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48件
岳
著者 石塚 真一
秋の北穂高岳。登山中の中年男性・黒岩が、雪に足をとられて崖から転落、腕を骨折して動けなくなってしまった。山麓の警察署では下山時刻が遅れていることから、山岳遭難防止対策協会のボランティア・三歩に救助を要請することに。見かけは頼りなさそうな三歩だが、ヒマラヤや南米の山を歩いてきた経験豊富な救助員で…。大自然のなかで繰り広げられる、感動の山岳救助物語!!
岳 18
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岳 1 (ビッグコミックス)
2006/09/09 13:50
遭難者
19人中、18人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:るーく - この投稿者のレビュー一覧を見る
山岳救助ボランティアの三歩は、遭難者を発見すると、まず「良く頑張った。」と声をかけます。
体中−頭蓋骨までも骨折し、ヒューヒューと息を吐くだけの遭難者に向かって、「そうだね、わかってる。心配ないよ。」と声をかけます。
「君の家の今晩のおかず、何だろうね。」
遭難者を背負って運びながら、絶えず声をかけ続けます。
この作品の遭難者たちは、山を甘く見た軽率な登山者ではありません。
事前に準備をしても事故に遭うことはあるでしょう。
中には生きて戻れない人もいるでしょう。
生きて戻れたとしても、遭難者はものすごい孤独や恐怖に怯えた時間を過ごすはずです。
作者はそういった遭難者の孤独・不安・死の恐怖を丹念に描き出します。
「良く頑張った。」
発見された遭難者にとって、その一言がどれほどの安堵感を与えるか。
それは想像に難くありません。
山を知り尽くした三歩だからこそ言える優しい一言だと思います。
岳 6 (ビッグコミックス)
2010/03/14 12:44
こんな山バカがいれば、最高です。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:書痴 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最初は、評判になっている漫画で、題材としても珍しい?山岳救助の話、そんな印象で読み始めたのですが、巻数を重ねてゆくごとに、その魅力にどっぷりはまってしまいました。
何といっても、主人公の三歩が最高にカッコいいのです。山岳救助のボランティアをしている彼こそ、まさに山男の理想、憧れだと思います。恋人未満?友達のクミ嬢いわく、「じゃがいも」みたいな顔で、決してイケメンにあらず。でも、すごくいい表情を、読者に見せてくれます。特に三歩の笑顔、目をつぶって二カッと歯を見せながら笑った表情に、癒されます。作者は、その辺を実に味わい深く効果的に描いてくれます。またシリアスな表情も良いのです。豪放磊落、こんなヤツが友人や同僚にいたらいいなと思わせる人間です。
救助にやって来た三歩たちに、山岳遭難者が、まず必ずといっていいくらい口にするセリフがあります。「すいませんでした」で、「助かった」とか「ありがとう」という安堵や感謝よりも、謝罪が最初に口から出てしまうのは、日本人の国民性か自己責任からでしょうか?自分を責め続ける遭難者に対して、三歩のセリフが、「よくがんばった」です。現実の山岳救助の場面でもこんなやりとりがされているのかもしれませんが、この一言は、身体的な限界だけでなく、遭難者の呵責や精神的な苦しみを救う、魔法の言葉だと思えました。
さて、前置きが長くなりましたが、本書6巻にも様々なドラマがあります。9編どれも味わい深く、とりわけ印象に残ったのは、『半分成人式』と『ルート(前後編)』です。
『半分成人式』では、レギュラーキャラの小学生ナオタと三歩の交流が描かれます。大人になったら何なる?みたいな、ほのぼのとした会話の後、父親の遭難死がトラウマになっているナオタ少年は、三歩が、救助現場で受けた血だらけの身体を川で洗い流しているのを見て、「兄ちゃん…この血の人どうなったの?」と質問します。「…ナオタ、即死…って分かるか?」「事故にあってすぐに死んでしまうのを『即死』って言うんだ」、今さっきあった死に対して、ありのまま話します。ナオタは、父親と同様、自分の大好きな人がいつか同じ運命を迎えるかもしれないと不安に駆られます。「兄ちゃん(三歩)は…山でソクシしない?」三歩は「死なないよ!!山でもどこでもオレは死ぬまで死なないよ!!」と、まぶしい笑顔で返答します。死の概念を、子供に説明する難しさを、こんな風に表現してしまう作者の力量には脱帽します。
『ルート(前後編)』は、三歩の高校時代、山岳部の恩師をめぐるお話です。家業を継ぐか海外での登山をめざすかで悩む三歩に、先生のセリフ「なあ、島崎(三歩)…オレは死ぬぞ」「オレだけじゃない。全ての人の最終到達点は死…」「島崎、お前もだ」「そこまでのルートはお前にしか決められん。そう思わんか?」。その恩師が、山で遭難。同時に二ヶ所の遭難現場発生、恩師の救助でなく、今いる場所で救助活動を続ける三歩に対し、クミが、なぜ恩師の救助に向かわないかと問いただす。三歩は、山岳部の3つのモットーを引き合いに出して答えます。「困難は自分一人でのりこえる」「誰かの困難は、自分一人でも全力で助ける」「山では笑う」。一つ目のモットーは、恩師を信頼し、二つ目のモットーは、恩師の救助にあたる別働隊に信頼を寄せる三歩がいます。最後は言わずもがな、師弟の絆と理想の山男像が見事に描かれています。
という具合に、6巻は、三歩を三歩たらしめている行動原理の源泉に行き当たる内容にもなっているかと思えます。
岳 18 (ビッグコミックス)
2012/08/31 18:12
よく頑張った!
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Pokhara - この投稿者のレビュー一覧を見る
まずはこんなに山そのものや、山愛する人の持つ空気を味あわせてくださった石塚さんに心から「よく頑張った!」と感謝の言葉を送りたい。谷口ジローなど色々な登山漫画を読んだけれど、日常的な山登りの魅力をここまで表現した漫画に出会ったことがない。
自分が登山を始めた時期に連載が始まり、巻が増えるとともに自分の山登りも少しづつレベルアップしてきた。先日は北アルプスの槍ヶ岳山荘を訪れ、その小屋の談話室で「岳」を読んだ。周りを見たら、他の登山客も「岳」を読んでいた。みんな山も「岳」も大好きなんだな。
その「岳」がついに今回で最終巻となった。ラスト2巻はこれまでの雰囲気とガラリと変わっているので当然賛否があるけれど、自分はクライミングも少しだけかじっているから、こういう生死スレスレのところを縫うように山を登る勇ましい三歩の姿も見ることができてとても嬉しかったし、谷口ジローの山岳漫画に劣らない迫力に夢中になりながら読ませてもらった。
アメリカの山へはまだ行ったことがないけれど、ここに取り上げられた場所をいつか訪れてみたいと思う。「岳」は物語としては終わってしまったけれど、どの巻からでも、何度でも読み返せる漫画なので、これからも岳に会い続け、自分も山を楽しみ続けたいと思う。