年、国木田独歩、『破戒』を執筆中の島崎藤村、柳田國男、田山花袋などが同じようにビールを飲みながらあれこれと話をしている。泉鏡花が病中であることも伺われる。
本書を物語性の強いものにしているのは、「新時代の女」平塚らいてうの存在である。竜巻のような女性である。まわりのものは、地面から足が数十センチも浮き上がったような状態になってしまう。
登場するのは、文学者だけに限られてはいない。いつもうつむき加減に歩く漱石は、人にぶつかって手に持っていた書物類を道に落としてしまうのだが、そのぶつかった人というのが、後に伊藤博文を暗殺した安重根であり、落ちた書物を拾い集めてくれたのが若き日の東条英機といった具合である。
私は漱石の作品がとても好きだ。しかし、『坊ちゃん』に出てくる赤シャツや山嵐、うらなり君、マドンナなどのことは、あれやこれやと感想が浮かぶが、漱石その人、あるいは、漱石が生きた明治という世についてはほとんど気にとめていなかったことに気付かされた。
小説を読む上で、作家のプライベートなことを知る必要はない、もっと言えば、なるべく知らない方が良いとも思っていたが、現代小説なら自分の生きている時代と重なる部分なのでそれも良いだろうが、明治や大正といった一時代前の作品においてこの考えを持っていては、大損をしてしまうと思った。
時代が変わろうとも変わらないものがあるから、半永久的に読み継がれる書物がある。変わらないものだけを受け止めて楽しむのも良いが、変わったものを踏まえて読めるなら、それにこしたことはないと思った。
『坊っちゃん』の時代 第1部 凛冽たり近代・なお生彩あり明治人 (アクションコミックス)
2001/12/21 23:11
我々が想像するより明治ははるかに多忙であった。
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投稿者:江湖之処士 - この投稿者のレビュー一覧を見る
精緻な画と確かな物語。夏目漱石が名作「坊ちゃん」を構想してゆく過程が、明治から大正へと移り行く世相とともに描かれる。堀紫郎、太田仲三郎といった知られざる人々と漱石との交流から、山県有朋、桂太郎などの政界の大物についての話までが盛り込まれ、文学者としてだけの漱石ではない、人間としての漱石像がえがかれている。「明治人も忙しかった」という帯の通り多面的に文人達を捉えようとした試みによって、漱石や石川啄木、森鴎外生きた時代は同時に安重根や東条英機が生きた時代でもあったことに気付かされる。尚この本は全五巻の第一巻であり、以下の続巻では鴎外、啄木そして幸徳秋水が、いかに日々に追われる現在の我々と同じく「忙しく」生きたかを描いている。
2024/12/28 13:58
修善寺の大患
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
第五部は再び夏目漱石が主役となり、修善寺の大患が中心となる。死に瀕した漱石の幻覚が地獄めぐりとなるように、早すぎる死へと向かいつつある漱石は明治という精神の終わりを予告するものとして描かれる。