- 販売開始日: 2013/03/07
- 出版社: 早川書房
- ISBN:978-4-15-031033-2
天冥の標 IV 機械じかけの子息たち
著者 小川一水 (著)
「守らせてください。従わせてください。わたしに生きる許しをください。そして─」「わたくしたち市民は、次代の社会をになうべき同胞が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境...
天冥の標 IV 機械じかけの子息たち
商品説明
「守らせてください。従わせてください。わたしに生きる許しをください。そして─」「わたくしたち市民は、次代の社会をになうべき同胞が、社会の一員として敬愛され、かつ、良い環境のなかで心身ともに健やかに成長することをねがうものです。麗しかれかし。潔かるべし」――純潔(チェイスト)と遵法(ロウフル)が唱和する。「人を守りなさい、人に従いなさい、人から生きる許しを得なさい。そして性愛の奉仕をもって人に喜ばれなさい」――かつて大師父は仰せられた。そして少年が目覚めたとき、すべては始まる。シリーズ第4巻。
著者紹介
小川一水 (著)
- 略歴
- 1975年岐阜県生まれ。著書に「臨機巧緻のディープ・ブルー」「導きの星」「天冥の標」など。
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行為の果てにあるもの
2011/10/01 22:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
救世軍連絡会議議長グレア・アイザワの義弟キリアン・クルメーロ・ロブレスは、とある理由によりたどり着いた小惑星で、アウローラ・P・アルメンドロスという少女に出会う。彼女と彼女の姉ゲルトルッドは、無条件の好意をキリアンに示してくるのだが、彼女たちの一族の名前は恋人たち(ラバーズ)といった。
ある理由でキリアンの好意を得たいアウローラたちは、彼が冥王斑であるゆえに押し殺していた性欲を開放させ、彼の望むままの行為に応え続ける。なぜなら彼らは、人間へ性愛の奉仕をすることを喜びとして生み出された存在だからだ。
そしていつか、混爾(マージ)と呼ばれる性愛の極地に至ることを目指し、自分たちを増やし存在し続けている。それは、機械的に融合して同一化する不宥順(フュージョン)とはまた違う、個性が他者の存在を自分と同一視して受け入れるような感覚だ。
そんな彼らのハニカムに存在する不協和音である聖少女警察、そして外部からの、道徳と倫理という名を借りた敵の襲来。その果てにラバーズはどこへとたどり着くのか?
2巻の冥王斑、3巻のアウレーリア一統、そして今巻の恋人たちと、1巻の仕掛けが徐々に明らかになってきた。
そして今巻の内容だが、ラバーズが主役であることもあり、とてもエロい。彼らの存在理由から予想がつくようにセックスをしまくるわけだが、ゲストの性的嗜好を満足させるため、彼らが無意識で求めるようなシチュエーションを実現し、そこでたっぷりと行為にふけるわけだ。ある意味では究極のイメクラみたいなものかもしれない。
しかしただそれだけで終わるというわけではない。性愛の究極の形とは何かをその中で求め続けるのだ。そこでは常識的には考えられないような交感のかたちもある。そしてなぜラバーズがそうあるように創られたのかも考えられる。まあ、何か真剣にまじめに一所懸命なのだ。
そんなわけで、シリーズの枠からはみ出してはいないので問題ないとは思うのだが、以前の短編についても然り、どこか意地になっているようなところも感じなくもなかったりする。
やっぱり若者を扱うと、どうしても軽くなるっていうか、かなり重い内容を扱っているはずですが、読み終えてみると結局、よくあるお話の域を少し越えただけみたいな気がします。なんだか勿体ないなあ・・・
2012/04/02 20:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
上手いんでしょう、富安健一郎のカバー装画。特に左側1/3を占める都市?の風景はいいな、って思います。でも、画面のほとんどを占める女体にはさほど感心しない。無論、顔のあたりがメカになっていて気持ちが悪い、っていうのもあります。でも、それよりここでヌードを使う意図がわかりません。いえ、確かに小説のほうには嫌というほどこの手の裸がたくさん登場します。
いや、裸体がでてくる、なんていうものではありません。小川一水作品史上これほどセックスシーンが見られるものは、かつてありませんでした。しかも、その表現ときたら・・・ま、林真理子なんかもっと書いているので、あくまでSFジャンルに限れば、ですけれど、でもかなりなものでしょう。少なくとも、アニメ化するにはかなり工夫がいる、っていうか年齢制限かけるほうがいい。
でもです、主題っていうか、描かれるのはセックスですが、でも、糾弾されているのは「セックス」を通して快楽を得ようとする人々に対する、ある特定の人びとの一方的な倫理観に基づく弾圧であり、その暴力であり、「正義」という言葉で若者を洗脳し、操り暴虐をほしいままにする権力です。しかし、この構図がはっきりするのは物語後半で、前半はその気配は感じさせるものの、深夜帯のアニメ風に話は進んでいきます。
主人公は、キリアン・クルメーロ・ロブレス、目覚めた時、何も覚えていず、ただアウローラに誘われるままに、様々な状況でセックスを行い続ける、性的欲望の強い少年として登場します。そして、彼は自分が冥王斑患者群に属すること、義姉に対して大罪を犯しそうになったことを思い出します。
アウラことアウローラ・P・アルメンドロスはキリアン専用の《恋人たち》です。匠なる大師父によって築かれた楽園、軌道娼界ハニカムのキャストっていうか要するに性的奉仕をのためのアンドロイドで、18歳の少女です。一目見て大騒ぎするような美人ではありませんが、傍にいてほしいタイプの美しい少女です。
で、アウラにはゲルトことゲルトルッドという姉がいます。妹と同じ《恋人たち》ですがキリアン専用ではありません。目鼻立ちのくっきりした美女で、妹とは全く異なるタイプです。20歳前後、というよりはもう少し上、24,5歳という感じでしょうか。キリアンをめぐる少女にはもう一人、全く異なる立場のエルンゼアナ・ボルテージがいます。
私が、権力に洗脳され操られると書いたアンドロイドで、タンパク機械のみだらな娼婦たち《恋人たち》を取り締まり、かわいそうな被害者の人を取り戻すのが仕事と教え込まれた聖少女警察、特務強襲班のリーダーで、性的遊戯にふけるキリアンを《恋人たち》の手から〈救出〉しようとします。少女、というか小学生くらいのイメージで、なんていうか「ストライクウィッチーズ」を思ってもらえばいいかもしれません。
なぜキリアンが軌道娼界ハニカムにいるのか、美少女アンドロイドたちの対立の背景にあるのはなにか、そしてそれにキリアンが義姉に対してとった行為がどうからむのか、さらにいえば何故セックスか、というようなことが、戦闘少女たちの対立構図の中で次第に解き明かされていきます。それはある意味、世界の成り立ちにすら入り込んでいくことでもあります。
つい最近、フィリップ・K.ディック賞を受賞したC・L・アンダースン『エラスムスの迷宮』を読み終えたのですが、世界の成り立ちと人間との関係を取り出せば、この『機械じかけの子息たち』と似ているな、って思いました。無論、そういう話は沢山あって、神林長平の小説の多くもそうでしょう。ただ、私が思ったのは小川も神林も、その作品のレベルからいえば『エラスムスの迷宮』をはるかに超えているわけで、彼らの作品が英語で世界に紹介されないのは勿体ないことだなあ、ということです。
カバー後ろの案内紹介は
「わたくしたち市民は、次代の社
会をになうべき同胞が、社会の一
員として敬愛され、かつ、良い環
境のなかで心身ともに健やかに成
長することをねがうものです。麗
しかれかし。潔かるべし」――純
潔と遵法が唱和する。「人を守り
なさい、人に従いなさい、人から
生きる許しを得なさい。そして性
愛の奉仕をもって人に喜ばれなさ
い」――かつて大師父は仰せられ
た。そして少年が目覚めたとき、
すべては始まる。シリーズ第4巻
となっています。そして巻末には
巻末に 天冥の標〈4〉「機械じかけの子息たち」完
〈5〉「羊と猿と百掬の銀河(仮)」へ続く
とあります。五巻は既に出ていて、私も読み終えていますが、タイトルはきちんと『羊と猿と百掬の銀河』となっていました。ま、また予想もつかない世界のお話になっていましたが。最後は、目次のコピーです。
序章 麗しかれ、潔かるべし
――二三一三年、セレス――
第一章 虹の瞳の「恋人」
第二章 聖少女警察来襲
第三章 「The Honeycomb」
第四章 「混爾」を求めて
第五章 子息たちの苦悩
第六章 人機の寄る辺となるように
第七章 坑道の暖かなベッド
エピローグ 救世群の恋人たち