ほむほむとの違い。
2023/11/26 08:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雨宮司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いきなり大きなタイトルにしてしまったが、おそらくは理解されにくさ故に、両者が並び称せられる時代があった。簡単枡野短歌は、一見解かりやすい。難しい言葉を使わない為に、一読した限りではそう思わせるのだ。しかし、何首も(何度も)読んでいると、どうもそんなに単純なものではないぞと、思わされるのだ。時を追う毎に増えていくのだが、暴力への衝動めいたものが見られる様に感じられるのだ。私はこれらの作品群が詠まれた背景を知らない。しかし、それらの暗い衝動を意図的に省いている穂村弘の短歌よりは、読み手をふるいにかける度合いが、逆に強い。簡単かもしれないが、内実は分かりやすくはなく、軽やかだが深みがある。凡人は己が美点のみを見せようとする。しかし、枡野は己が全てをさらけ出そうとする。だからこそ、多くの人が隠そうとする暴力性が見えるのだ。それは諸刃の剣で、美点であると同時に大きな欠点ともなり得る。ただ、それがあるからこそ、枡野の短歌は輝くのだ。暴力性への衝動は、実は万人に存在する。多くの人はそれを隠すが、枡野はそれをさらけ出して向き合おうとする。露悪的なのではなく、己が感情に正直なのだ。それは大きな強みだ。枡野にはそれを失ってほしくはないし、失えば魅力の半ば以上は減じてしまうだろう。是非とも無冠の帝王であってほしいと思う。それが枡野の強みとなるならば、ね。
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枡野浩一全短歌集を読みました。
枡野さんの本は『かんたん短歌の作り方』だけしか読んだことがなくて、その中で紹介されている作品や、創作論みたいなものを知っているだけでしたので、作品としてまとまって触れるのは初めてでした。
素直に楽しめない部分と心に染み込んでくる部分が両方ある歌集だなと思いました。心のどこかでこの歌集に浸ってはいけない感じがして何かの抵抗が生まれたり、揺さぶられたくないところを執拗に攻め込まれているような感覚になったりもしました。
でも、読んでいくうちに枡野短歌に対する抵抗がゆるんでいきます。言葉にできなかった、憎しみや、絶望や、悲しみが、湧いてきて、切ないなあと思いました。
それらを言葉にしてしまったらどこにもいけなくなると思っていたけど、枡野さんはめっちゃ言葉にしてて。短歌という型の力もあって濃厚な切なさを味わいました。
一つだけ歌をピックします
「2022 虹」より
飛びたいと十三歳で思ってた 五十三歳でも思ってる
書き下ろしの歌なのでしょうか、2022年なので近々の歌のようです。
この「飛びたい」は「自殺」と「活躍」の二つの意味がかかってると思います。
40年間、真剣にそういう矛盾した格闘をしてきたんだと思います。だから良くも悪くもこんなに人の感情を揺さぶるのだと思いました。
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枡野浩一(1968年~)氏は、歌人、詩人、小説家、エッセイスト。
私は50代の会社員で、近年短歌に興味を持ち始め、俵万智、穂村弘、東直子、木下龍也、岡野大嗣、九螺ささら等の歌集や短歌入門書、また、山田航の『桜前線開架宣言』、瀬戸夏子の『はつなつみずうみ分光器』、東直子/佐藤弓生/千葉聡の『短歌タイムカプセル』等の現代短歌アンソロジーを読み、1年ほど前から投稿を始めた新聞歌壇では、複数の歌を選んでいただいてもいる。
枡野氏については、これまで、上記の『はつなつ~』と『短歌タイムカプセル』の収録分、歌集『ハッピーロンリーウォーリーソング』(既に絶版なので中古で入手)、入門書『かんたん短歌の作り方』を読んできたが、今般行きつけの大手書店で出版されたばかりの本書を目にし、早速入手した。
枡野氏は、『はつなつ~』の中で、短歌を詠まない人(=歌人以外)にもわかるように短歌をつくっており、それが「かんたん短歌」(糸井重里が命名した)と呼ばれていると書かれ、また、穂村弘の『短歌という爆弾』の中では、「歌壇に完全に背を向けて存在感を維持できた初めての歌人」、「比喩ってかっこ悪いよねとか、これまでポエジーを支えるとみなされていた要素を否定してみせた」などと評されているのだが、それ故に(逆説的に、とも言えるが)、短歌の素人・初心者にはシンプルに「共感」や「納得感」を抱きやすいし、自らの作歌の参考にもなる。
また、私は、若手の木下龍也と岡野大嗣が好きで、彼らのような歌を作りたいと思っており、それは、彼らの歌が、近代短歌(現代短歌の多くもそうだが)の主流である、自分の存在を詠う“私小説的”な歌とは一線を画し、「ふとした瞬間に兆した感情を共有すること」を目的としたポストモダン的な歌だからなのだが、枡野氏が、最近の穂村弘との対談の中で、木下や岡野の作風は自分と近いと語っていることも、半分納得し、興味深く感じた。(ただ、木下や岡野は枡野氏よりもライトかつポジティブな印象の歌が多い)
本書で改めて枡野短歌を味わいたいと思うと同時に、枡野氏のような(歌壇に背を向けた)歌人が新聞歌壇の選者になったら面白いのではないかと思ったりもした。
(できれば、1頁に1首ではなく5首くらい載せて、薄い本にしてもらえると有難かった)
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圧倒的な本でした。
25年か、或いはもっとなのかわかりませんがその年月の枡野浩一さんの歴史を走馬灯のように見える壮大な一冊であり、1ページに一首という贅沢な構成からそのひとつひとつを丁寧に考えながら読めるので、漱石の草枕のようにどこから読んでも味わい深いものになるはず。
読書が好きでない人でも、1ページ分の文字の分量が少ないので読みやすいし、万人におススメできる本じゃないかと思いました。
装丁もムック本のようで飾らないあっさりとしており、周囲も、段差のないカットが手に取ったときに読みやすい。
すべてにおいてよい本でした。
紙をもっと薄くしてもっと載せる事も考えられたでしょうが、それをしないのは理由があったのだろうと思っています。
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だんだんと『インターネットでよく見られる、周りへの攻撃的な態度』が歌に乗っていく過程が見えるようで結構ショックだった
・説教という欲情をする君のカチカチになる正論の棒
・本人が読む場所に書く陰口はその本人に甘えた言葉
・家を出て稼いだことのない人は何かを親のせいにしている
このあたり、あまりにもインターネットのマイナスかつエコーチェンバー的な空気を吸いすぎている歌だと思う。
正直、近年の歌は読んでいて全部キツいし全部露悪的だし全部がインターネットの悪い側面に見える。
でも、初期の歌はやっぱり好きなのでたまらない気分だ
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死とかちょっと暗い短歌が多くて刺さらなかったから星3、
好きな歌を書いてみたけど、違う気分の時に読んだら刺さる歌はまた別なんだろうなと思う。栞がサラダ記念日の俵万智さんとの手紙で、よかった。
「がっかり」は期待しているときにだけ出てくる希望まみれの言葉
歩きだす 冬のにおいを吸いこんで 今朝見た夢を思いだしてる
この歌は名前も知らない好きな歌 いつかも耳をかたむけていた
あの人は元気でしたか? いや別に何もおしえてくれなくていい
ほんとうにそのことだけをまっすぐに願えただけでいい初詣
だれかからメールがたまに来るような よい一年でありますように
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短歌を好きになるきっかけは枡野さんの本でした。
「靴下のたるみをなおす要領で俺を肯定したい日もある」
いつ読んでもいい。自分も短歌を作りたくなる。そんな本です。
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図書館から借りた本だからしないけど、歌の周りに感じたことを書きたいと思った。この本が出たのを知り、短歌を作るのをやめたのかと思ったが、そうではなさそうでひと安心。ちなみに私のPCは一番に『枡野』が出ますよ。
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わかりやすい言葉で表現されていると思ったら、経歴に『かんたん短歌』を提唱と書かれていた。
これは良い。とても良い。ずばっとダイレクトに来る。景色の切り取り、言葉選びが面白い。私の日常に存在する物もあれば、目を背けたくなる物もある。付箋を貼りたい頁がたくさんあった。図書館本なので購入しようと思う。
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あるテーマを31文字で表現するってなかなか大変だ。なのに、読むというより声に出したくなるぐらい耳馴染みがよい。
好きなのは
「どっち道どの道どうせ結局はとどのつまりは所詮やっぱり」という歌。
一方「愛について 2006」のタイトルには、著者の離婚経験をもとに書かれた(であろう)歌が中心にまとめられている(はず)
「ドメスティックバイオレンス」のような直接的な現代語が拍数の半分を占めるのが強烈で、歌に収まりきらない著者の思いが重くさし迫る。
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すごい。こんなに一首一首が作者の手を離れてただそれ一首として生きていて、分かりやすく意味のある歌を作れる人は、、、???
短歌をほとんど読んでいないのでは?とさえ思わされる
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本書のタイトル「毎日のように手紙はくるけれどあなた以外の人からである」
最後の方に出てくる短歌「会いたくて会えない人はあなたには会いたいなんて思ってません」はアンサーソングのようだけと、違うのだろうか?
読むタイミングによって刺さる短歌は違うので、何度も楽しめる本。
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桝野浩一さんのデビュー25周年の全短歌集。
帯に小沢健二さんが
「世の常として、他人に言えない孤独を歌にすると、他人に言えない孤独を抱えた、多くの人に愛される、のです。
でも、歌は。
あぁ、歌は。
枡野さんのこの御本、とてもうれしい」と書かれています。
特別栞 俵万智さんと枡野浩一さんの往復書簡付き。
以下、共感した歌にひとこと感想をつけます。
○いろいろと苦しいこともあるけれどむなしいこともいろいろある
苦しいのは辛いけど、むなしいのも辛いですね。
○毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである
毎日のようにいいね!は来るけれどあなた以外の人からである。
○「ライターになる方法をおしえて」と訊くような子はなれないでしょう
歌壇に載る方法を教えてとは私はまだ誰にも訊いてはいませんが。
○差別とは言わないまでもドラマではホステスの名は決まってアケミ
私の親友のAちゃんの名はアケミですが愚痴を聞いたことはないです。
○努力とは希望を持っている人にだけゆるされたまぶしい助走
まだ希望を全部捨てたわけではないです。
○ほめているあなたのほうがほめられている私よりえらいのかしら
ほめてくれる人は人格者だと思います。
○ツイッター「フォローさせる」は選べない 愛を強要できないなんて
「フォローさせる」なんてあるわけないですね。
○誕生日おめでとう きょうも好きでした あしたもきっと好きだと思う
素敵な一年になりますようにとか言いがちですが誕生日に好きでしたという人はいないですね。
○私には才能がある気がします それは勇気のようなものです
いいですね。
○しめきりに追われるような毎日はいつか僕が夢みた暮らし
しめきりなんてないので自分で目標を立てています。
○意地悪な人ほど強く生きぬいて優しい人が死んで悲しい
確かにあり得る事態です。
○会いたくて会えない人はあなたには会いたいなんて思ってません
とても悲しいけどそうなんでしょうね。
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表題になっている短歌が好きだったので読んでみた。初読みの詩人さん。わかりやすく、一ページに一行ずつ配置されている短歌は、動き出しそうなほど存在感があるものもあって、最初から最後までずっと楽しく読めた。
そして、全体を通して、個人的に自分がずっと感じている男性の怖さみたいなものを感じた。怖さを感じるから悪いとか好きとか嫌いとかではなく、ただ感じたというだけ。
何が怖いか言葉にするのはとても難しい。だけれど、本能的に怖いと思ってしまう相手がいて、(自分が背が低いからか)背の高い女性とか、なぜか毛量の多い女性も怖い。意地悪な女性はもちろん。そして男性はその方の性格にかかわらず、大抵みんな多少なりとも怖い。
そして、私が感じるその男性の怖さみたいなものが短歌から漏れ出ていて、読んでいてずっと少し体が縮こまった感じがしていた。
特に好きだった歌
◯好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君
◯抱きしめた夢の中では生きていて重さもあって温かかった
◯消しゴムでこすったせいで真っ黒になってしまったようなサヨナラ
◯見覚えのある絶望をニ度目なら愛せるような気もしています
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真夜中の電話に出ると「もうぼくをさがさないで」とウォーリーの声
毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである
「元気です」そう書いてみて無理してる自分がいやでつけくわえた「か?」
靴下のたるみをなおす要領で俺を肯定したい日もある
傷口をなめ合おうよと近づいて「なおったから」と拒まれている
好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君
新しいIloue you の言い方は「君のエイズをうつしてほしい」
太ってもやせてもたぶん君よりは宮沢えりは百倍美人
あの野郎の追悼文は俺が書く ほかのだれにも書かせはしない
書くことで落ちこんだなら書くことで立ちなおるしかないんじゃないか?
生きていてよかったなんてよく思うあす死んだっていいとも思う
誕生日おめでとう きょうも好きでした あしたもきっと好きだと思う