踏むのも踏まれるのも嫌
2018/09/28 07:34
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の帯に「夫婦はいつから、夫婦になるのだろう」とある。
その答えといえるだろうか、桜木紫乃さんはこの本が出来たあとのインタビューで、「夫婦は、ゆっくりと時間をかけて夫婦になって行けばいいんだな」と思ったという。
それは多分この短編連作を執筆するなかで得た答えかもしれない。
実際この作品は2015年から書き始めて2017年まで時々の時間を置きながら小説誌に発表されてきた。ちょうどこの物語の主人公二人の時間を紡ぐようにして。
この作品は10篇の短編から出来ている。
桜木さんは一つひとつ独立した短編として読んでもらえたらと、先のインタビューで話していて、確かにそれは短編としての魅力を持った作品もあるが、やはり10篇を読み通すことで、主人公たちの心の変遷が切なく、感動を誘うように感じる。
なんといってもはずせないのが冒頭の「こおろぎ」という作品。
ここで主人公の元映写技師の信好と看護師の紗弓の二人が出会い、生活をともにするきっかけとなる挿話が描かれる。
ある日スーパーの入り口でこおろぎを逃がしている娘、それが紗弓ですが、に会った信好が何をしているかと問うと、娘は「踏まれるほうも踏むほうも嫌だろうから逃がしている」と答えた。その答えに「あなたいいひとだな」と信好は声を出す。
それがふたりぐらしを始めるきっかけだ。
この作品にはこの二人以外にも、かつて二人ぐらしをした人や新しく二人ぐらしを始める人などが遠景のように描かれる。
「水色を塗り重ねるような小説」を書きたかったという桜木さんだが、とてもいい色の作品に仕上がっている。
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投稿者:なま - この投稿者のレビュー一覧を見る
時間がゆっくりと流れている二人の暮らしの様子が浮かんでくるお話でした。どこにでもありそうだけど、なかなかないようなお話でもあるかなと思いました。二人が幸せになってくれたらいいなあと思います。
しんしんと雪が積もるように
2019/02/13 13:40
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投稿者:ピーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代小説なのに、なぜかバックミュージックの無いような小説。
夫婦共に穏やかに、その中に彼らなりの葛藤は抱えているのだが荒い言葉は発せずに静かにシーンが流れる。
まるで深夜に降り積もる雪のような文体だなあ・・・と思って桜木紫乃さんの経歴を見ると北海道生まれとあって、なんだか納得するものがあった。
なんだか優しい気持ちになれるそんな気がした。
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投稿者:真太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある夫婦の決して裕福ではなく、むしろ経済的に厳しいが、特に焦りもなく暮らす日々。他人同士が一緒になるということは、いろいろと付き合いも煩わしくなるけど、二人は等身大のまま時の流れ人の流れに任せて年を経ていく、そんな感じの作品。
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投稿者:ぽぽ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ほんとうの幸せとはなんなのかということを、改めてじっくりと考えさせられる作品です。じんわり温かくなりました。
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20180622 S リクエスト
安定の桜木紫乃。
いつも楽しみにしてます。本の帯に書いてあった一日一章ずつ読んでください、なんて絶対無理だと思いました。
やっぱり一気読み。午後からの2時間で。
他の作品に比べると、短い作品。
主人公夫婦、穏やかでいい関係だと思いました。義父の意外な一面。それが主人公の仕事に繋がる。
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新刊で出てから読むのがこんなに遅くなってしまって、桜木ファンを自称出来ないな。
桜木さんの湿り気あるところが好きなので「桜木史上最幸傑作」に手が出なかったのか(笑)
自分は、夫婦はあくまでも他人同士だしお互いの全てを知ることは到底無理だけど、寄り添って同じ方を向いて、人生を乗り越えるため一緒に居るものだと思っている。まさにそんなお話だった(かな)
しばらく読んでなかったけど、自然と文体に懐かしさを感じた。でも何か物足りないと感じたのはどうしてか?もう一度読んでみよう。
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元映写技師・信好、看護師・紗弓夫婦の結婚生活を描き、「ふたりで生きていくこと」をテーマに書かれた10編の物語。二人が迷いながら幸せの形を掴んでいくまでのささやかな日々の悦び、小さな嘘、疑心、嫉妬、大切な人の死を描いた作品は、これまでの桜木作品のような寒くて、重くて、体温が下がる感じはしない。むしろ、二人が少しずつ自分たちの幸せの形を探っていく過程が温かく描かれていて、さらっと読めて心地よい。
いつもの桜木作品を期待したらちょっと肩透かしだけど、これはこれでたまにはいいかな・・・
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桜木さんの本を読んでいると、やはり北の大地を感じる(今回か道東ではなく札幌付近のようですだけれど)。「最幸」とありますが、あからさまに幸せを歌うものではなく。日々の心の引っかかるところがありながらも、その中で幸せのかけらを感じといった風で、それが現実味を帯びたものであり、桜木さんの世界に共通してある全体の空気感と北の大地の空気感を感じました。一気読み厳禁とあって、本を読み始めた時、そんなの無理かなあと思ったんだけれど、読み始めて、一気に読むのが勿体無く感じ、毎日少しずつ読んだものでした。主人公の信好夫婦、その両親夫婦、それぞれの形、幸せ、愛の満たされがありました。どれも温もりがある。激しい出来事・感情はないのだけれど、すごおく良い。嫉妬心やら親を思う気持ちやら、さらりと書いてるけど、良い。良い良い良い。北の舞姫ますます好き。10ある中で「こおろぎ」、「ひみつ」が気に入ったかな。
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しっとりした、という言葉が似合う本なきがする。
ニート同然でヒモ同然な映写技師、脚本家な信好
それを支える看護師の紗弓
各々は自らの状態を不満に思い不安に思い
でも相手のその部分には不満は持っていない
しかし大事な会話は避け続けるので、不安や不満は解消しない
だからと言ってものすごくぎすぎすしているわけではなく、日常は表面上はおだやかに過ぎて行く
夫婦だからといって、お互いのことを何でも知っているわけではなく、なんでも理解できるわけではない。
私はまだ、夫婦というものに期待しすぎていて、そのことを飲み込めはしないが、でも現実はそうなのだろう。
秘密にしていることをばれてはいけない。秘密にしていたことで相手を傷つけてしまうから、秘密にすると決めたなら隠し通す義務があると思う。
読みやすいので一日一遍で十日間、という感じはしないが、でもゆっくり読みたい本。
資料室で借りた本。とてもよかったが、何度でも読み返したい、手元においておきたい!という強い感情はなく、そういう本があった、と何年かに一度思い出せたら、という感じかな。まぁ、お金に余裕があれば本棚においてあっても、良い...という上からな感じ。
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初出 2015〜17年の「小説新潮」の連続10話
表紙のフランス語のタイトルが「男と女」、桜木さん海外進出を目指しているのか?
札幌に住む、仕事がなくなったが就職しない映写技師の夫と夜勤のアルバイトもする看護師の妻の物語。
隣町で一人暮らしし、毎週有無を言わさず息子を呼びつけて病院に付き添わせていた夫の老母が死に、妻に負い目を感じる夫は自分だけで葬儀を済ませる。この異常さが淡々と描かれれてまず面食らう。妻の母も毒母系で自分が正しいと信じていて自分が人を傷つけることに何も気づかないが、父と娘はそれを受け入れている。
夫婦は互いを大切にして、気遣っているが、口に出さないでいる気遣いも多い。空き家を放置していた夫の実家をリフォームして引っ越し、妻の父の紹介で夫は映画評論家の秘書の仕事に就き、妻は自宅近くの個人病院に転職する。
そこで関わっていく人々の話も中々に面白いが、それに対比される夫婦の微妙な波はあるが淡々と見える日常は、今までの桜木作品にはないものだなあと思う。
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ここまで平坦なのに飽きさせない小説も珍しい。事件もハプニングも謎解きもなく淡々と夫婦生活を描く。子供がいないと夫婦はこうなっていくのかと妙に納得してしまった。
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夫婦とその周りにいる人々に触れながら淡々と進む。
誰にも共感することなく終わった。
今を、普通に生きる人々をきっと飾ることなく登場させている。
エンターテイメントの逆を行くような小説なのだろう。
ただ、作家さんとの向き不向きがあるとすれば、
私にはあまり向いていないのかも。
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タイトルと帯の惹句からは、若い夫婦の、「2人だけ」の生活のあれやこれやを綴った物語を想像していたのだけれど、そうではなかった。
それぞれの両親や、職場の人、ご近所さん、同級生、通りすがりの親子。
それら全ての人たちに、それぞれの「くらし」があって、
その中に、2人の「くらし」があった。
「くらし」とは「暮らし」と書く。
日々を暮れさせ、生活に明け暮れさせるのが「暮らし」であろう。
けれど2人で居れば、大抵のことは乗り越えられる。娯楽にさえなる。
この短編集のように、短い、些細なエピソードをたばねて、
選りすぐった言葉を丁寧に重ねて生きていきたいと思った。
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桜木さんの小説を結構読んでいると自負していますが、ヒロインが好きだと感じた小説はこれが初めてかもしれません。
地の文の情景描写に登場人物の心理描写を紛れさせながら言いたいことも鋭く突いていく手法はいつも以上に冴えているなと感じさせられました。二人暮らしの空気感がとてもよく
表現されており手練れ、という感が強くなってきました。
一章づつ男女の主観を入れ替えて語っていくのもその空気感を現わすとても良い効果になっているように感じます。
「つくろい」と「ひみつ」が好きでした。
「つくろい」では涙が出ましたね。親というのは切ないものだなと感じました。
ヒロインのお父さんの人間性も好きでしたね。
立派な人ほどそういう人には見せない二面性ってある気がします。
帯に「著者著作の中で最幸小説」とうたってましたが、
確かに。今までの作品は読むと重く沈んだり、心が殺伐とした感じなるものが多かったですが(でもその感じが桜木さんの小説の良さだと思うし自分はその感じが好きです)、本作はじんわりとしんみりと心が温かくなるような感じがありましたね。