生きていくというのも悪くはない
2017/01/18 08:02
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
山本周五郎が亡くなったのは1967年(昭和47年)2月14日だから、2017年は没後50年にあたる。
その影響だろうか、テレビなどではドラマ化された多くの山本作品の再放送が企画されている。
ずっと気になっていた作家もあって、それに直木賞作家の石田衣良さんが読むべき短編小説にあげていたのも山本作品であったこともあって、手にすることになった。
新潮文庫のこの本では表題作である「大炊介始末(おおいのすけしまつ)」(これが石田衣良さんのオススメの短編の一つ)のほか、「ひやめし物語」「山椿」「おたふく」「よじょう」「こんち午の日」「なんか花の薫る」「牛」「ちゃん」「落葉の隣り」の10篇が収められている。
新潮文庫のラインナップを見ると、山本周五郎が実に多くの作品を残しているかわかるが、この短編集がその中でどのようなところに位置しているかわからないが、私はとても感動した。
まるで古典落語を聴いているような心地といえばいいのか、目にしているのは間違いなく言葉であるのに耳にすすっと入ってくるような感じは地の文だけでなくせりふの巧さもあるのだろう。
なかでも私のオススメは「ちゃん」である。
裏長屋に住む貧しい火鉢職人の重吉一家。腕は確かだが、お酒が入ると乱暴になる重吉と彼を支える女房のお直。さらには14の良吉を頭に、四人の息子娘がいる。末っ子の三つのお芳がかわいい。
女房も子供たちも貧しいけれど、父をたて、健気に生きている。
お直のいうこんなせりふ、「人間はみんながみんな成りあがるわけにはいきゃあしない、それぞれ生れついた性分があるし、運不運ということだってある」、が泣かせる一篇だ。
こういう作品を読んだら、生きていくというのも悪くはないと思えるはずだ。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukko - この投稿者のレビュー一覧を見る
「なんの花か香る」短編の中のこの作品が
女流作家さんが時代小説を書きたいと思う契機になったとのこと
男性の書く時代小説って、
切った張ったのチャンバラシーンがやたらに出てくるものと勝手に思ってましたが、
人情系小説で読みやすかったです
されるさまざまなパターンの短篇が楽しめます
2018/05/20 08:42
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮部みゆきが時代小説を書くきっかけになったという短篇が収録されている『大炊介始末』(新潮文庫)は、山本周五郎の短篇集。
ミヤベの時代小説は愛読しているので、どんなもんか読んでみました。
下町もの、武家もの、平安朝もの、などと分類されるさまざまなパターンの短篇が楽しめます。
「山椿」「おたふく」のような後味のよい作品が好きです。
けれど、表題作や「落葉の隣り」のような終わり方もまた、小説の愉しみ。
宮部のきっかけになった「なんの花か薫る」は、岡場所もの。
高田郁もこれを読んで時代小説を志したそうですが、この作品は男女の違いによって読後感に差が出るみたいです。
わたしは、これはないよなあ、どんな男やねんとあきれたのですが。
投稿元:
レビューを見る
大人版の童話を読んだ気になる一冊。善か悪か、それだけでは図れない大人の対処のヒントがそこかしこに隠れている。
時代小説が苦手な人の入門編としてもいいかも。
投稿元:
レビューを見る
短編10編。すべて違う切り口なのが、興味深い!昭和30年代に書かれたモノで、今となっては難解な部分もあるが、当然と言えば、当然の話である。終わり方も、余韻が残るモノ、スカッとするモノ、色々で飽きない書籍だと思う。特に気に入ったのは、「ひやめし物語」「おたふく」だろうか!?
投稿元:
レビューを見る
10編全部面白かった。
表題作の「大炊介始末」「よじょう」「おたふく」なんかは特によかった。
中でも「おたふく」が最高。
30もすぎた夫婦と姉妹のお話
登場人物も少なく短いお話なんだけど、
キャラも良く、会話も良く、山本周五郎の良さの出たかわいいお話でした。
投稿元:
レビューを見る
再読了。
・ひやめし物語
・山椿
・おたふく
・よじょう
・大炊介始末
・こんち午の日
・なんの花か薫る
・牛
・ちゃん
・落葉の隣り
投稿元:
レビューを見る
さまざまな趣向の作品を集めた短編集。全10編のうち、以下印象に残ったものをピックアップ。
「よじょう」・・・どうしようもないヘタレ男・岩太が、乞食の真似事をしているだけなのに父親の仇を討とうとしていると周りから誤解されてしまう。それだけでも面白いのだが、仇を討つ相手はあの宮本武蔵。力の象徴である武蔵や仇討ちそれ自体へのシニカルな視点が素晴らしい。
「大炊介始末」・・・武家モノ。将来を嘱望されていた大炊介が、18歳の秋に自身に関するある秘密を知ったことから自暴自棄に陥ってしまう。この時代にこんな秘密を知ったらと思うと大炊介に同情してしまう。まったくもって悲劇としか言いようがない。
「こんち午の日」・・・豆腐屋の婿に入った塚次だったが、3日目に妻が家出してしまう。残された養父母を守るために一人奮闘する塚次だったが、家出した妻と無法者の男が家を乗っ取りに現れて…。ラスト近くの対決シーンがものものしい。
「なんの花か薫る」・・・娼妓のお新は、追われていた若侍の房之助を匿ったことをきっかけに馴染みとなる。身分の差によって結ばれることのないはずの2人だが、お新も周りも徐々にその気になっていき…。文庫版の解説にある通り、オチを含めて完璧な短編だと思う。
職人としての矜持が前面に出た作品が多いが、寄せ集め感がなきにしもあらずかな。いつもの周五郎節を味わうには不足はない。
投稿元:
レビューを見る
以下、短編ごとに感想。
ひやめし物語:武士の時代のひやめし食いは制約強すぎて大変そう。
山椿:オチは読めたが良い話。人は生まれ変われるものですな。
おたふく:誤解って怖いね。いい話ですんでよかった。
よじょう:武士の誇り(というか仇討ち)に対する皮肉。
大炊介始末:感情移入がしづらい。イイハナシナノカナー?
こんち午の日:血<義理
なんの花か薫る:最後がひどく切ない。
牛:この短編集の中で一番とぼけた感じ。平安時代。
ちゃん:ザ・大衆文学。好き。
落葉の隣:誤解って怖いねその2。やりきれない。
投稿元:
レビューを見る
樅の木は残ったしか読んだ作品はありませんでした。珠玉の短編集と思います。
以下、木村久邇則氏の解説から
満州事変から第二次大戦後、物資統制のため雑誌の統廃合まで行われた時代に作品は発表されたのだそうです。アンドレジット『大芸術家とは、束縛に鼓舞され、障害が踏切台となる。ミケランジェロのモオゼの窮屈な姿を考えたのは大理石の不足による。アイスキュロスのコオカサスに鎖ぐ沈黙。芸術は束縛より生まれ、闘争に生き、自由に死ぬ。』
下町もの ー「おたふく」◎「こんち午の日」「ちゃん」「落葉の隣り」
岡場所ものー「何の花か香る」
滑稽ものー「ひやめし物語」◎
平安朝もの一「牛」
武家もの一「山椿」◎「大炊助始末」「よじょう」◎
心理描写をつとめてさけ、会話と動作の完結な描写だけで、溢れる余情を与えている。
ラベルの名曲「ダフネとクロエ」が、単純な数小節のテーマメロディーを変化させることだけで華麗な交響詩となっていること、その手法の散文詩への応用。粘りのある文体、決して上っ面を流れ奔ることのなく、一行一行、読者に食い込んで行く量感。
本当の人生への対決
投稿元:
レビューを見る
アンデルセンの童話は一作毎に色んな切口の話が盛り込まれているが、この本はまさにそんな感じ
どれも意外な話の流れで、ほほぉ〜と感心してしまいます
山本周五郎、あまり読んだことがなかったけれど、他の本も読んでみようと思います
投稿元:
レビューを見る
飲み屋の描写が上手いなぁ、どの酒も苦々しい。
でもどんなに苦々しくても、たまには外でビールでも飲みたいもんです。ヨーロッパの夏のような日本で一番良い季節の夜風に当たりつつ。
投稿元:
レビューを見る
周五郎新潮文庫版短編集、木村久邇典氏解説には周五郎の短編ジャンルが大まかにわかるものを選んでいるとのこと。そうですね「×××もの」と分類できます。
再読ですが、ひさしぶりに周五郎ワールドにとっぷりと漬かりましたので、一編ごとの印象を。
「ひやめし物語」
武家の次男三男は跡継ぎになれない、養子に行くか部屋住みで終わるか、肩身が狭いのは現代のパラサイトも同じだけれど、甲斐性があれば何とかなるのであるという話。その甲斐性が古本集めというからおもしろい。
「山椿」
二組の男女のもつれあいというと、どろどろしているみたいだけれど、ここにはかしこい知恵とユーモアがあるのです。
「おたふく」
女性を信じるかどうか、男性はなかなかできないのでしょうか。清く生きているのに、切ないですね。でも明るい性格の姉妹だからか終わり良ければ総て良し。
「よじょう」
何にもしないことが有効になる?って噓からまことが。
「大炊介始末」
山崎豊子『華麗なる一族』を彷彿とさせる、武家もの編の苦しくにがい物語。
「こんち午の日」
このような一途な男性を描けるのは周五郎真骨頂なのだ。
「なんの花か薫る」
哀しい、悲しいなあ、世の中にはわかっているけど行き違いがあるんだね。
「牛」
天平ならず現代にもいる、あると納得の人間模様。
「ちゃん」
どうしょうもないおとうちゃんはどうしようもないんだよ。
「落葉の隣」
好きになるっていく過程の不思議さ、理屈じゃないの。
ようするに周五郎ワールドをほめっぱなしにしてしまうような短編集。
投稿元:
レビューを見る
山本周五郎全集26巻に収録。
相模守高茂の長子、高央は幼いころから知力体力共に優れ、父からも溺愛されていた。18歳の時に侍臣を手打ちにしたことから狂気に走るようになり藩議の結果、父高茂は討取るために高央の幼少時の学友である兵衛に命じる。
狂気に走った高央の行動の理由は。兵衛との対面は。
周五郎の武士の人情を描いた短編。
投稿元:
レビューを見る
高田郁さんがおすすめされていた「なんの花か薫る」ご読みたくて手にした一冊。
以前アンソロジーで読んだ「こんち午の日」も懐かしく。
「山椿」が読後感よし。
「なんの花か薫る」は高田郁さんの時代ものを読んだ時のような、胸がぎゅっとなる切なさを覚えた。ショックとその後の気丈さを体感。ずっと忘れないお話。
他の作品も読んでみたい。