見えない都市
著者 イタロ・カルヴィーノ , 米川良夫
現代イタリア文学を代表し世界的に注目され続けている著者の名作。マルコ・ポーロがフビライ汗の寵臣となって、様々な空想都市(巨大都市、無形都市など)の奇妙で不思議な報告を描く...
見えない都市
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商品説明
現代イタリア文学を代表し世界的に注目され続けている著者の名作。マルコ・ポーロがフビライ汗の寵臣となって、様々な空想都市(巨大都市、無形都市など)の奇妙で不思議な報告を描く幻想小説の極致。
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広大無辺なフビライ汗の帝国にあるはずの諸都市のコレクション・カタログ。汗の寵臣マルコ・ポーロが語る紀行は、現実と幻想の垣根を取り払い、時空の垣根を取り払い…。
2003/07/15 00:56
8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ(JPIC読書アドバイザー) - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦後イタリアを代表する世界的な作家カルヴィーノは、バルチザン体験を元にしたネオ・レアリズモの小説で出発し、奇想天外な寓話やらメタ・フィクションと呼ばれる実験的な作品、SF味ある幻想的で美しい小説などで常に物語の可能性を押し広げていった——熱狂的なファンが多いから、半分も読破してない私がこんなことをわざわざ書き出していると、「何だよ、今さら」と舌打ちされてしまいそうな気がして、及び腰になる。
ハードカバーで『マルコ・ポーロの見えない都市』として出されていた本作品は、近年晴れて復刊されたので買おうと思っているうち、あれよあれよの品切れになってしまった。しかし、「待てば海路の日和」とも言うべきか、このたびの有難い文庫化である。作風は、上の「奇想天外な寓話やらメタ・フィクションと呼ばれる実験的な作品」というところに属する。
さまざまな空想都市を描いた「幻想小説」であるので、読み終わった人が何か書くとすれば、独自の「読み」のあり方を提示するより他にないだろう。
鎌倉幕府を震撼させた元寇、時はその時代で、チンギス汗から5代目のフビライ汗に『東方見聞録』のマルコ・ポーロが仕えたという設定である。シェラザードよろしく汗の支配する土地に散らばる都市の様子を語るのであるが、話が進んでいくうち、どうも時代設定や帝国の領土という境界線が崩れてくる。マルコ・ポーロが走破してきた都市について語るという前提すらが崩れてきて、彼の報告が体験に基づいたものか幻想の産物に過ぎないのかが判然としなくなる。つまり、そこでも境界線が崩れていく。
イシドーラ、アナスタジア、マウリリア、イパツィア、フィリデなどユニークな響きの名を持つ都市の景観や成り立ち、不思議な属性などが語られていくが、後半ともなれば現代の都市のパロディーかと思われるものも登場する。だからこれは近代文明批評にも通ずるという「読み」も可能だろうし、魔法使いにわざを披露してもらうつもりで展開されるイメージに身を預ける「読み」もできる。奇妙な章立てに秘められているかもしれない作為を解く「読み」もあろうし、この都市群が他の作家や芸術家たちに与えた霊感を強引に重ねていく「読み」だってある。
私はと言えば、上のいずれの「読み」も意識しながらページをめくったが、他に二つのことを感じた。
フビライ汗とマルコ・ポーロの関係は、渋澤敬三というパトロンと、その庇護を受け50年かけて16万キロの距離を歩きつづけた民俗学者・宮本常一にどこか似ている。このふたりについては、『旅する巨人』という佐野真一氏の快著に詳しい。本当は自分も旅したかった渋澤が、財閥の総帥として事業に専念しなくてはならないがため宮本に思いを託し、取材者として類いまれな才能をもつ彼の見聞に耳を傾けるのを楽しみにしていたという。支配者の立場、そして語りの真贋。
いまひとつはネット上の紀行だ。リンクを辿り様々なサイトに飛んでいくうち、信じられないカルトな世界に迷い込むことがある。昔訪ねた遠い国の都市の記憶にも似て、それはカルヴィーノが取り払った垣根のないどこかの世界のようだ。
フビライ・ハーンは語る
2003/09/20 23:14
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ううむ、マルコポーロの奴めが。わしの所から姿をくらましてどのくらい
の年月がたつというのだ。時空を超えて旅をしているやつのことだから
またどこかで、荒唐無稽な話をしているのだろうと思っておったが、久々
に、また現れて、他の書物の感想などを語っておるわ。
しかし彼の話術は見事なものだ。見えない都市などというわしの無理難題
に答えて語ってくれおったこの物語は、今でも夢に出て来る程、あざやか
なヴィジョンを持っておった。今でも不思議なのは、見えないものがなぜ
彼の眼には、こうも細かく見えたかということだが、わしの元の置いて
いったこの一冊の本を読み直すごとに、ますますよく見えてくるのだ。
ええい! この見えない都市がどこに存在するのか、また教えに来てくれ
ないとわしは安眠できぬぞ! マルコポーロ! なにしろ55もあるのだ。
また彼は、蜃気楼の彼方に消えてしまい、私めも定かな場所はわかりま
せぬ、などといいながらまた新しく見つけて来たという魅力的な都市の
話をとうとうと語り出すのであろうが。それでもよい。またわしの前に
参ずる日まで、この書物を何度でも読み返す事としよう。
マルコ。そちの言う通り、まさしく浮き世は夢のごとしじゃのう。
最近わしもひとつ耳にした事があるぞ。なにやら日本という国のトーキョ
ーなる都市が、そちの言う見えない都市そっくりだということだが、
なにしろそちが語ってくれないことには、わしにはイメージがまったく
湧かないのだ。またあらたな話をしにわしの元へ来てくれ。
それにしても、カルヴィーノなる作家が、なぜこうもマルコとわしの間で
かわされた会話を寸分たがわず、すばらしい書き言葉に出来たのか?
これも不思議な事だ。おそらくカルヴィーノも見えないものが見える卓越
した能力をもっておったのであろう。この鬼才にも一度会ってみたい
ものだ。なに! カルヴィーノは他にも面白い話を沢山書いておるだと!
早くわしの元にそれらすべてを持ってくるのだ。マルコが来るまでの
夜長の楽しみにするとしようか。
イタリアの国民的作家とも呼ばれたイタロ・カルヴィーノ氏のとっても興味深い空想小説です!
2020/05/22 11:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、イタリアにおける20世紀の国民的作家と呼ばれ、多彩な作風で「文学の魔術師」という異名をもったイタロ・カルヴィーノ氏の空想小説です。同書は、探検家マルコ・ポーロが訪れた諸都市についてモンゴル帝国のフビライ汗に語るというストーリーなのですが、マルコ・ポーロが語る都市はたぶんカルヴィーノ氏の空想の産物です。70の丸屋根が輝くおとぎ話の世界そのままの都、オアシスの都市、現代の巨大都市を思わせる連続都市、無形都市など、どこにもない国を幻想的に描き、読者にひと時の味わい深い感動を夢を与えてくれる一冊です!
都市の明暗
2015/11/15 15:46
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:KEN - この投稿者のレビュー一覧を見る
マルコポーロがフビライ汗に訪れた空想都市の報告を行うという内容。
魅力的なのは、その報告内容である。ページを捲るごとに、次はどんな都市が報告されるのかと期待してしまう。
55の都市が報告されるのだが、住みたい、あるいは憧れるような都市は残念ながらなかった。いわゆるユートピアはついに出てこなかった。
どんな都市にも明暗があることを示唆しているようであり、筆者の文明論が述べられているようでもある。
まるで、詩を読むように、音楽を聞いているように、空想に浸った後に訪れるような読後感が味わえる。
詩的・数理的な一書
2024/01/07 13:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『見えない都市』というタイトルに惹かれました。幻想小説とあったので、SF小説をイメージしていました。読み進めてみると、ちょっと様相が違いました。
まず目次を見て、(?)と思いました。各章のタイトル語の末尾数字が順列になっていない・・。同じタイトル語があったので、どこかで繋がるのかな、という位にしかその時は考えていませんでした(後述に記した訳者あとがきで判明)。また話の展開は割と単調で(というか単調過ぎ)、只管にマルコポーロが語り、区切りでフビライ汗とマルコポーロとが会話の遣り取りをするという構成になっています。フビライ汗との遣り取りが哲学的要素を擁しています。
本文を読了後に訳者あとがきを読み進めた所、前述した各章のタイトル末尾の数字が数理的な配列になっている事が判り(表にして示してありました)、吃驚しました。何か意味はあるのだろうと予想していましたが、数理的なものとは思っていませんでした。私自身に於いて意味性を見出だすには至れませんでしたが、意図を汲み取る事が出来たら尚良しだと思いました。
ジャンル的に独特感があります。その点を含め、訳者あとがきでカルヴィーノの経歴を知る事が出来ました。惹き込まれるような関心を持ちました。著作を調べた所、興味を懐いたのが三部作(木のぼり男爵、まっ二つの子爵、不在の騎士)だったので、手を伸ばしてみようと思います。
カルヴィーノお得意のほら話
2019/12/15 22:08
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
カルヴィーノが書くマルコポーロがフビライに伝えるいろんな奇妙で可笑しい都市の話というだけで、その話がまともでないことが想像できる、その話を聞いているフビライですら「そのほうが語って聞かせる国々をことごとく訪ねる暇が、いつそのほうにアあったのか不思議なことよ。そのほうは一歩もこの庭から動いた様子さえないように朕には思えるのだが」と言っているのだから、皇帝自身、その話が本当の話でもほら話でもどちらでもよかったのであろう。カルヴィーノはマルコポーロに「われわれが毎日住んでいるこの世こそ地獄だ」とも言わせている。身もふたもない結論ではあるが、そんな世の中だからこそ空想都市の話を聞きたくなるのかもしれない