タックス・ヘイブンー逃げていく税金
2016/06/26 13:27
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投稿者:Carmilla - この投稿者のレビュー一覧を見る
大蔵省=財務省で主税局主計官、東京税関長を務め、財務省退官後は政府税調メンバーとして国際税制の世界に関わるかたわら、弁護士として企業の国際会計を支え来た人物の著書。筆者は官僚として大蔵省・財務省として在籍した期間のほとんどを、国際税制の世界で過ごしてきた。彼が紹介する世界は、あの手この手を使って節税を逃れようとする資本家及びグローバル企業と、それを阻止しようとする税務当局の暗闘である。しかも資本家・グローバル企業サイドには、本来なら脱税を取り締まる側にあるべき徴税機関が、資本家サイドに与しているという、驚愕の事実が明らかにされる。タイトルにある「タックス・ヘイブン」の起源は、もともと王族の資産を管理するためのものであり、その秘密を守るためには、諜報機関がしゃしゃり出るのは日常茶飯事なのだ。そのため筆者は、相手の理不尽な言い分に煮え湯を飲まされることを何度も経験してきた。彼の筆致からは、そのことについての憤りがひしひしとかじられる。だがそれ以上に無念なのは、筆者が昨年末に病のために昇天したことである。「パナマ文書」が国際ジャーナリスト集団によって暴露されたが、日本ではいつの間にか話題にすら上らなくなった。筆者が生きていたら、この事態をどう解説したのだろうかと思うと、無念でならない。
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投稿者:つよし - この投稿者のレビュー一覧を見る
極めて面白い。学者の空論ではなく、国際金融行政の一線に立ってきた筆者だから語れる具体論と明晰な視点だ。パナマ文書で注目されるタックスヘイブンがどこにあり、どう運営されているかはもちろん、本書の射程は、各国やOECDなどの国際機関がどう規制に苦慮してきたか、さらには金融危機の歴史やヘッジファンドが果たしてきた負の役割などにも及ぶ。マネーがいかに暴走してきたかが分かる一冊だ。
読んでよかった。勉強になった。
2017/05/27 00:13
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投稿者:しょひょう - この投稿者のレビュー一覧を見る
タックスヘイブンについては、テレビや新聞で一通りのことは理解しているつもりだったが、ほんの表面しか知らなかった、ということが良く分かった。
タックスヘイブンは、先進国・大国も含めたさまざまな「国益」が絡み合っていること、なにより、その本質が税率が低いことではなく、情報の非開示性にある、ということは、言われてみればその通りだが、本書により良く理解できた。
タックスヘイブンを使っての資金洗浄などの事例も紹介されている。その核心は本書を読んでも分からないが、グローバルに国境を超えるマネーと国境に縛られる租税、の根本的な不整合がある限り、その解決は容易ではないと感じた。
表現の端々に著者の自慢・アピールが入るので、気に障る人もいるかもしれないが、総じて読みやすかった。お薦め。
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タックス・ヘイブン、お金持ちや企業が税金をごまかすのに使う国、地域、という乱暴な認識しかなかったので、とりあえず買ってみた。
著者は、税金を取る側、後には税金逃れを取り締まる側の方。何事によらず第一線のプロ(だった)方のお話は興味深い。
(そちら側からの視点である、ということは差し引かなければいけないかもしれない。)
タックスヘイブンとは何か、どんなことが行われているか、どんなふうに取り締まろうとしているか、実例を上げながら解説されていてとても面白い。
岩波新書ということで堅いお話を覚悟したが、ものが犯罪、テロ関係だけにキナ臭くて、門外漢には興味深いエピソードが多い。諜報機関という単語が頻出するとは思ってもみなかった。(政府が表に出せないお金を動かすのにタックスヘイブンを使うから。右手のやっていることを左手が取り締まろうとしている。)
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すごいヒトがいるもんだなぁ・・・・というのが読後の印象。
著者の正義の使者のような発言も好感が持てた。
タックス・ヘイブンこそ悪の巣窟・・・ということでしょうか。
著者のようなヒトを世界を股にかけ、世界の中で生きている・・のでしょうね。
アタマの良さにも脱帽。
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岩波新書で「タックス・ヘイブン」という本を読みました。なかなかおもしろかったですね。これまでにない本だと思います。マネーの亡者によって庶民が被害を被っていることに対し、私たちに何ができるのか。考えさせられました。
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題名の通り、タックスヘイブン・いわゆる租税回避行為の現状について分析、実態を紹介している。ヘッジファンド規制だけでは片手落ちで、このタックスヘイブンとみなされている国・地域も徹底的に規制しないと駄目なんだろうなあ、と思った。税の世界と金融の世界が混ざり合った印象。英国やスイスなんかはしたたかそうだな・・という印象。米国は対外的には規制を厳しくするのだろうけど、そういいつつ国内法(州法)なんかはこっそりゆるいからね。
業務にも参考になりそう。
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志賀櫻『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』岩波新書、読了。納税回避や帳簿偽装の利用される租税回避地。本書は財務官僚として対策に従事した著者による最新の報告。日本の海外投資先の3位はケイマン諸島には驚いた。納税義務と所得隠しに国家が関与する。近代国家のねじれを描く本書に戦慄する。
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多国籍企業の租税逃れが話題になっているので読んでみました。新聞を読むための基礎知識となります。マネロンについても少し記述があります。
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2013.9.2.pm4.24読了。天気は雨。図書館本。買っても良かったかなと思う。再読も視野に。消費税の増税は基本的に賛成だった。借金が多く、歳入も足りないのなら仕方ないと思ったからだ。しかし、その考え方は浅はかだった。経済にこんな根深い問題があったとは。経済について何も知らない私にとっては驚きの内容だった。専門用語は多い。けれども、解説がとてもわかりやすいので読みやすい。中学・高校時代、現代社会をもっと真面目に勉強しとけば良かったと少し後悔。金融や経済のしくみについて興味が出てきた。関連本をあさってみよう。以下印象に残った言葉。
『金融は経済の血液である』p225
『税は文明の対価である』p224
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冒頭の、「日本の納税者の負担率は所得金が増えるにつれて低下していく」という驚きのデータの背景の核心部には、タックスヘイブンが大きく関わっていると筆者は述べている。
タックスヘイブンの大きな特徴は1.まともな税制が無い、2.固い秘密保持法がある、3.金融規制・その他の法規制が欠如しているということであり、この三つは高額所得者や大企業にとる脱税・租税回避、マネーロンダリングやテロ資金への関与、巨額投機による世界経済への悪影響という、重大な事態を引き起こしている。無論、問題はそれだけでなく、国の運営に必要な財政資金がきちんと負担されていないことで、公的サービスの整備と充実が出来なくなる、ひいては中間層・貧困層にしわ寄せが行くということにある。
金融危機を引き起こしている一因にヘッジファンドの存在がある。彼らの資源には、時にオフショア・センターを通じたものを利用してレバレッジを利かせており、危機感を感じた政府が対応しても税金をひどく浪費しただけで事態は変わらない、害悪が非常に大きい存在だと筆者は述べている。
正直、私は「他所の国の事だろう」と思っていたが、日本においても武富士事件(香港を舞台にした相続・贈与税の脱税事件)、フィルムリース事件(映画フィルムの償却期間を利用した所得税の脱税)、ハリポタ事件(スイス在住の翻訳者による「日本の非居住者であれば所得税の納税義務が無い」事を悪用した事件)、オウブンシャ・ホールディング事件((オランダに100%子会社を設立し法人税を免れようとした)、五菱会事件(ヤミ金で稼いだ50億円を隠匿していた)といった騒動が起きており、常に目を光らせておかなければいけないという危機感を感じた。
タックスヘイブンの真の問題はその存在そのものだけでなく、悪事によって不必要な金融危機が世界規模で繰り返し引き起こされていること、租税や金融取引に関する情報が何も出てこないという不透明性・閉鎖性にあるのだという。真面目に実直な生活をしている人が、極一部の連中によるマネーゲームで職を失い路頭に迷う、という事態は現実に起こってしまっている。本当に何とかしてもらいたい。
自分用キーワード
所得税制(累進課税) 政府税制調査会 デリバティブ プルーデンシャル・レギュレーション(金融機関がリスクをとり過ぎて破綻しないように規制をかけること) 「公法は水際で止まる(Public law stops at the water's edge)」 FATF(Financial Action Task Force:マネーロンダリングの問題に取り組んでいる。この内部にはエグモントグループという、特別なグループがある) ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン・アイランド、デラウェア州(有名なタックスヘイブン) MI6(タックスヘイブンとも繋がりがあると筆者はみている) シティ(ロンドン内にある一区画。タックスヘイブンと同様の機能を持っており、英国のGDPの20%以上を占めている) OECD租税委員会『有害な税の競争』 マーシャル・プラン(もともとOECDはこのプランの受け皿として設立された) マカオ(北朝鮮の秘密口座事件において使われた。なお、中国政府の猛反対によりリストから外されている) オフショア・センター(特別の優遇措置(規制の緩和など)を���けて外外取引を呼びこもうとするマーケット。多くの場合は外国人のみが利用を許され、国内の人間は利用できない(カジノと同じ理由)) 銀行秘密保護法(スイスの秘密口座で知られている。最近は圧力を受けるようになっている) ダッチ・サンドイッチ(さまざまな優遇税制を持つオランダを挟むことで節税が出来る) ループ・ホール(主に税に関する法律や条約の抜け穴) クレディ・スイス(著名なプライベートバンク。以前不祥事を起こした) タックスシェルター(節税のための商品) ジョン・ドウ・サモンズ(John Doe Summons:相手方の身元を特定しない召喚状のこと) UBS事件(2008,スイス) LGT事件(2006,リヒテンシュタイン) ジニ係数 シティズンシップ課税(居住性に着目せず、国籍ベースで所得課税をすること) FACTA(外国口座税務コンプライアンス法:アメリカの法。無視・契約しなければ30%の源泉徴収という非常に大きなペナルティを持つ) 痛税感(納税する時の負担感) 全世界所得課税方式 ポンジースキーム(アメリカにおけるねずみ講の名称の一つ) AIJ事件・オリンパス事件(共にタックスヘイブンが関わっている) CFC税制(日本における対タックスヘイブン法) 映画『トラフィック』(マネーロンダリングが描かれている) オルタナティブ投資 バンドワゴン効果 ボルカー・ルール AIFM(EUにおける指令の一つ) トービン税(投機マネーの国際間異動にブレーキをかけようとしたもの) マンデル=フレミング理論
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これは啓蒙書だな、と。
タックスヘイブン、言葉と南国のイメージだけが先行していて、その有害さを知らずにいたけれど、これは金融を駄目にする癌なんだな…。
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2度読めば、より理解が深まる。
①まともな税制がない
②固い秘密保持法制がある
③金融規制やその他の法規制が欠如している
「1998年4月OECD「有害な税の競争」報告書の概要」
https://www.nta.go.jp/kohyo/katsudou/shingi-kenkyu/shingikai/010409/shiryo/p23.htm
「国際的に合意された租税の基準の実施状況についての進捗報告書」
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100901016.pdf
①椰子の茂るタックスヘイブン
②群小のオフショア金融センター
オーストリア、ベルギー、ルクセンブルク、スイス
③ロンドンとニューヨーク
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目次
1タックスヘイブンとは何か
2逃げる富裕層
3逃がす企業
4黒い資金の洗浄装置
5連続して襲来する金融危機
6対抗策の模索
タックスヘイブンとは、税という望ましくない負担から免れたいという人間の本質的な欲求から生じたもの
国家同士の税の取り合い
規制と抜け道の矛盾
ジニ係数、移転価格税制
所得税か消費税か、どちらを根幹に据えるか
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国際税務の最前線で活躍されている志賀先生でしか書けない内容であり、読み応えあり。本当に興味深い内容であった。ヘッジファンドをギリシャ神話の怪獣ヒュドラに喩えるあたり、知識の深さがうかがえる。国際税務の一般的な知識を仕入れたい方は本書からどうぞ。