全ての権威,全ての栄光,全ての正義を信じない,山田風太郎ニヒリズムの極致
2007/04/18 15:29
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SnakeHole - この投稿者のレビュー一覧を見る
この作家が産み出した唯一の名探偵,新宿のオンボロアパート・チンプン館を根城としている酔っ払いの堕胎医・荊木歓喜が活躍する長短編8本。最初の数編こそ探偵役を固定したことがある種着想の足かせになっている風を感じるものの,その探偵役・荊木歓喜自身の過去が事件に絡む中編「帰去来殺人事件」,そして横溝正史もあっと驚く血と愛憎の表題作「十三角関係」の見事さはどうよ。特に「十三角関係」は,全ての権威,全ての栄光,全ての正義を信じない,山田風太郎ニヒリズムの極致と言っていい傑作である。
鬼才・山田風太郎ミステリーの入門編にして最高傑作候補
2021/03/30 12:08
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アントネスト - この投稿者のレビュー一覧を見る
山田風太郎のミステリ―作品集。容貌魁偉のモグリ医師・荊木歓喜ものの短編を集成し、さらに荊木もの唯一の長編『十三角関係』を併録。
本格ミステリー好きなら絶対楽しめる傑作ぞろいですが、特に短編「落日殺人事件」は、トリック、文章、人物造詣、ストーリー、すべてが精緻を超えて凄絶とすら言いたくなる出来栄え。個人的には、全世界のミステリー短編のなかで最高傑作は? と問われたとき挙げたくなる候補の最右翼です。
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七つの短編、ひとつの中篇と、表題作の長編とで構成されている。一話ごとに色合いが違って見えるのは、その舞台設定の特異さ。退廃し霧がかった仄暗い雰囲気の中、いたるところに殺意の種はばら撒かれ、残酷で容赦のない事件となって発芽する。探偵役の荊木歓喜が面妖なるキャラで、それがそっくりそのまま全体の雰囲気として、物語の底辺に沈殿しているのだ。 トリックは一見地味に見えるが、短編各話が短いため、どうしても小粒な印象になるのだろう。この奇抜な着想を最大限活用すると、島田荘司のようなアクロバティックな仕掛けへと発展する。感服したのはそのテンポの良さ。文章のリズムが抜群で、センテンスの最後でぴったりおさまる感覚は、読書というより活弁を堪能しているよう。あえて選ぶベストは『帰去来殺人事件』。
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新宿のボロアパート・チンプン館(このセンスが素敵♪)に住む医者、荊木歓喜先生の事件簿。クセになります風太郎。
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友人に勧められて初山田風太郎作品。めっさ好みなんですけど。そしてやっぱり怪盗という響きに弱い自分。
荊木歓喜先生好きだ。この人のネーミングセンスも好きだ。
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歓喜先生がキョーレツ!
できすぎな美女に圧力を感じる男性の話が多い?
全体的に男性目線なのでいろいろ言いたいこともあるけど、こういう後味は悪くない。どろっとしたこの感じ。
何が善で何が悪なのか混沌としてしまう余韻。
「まったくのところ、新聞はそれほど信用すべきものじゃあないからな。事実半分、嘘半分」
「職に貴賎はないぞ。職に貴賎はないが、人間に貴賎はあるぞ。」
「わしは、真の悪党というのもは、決して悪いことはせんものだといいたかったのです。・・・すくなくとも、ただこの世のつめたい傍観者にすぎないだろう。」
「悪をなしながら、それでも善良なひとであり得る。すぐれた女性になり得る。」
「三人が宿屋にとまったら、宿賃が30円だったので、ひとり10円ずつ出した。ところが、帳場のほうで5円負けてくれたのだが、女中がかえしにくるとちゅう2円ごまかして、3円だけもってきた。それを三人で1円ずつわけたので、結局9円ずつの宿賃を出したことになるから、したがって三人の合計は27円。女中のくすねたのが2円で合計29円。さて最初の30円のうち1円どこかに消滅してしまった。」
大好きな百けん先生の随筆にあるらしいけど、面白すぎる。
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相変わらず物語性ゆたかな作品。トリックに目を見張るものはなかったけど、男女の心理の機微をよく書いている。悲しい余韻を残す作品が多い。
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帰去来殺人事件が抜きん出て傑作である。探偵自身も罠にはめる構造と胸に染みる人間心理。表題作は歓喜先生の魅力があまり発揮されていないように思われ残念である。説教じみた語りが多くこれでは鼻につく。対して被害者の魅力は作中人物のみならず読者をも魅了してやまない。それだけに一見理不尽な犯人の動機に同情と理解が生まれる。
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【チンプン館の殺人】【抱擁殺人】【西条家の通り魔】【女狩】【お女郎村】【怪盗七面相】【落日殺人事件】【帰去来殺人事件】【十三角関係】収録。
型破りでアウトローな名探偵・茨木歓喜が活躍する傑作選です。
長編の【十三角関係】は、複雑な人間関係の中に組み込まれた構図と、真犯人の動機の凄まじさが印象に残る傑作です。
短編の中では、【帰去来殺人事件】が私的ベストです。探偵役である歓喜自身が深く関わったプロットが秀逸でした。
その他はやや小粒な感じでした。
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長くなりそうなので、レビューは『帰去来殺人事件』『十三角関係』のみです。
「帰去来殺人事件」
山田風太郎といえば、僕のなかで変格的なミステリを書く作家というイメージがあったのですが、今作は真っ直ぐド直球の本格ミステリの傑作短編でした。(結末に限っては普通の探偵小説とは一線を異にしていますが…。)まず足跡の問題がすごく良くできています。答えはすぐそこにありそうなのに、手が届かないもどかしさ。そして特筆すべきは、あまりに悪魔的なアリバイトリックです。これは○○トリックの派生系でしょうが、この一作をもってして完璧に作り上げられています。どこからこのような発想が思い浮かぶのか、不思議で仕方がありません。そしてラストは名探偵荊木歓喜らしい締めくくりでとても満足しました。
「十三角関係」
帰去来にくらべて落ちる印象はあるものの、長編で荊木ものが読めるのは嬉しい限りです。本作で面白いのは、短期間で被害者の部屋に幾人もの怪しい人物が出入りし、どの段階で殺されたのかがわからない、さらに死体は四肢を切断されていた、という舞台設定でしょう。初期に殺されていれば、そのあとの人たちは死体を見ているわけですが、登場人物たちが人を喰ったような奴ばかりのため安易に容疑者を絞れない。そして訪れる解決編で指摘される犯人は意外すぎるもの。しかしそれを成立させてしまう山田風太郎の並々ならぬ手腕が凄すぎます。
日本屈指の名探偵、荊木歓喜の登場作すべて詰まった本書は、ミステリファン必読でしょう。
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「異端の探偵」
山田風太郎2作目。名探偵編という事で、茨木歓喜という一貫した探偵役が登場する巻。本格ミステリとは言えないか。歓喜先生は、犯人の動機に同情し、時に自身も犯罪に加担することさえしかねないような破天荒な人物だが、どこか憎めないばかりか、時に鋭い人間観察眼をのぞかせる人物である。その当時の時代背景や、作者自身の人間に対する考察(ネガティブなものと思うが)が作品からうかがえると思われる。
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ミステリー傑作選2<名探偵編>はキャラクターのおもしろい名探偵が登場、魅せられた痛快読み物であった。
八つの短編「チンプン館の殺人」「抱擁殺人」「西条家の通り魔」「女狩」「お女郎村」「怪盗七面相」「落日殺人事件」「帰去来殺人事件」と一つの中篇「十三角関係」。
『雀どころかクマタカの巣みたいなモジャモジャ頭。大兵肥満だが、年はちょっと見当のつかぬ男。ちんばで、おまけに右の片頬に三日月のような傷跡がある。』新宿のチンプン館というボロアパートに住む酔いどれ医者「荊木歓喜」ものシリーズ。
はっきりしたキャラの面白さのきわめつけが「ガックリ、ガックリ」。その表現がユニーク。何のことかと思ったら?片足が不自由な主人公の歩く姿の特徴からきてるのだ。
お医者だけれど売春婦の闇堕胎が専門。昭和二十年代が舞台なのでさもありなん、売春禁止法案がちらほら出ているころ。身辺に起きる事件に巻き込まれ異色の探偵となって解決に手貸す。
それが非常に痛快。そんなことあり?と言うほどのミステリーマジック。なるほど単なる娯楽読み物だけではない、人の心の奥底に訴えるものがある。
何かあるだろうとはテレビ番組から想像はしていたが、山田風太郎という作家の幅の広さの魅力だろう。非日常の世界に日常性を描く才が長けていて、わかるのだ。おもしろくて人生のためになる気楽な読み物。病み付きになる事請け合い。
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荊木歓喜もの全作品(合作をのぞく)が、これ一冊で読めるというお得な文庫版全集。ミステリとしては物理トリックによる不可能犯罪ものがメイン。原色で塗りたくった悪夢のような作品世界にはこうしたトリックが嵌まる気がする。ベストは「帰去来殺人事件」。メイントリックのとんでもなさには唖然呆然。よくもまあこんなことを思い付くものだ。