『応仁の乱』で話題の著者・呉座勇一さんの第12回 角川財団学芸賞受賞作
2018/05/17 19:14
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投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
“成り上がり”より“サバイバル”に必死な武士像。平易な文章で中世史学のいくたの学説を併記して細かく説明してくるのでなかなか面白い。元寇から応仁の乱までの「戦争の実相」を論じた本。大半を占めるのが、南北朝期を「革命の時代」ととらえていた「階級闘争史観」というバイアスがいかに強いか。歴史資料とは解釈次第なのだということを実感させてくれる。例えば、蒙古軍は優勢にもかかわらず船に引き上げ、撤収の途中で嵐だか台風だかに遭い、壊滅的な被害を受ける。だが、優勢なのに撤退したのはなぜか。本書の回答は単純である。「鎌倉武士が強かったから」だ。では、なぜ鎌倉武士は弱いとされたのか。本書では「反戦平和主義」の影響から「鎌倉武士は強かった」「日本軍は強かった」と主張することが憚られる風潮が生まれたのではないか、と指摘する。かといって本書の筆者は、日本人は唯物史観と反戦平和主義から脱却し、戦後レジーム(体制)から抜け出せと主張したいわけではない。このことは終章で語られるが、そのバランス感覚が絶妙で、具体を知る人の言葉だなと実感した。
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
元寇から、応仁の乱の時代を分かりやすく書いてあります。下克上の実態が、どういったモノだったのか、そして、武士、公家、一般……なかなか興味深い内容でした
戦争の日本中世史
2017/11/30 21:30
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投稿者:パミチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は日本中世史の若手研究者の一人としてつとに有名である。
本書は従来語られている「下克上」の言葉に代表される階級闘争としての戦争史観を批判し、合戦に対する当時(中世)の人々(武将)の意識や認識に重点を置き、領主や一族の首領としての立場から合戦を捉え、蒙古襲来から応仁の乱までの約200年間を戦争の時代として日本の中世を一般の読者にもわかりやすく解説している。
当然、武将の名前が数多く出てくるが、二度目からは前出のページが記載されておりわかりやすく参考になる。
また巻末に一般読者向けの参考図書も紹介されている。
源平の時代や戦国時代は我々にとってなじみ深いが、南北朝時代や室町時代は学生の頃に日本史の授業で習った程度で馴染みが薄く、また時代小説としてもせいぜい吉川英治の「私本太平記」を読んだ程度であっただけに歴史ファンの一人として大変面白く読ませてもらった。
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蒙古襲来(元寇)から、応仁の乱まで、主に南北朝期を中心に、日本中世の戦争の歴史について、新たな見方を示している。本書の基本的な視点は、従来の歴史学が、階級闘争史観の影響で、中世の武士や民衆を社会の変革主体と位置付け、被支配階級が支配階級に立ち向かう階級闘争として「戦争」を捉えがちだったことへの批判だ。例として、従来、社会の変革主体として高く評価されてきた「悪党」を再検討し、史料に現れる「悪党」は多様で、「悪党」と一括りにできるような集団が存在したわけではなかったと主張している。また、当時の武士は喜び勇んで戦争に出かけて行ったわけではなく、戦の最中も家族を気にかけるなど、戦争に必ずしも積極的でない「軟弱」な姿を指摘し、サバイバルという観点から当時の戦争を見直している。少し階級闘争史観憎しが行き過ぎて、ちょっと牽強付会ではないかと思える部分があったが、本書は、中世の戦争や武士の等身大の姿を描き出している良書だと思う。
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一般書。
日本中世史を源平合戦や戦国合戦にも触れないで書いているところが凄い。マルクス主義歴史観という階級闘争史観で思考停止している本に飽きた人にお勧め。
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Lv【初心者】
初心者にも歴史研究書読み込んでいる層にも面白い!
日本史自体の研究史照らし合わせつつ、実態を探る。
やはり自分でもこのカテゴライズは惜しいのだけど、「室町人の精神」「破産者たちの中世」「大飢饉、室町社会を襲う!」などこの時代の本と合わせて読むと面白味が倍増する。
「そこにシビれる憧れるゥッ」だけじゃない面白さ
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何が面白いって、まずは章立て、最終章が一番現代をイメージしている、ということは、以下の目次を見ればわかる。
終章 戦後レジームの終わり
妥協の産物としての「室町の平和」
ハト派の重鎮、畠山満家
「戦後レジームからの脱却」を目指して
「幕府を、取り戻す」
村の「集団的自衛権」
平和は「きれい」か
ふむふむ、これは面白そう、と思って読み始めたわけだが、扱う時代は文永元寇~応仁期まで。
いきなり、竹崎季長の有名な絵詞のシーンの解説がこれ。
「さすが季長!おれたちにできない事を平然とやってのける。そこにシビれる!あこがれるゥ!」(p.35)。
やる夫歴史系AAお決まりのあれですね・・・。
著者の呉座氏は年齢も近いのだが、前作での一揆とネットワーク論的解釈も含め、中性史ヲタの興味関心を的確にとらえていて、視野の広さを感じる。これはファンが増えそうな一冊ですね。
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詳しいことはわからないが、従来のイデオロギーに影響された学説にとらわれず、一次資料から改めて当時の社会情勢を解き明かしてることは素晴らしいと思う。
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2014 6/8読了。Amazonで購入。
いつも読んでる研究者さんのブログで紹介されていて、面白そうだったので買ってみた本。
蒙古来襲くらいの頃から鎌倉末期⇒建武新政⇒南北朝⇒室町、そして応仁の乱に至るまでの歴史を、従来の学界で主要だった階級闘争的な史観によるのではなく見直そう、というもの。
「悪党」という集団は存在しないとか、通説と言われていることに反論しつつ、武士を戦争を下克上の機会ととらえて喜んで参加する集団としてではなく、死を厭う、自身の領地経営が重要でリスクの高い遠征を忌避したい集団として描く中世史。
鎌倉末~室町のあたりって好きな創作がなかったり、すげえややこしかったりってのもあって流れとか全然把握していなかったんだけれど、これは相当楽しみながらそのあたりを把握できてよかった。
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室町時代の争いを軸に、現代の戦争観、平和観へ繋げている。階級闘争史観的な見方を排除し、提示された本書は自分が「お勉強」で習ってきた歴史をひっくり返してくれました。読み進めるうちに不思議な既視感を覚えるのは、現在の世界情勢と似通った環境が読み取れるから?それが例え、意図されたものであったとしてもね。
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中世史と言うと教科書で(大学受験論述で)紋切り型のように「貨幣の流通」「農民の成長」「生産力の向上」「インフラの発達」といったワードで多くのことが説明され易い。無論それらも大事なのであるが、もっと時代に即した事情があるのではないか。そうした観点から書かれたのが本著である。
といっても、新資料や奇想天外な新説でアッと言わせるというようなものではない。教科書の記述にもとになるような資料から、どのように推論できるか、その幅を教えてくれる。
歴史家はどのように資料を読んで行くのか、どのように歴史の流れを組み立てていくのか、といった点にについて目から鱗となる良著。
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悪党の話。家督相続。平和になると兄弟相続で戦時下だと嫡男相続。一揆が中世の頃の家中の概念。一揆が強いと領主権力が弱くなる。強くするためには粛清も必要だが、大義名分がないと他の家臣が納得しない。強引に進めると家中の一揆により領主が追放される。
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元寇から応仁の乱までの期間を戦争を通して概観する。
やっぱり南北朝から観応の擾乱までの流れはすごすぎます。
大将として全国を駆け巡り、何度も敗けながらそれでも立ち上がる尊氏ってどういう人物だったのだろう。立ち上がるというより担がれたんでしょうね。
どんな国のあり方がベストなのかはいろいろあると思うけど、戦争のない状態を作り出すには高邁な理想よりも、身の丈にあった機会主義だったわけだ。それが後醍醐天皇と尊氏の違いでもある。仮そめの平和でも戦争状態よりはよっぽどいいよね。
著者は階級闘争史観だけでは紐解けないっていうけど、俯瞰的に理解するにはやっぱり階級闘争と唯物史観のような気がしちゃうな。
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元寇から応仁の乱にかけての武士たちの動向を分かりやすく解説しています。
鎌倉時代後期からは戦で武功を立てても新しい土地がある訳ではなく、命を失えば家族が路頭に迷う可能性が高いので、なるべく無駄な戦には出たくない武士が多かった、という解説は、中世の武士たちが現代の人類と何ら変わらない、普通の人間であることが良く分かります。
著者は全編を通じて、マルクス主義的に歴史を見るのではなく、あるがままに中世の武士、民衆を見ようと主張しており、この点も同意できますね。
後、これは著者の責任ではありませんが、当時の武士の名前に偏諱が多いので、少し混乱するところはありました。
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応仁の乱の本の中で紹介されてたので買ってみたけどこっちの方がおもしろい。
読んでる途中にん?と思ったことがあとがきですべて弁明されていたのですごいなあと思った。現代政治への示唆も鼻につかない程度だったし、大変おもしろく読めました。