よく見ると、原題はサマータイム・ブルースではないのですね。いい訳です。
2010/11/29 22:28
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投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
数年前、「サマータイムマシーン・ブルース」という映画を見た。史上もっともゆるいタイムマシンもの、という謳い文句だったと記憶する。ものを知らない私は、だいぶ後になって、本書のタイトルをパロディにしたことを知った。そんなきっかけで気になっていた本書を、新版になったのをお機に手にとってみた。いわずもがなだが、映画と本書とは内容的にはまったく関連はない。
1970年末とおぼしきアメリカ・シカゴを舞台にした、私立探偵ハードボイルドものである。フィリップ・マーロウものとの違いは、活躍年代と場所、そして性別くらいなものではなかろうか。性別のちがいをあまり意識させないくらい、主人公のヴィク・I・ウォーショースキーはかっこいい。銃撃のような過酷な状況でも冷静な判断ができ、殴られても立ち上がり、そしてジョギングも欠かさない。子どもにはやさしく、お酒には強く、ご飯はきちんと食べ、そして色恋にもトラブルにも積極的である。主人公が女性私立探偵なのは、単に著者が女性であるからばかりではなく、フィリップ・マーロウを現代に蘇らせてもパロディーにしかならないからだろう。
もうひとつマーロウとの違いをあげれば、彼は一匹狼の印象が強いのに対し、彼女の周囲には、頼もしくてかっこいい人がいることである。父母は亡くなっているにせよ、父の友人であった刑事、彼女の避難港みたいな女性医師、ギブアンドテークの関係のようでいてツーカーの新聞記者。彼女の強みである。
このようにくっきりとした人物像に比し、彼女をとりまく空気はどこか弛緩している感じがする。必ずしも「夏だから」だけではないのではないか。右であれ、左であれ、目標を見失っていた、70年代末のアメリカ独特の雰囲気なのだろうか。
ところで、新版の表紙イラストのヴィクは、白のタイトスカート姿である。今風でかっこよく、イメージにとてもあっているのだが、作中にこうした姿はあったかなぁ? 主人公はファッションにも手を抜かないようで、その日その日にどのようなものを着るべきか、についても克明に記述されている。せっかくなら、様々な人の手によるヴィクのイラストを見てみたい。
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投稿者:J・P・フリーマン - この投稿者のレビュー一覧を見る
女性の私立探偵が主人公のハードボイルド小説。ハードボイルドにありがちな展開を一通り包括しています。フィリップ・マーロウの「強くなければ生きていけない。優しくなければ生きている価値がない」の台詞がぴったりくる主人公です。
強く、優しく、痛みのわかる女探偵
2015/10/02 10:40
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投稿者:papanpa - この投稿者のレビュー一覧を見る
中年バツイチの女性私立探偵 V・I・ウォーショースキーは、信託銀行の取締役であるという男から、姿を消した息子のガールフレンドを探すように依頼されます。
しかし、彼らが暮らしていたコミューンを訪れてみると、そこには頭部を撃ち抜かれた青年の死体が・・・。
個人的感想
強く、優しく、痛みのわかる女探偵 V・I・ウォーショースキー。
テンポも良く、読みやすく、後味爽快です。
以前に読んだ名作?ハードボイルドより、断然面白かったです。
おススメです。
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投稿者:future4227 - この投稿者のレビュー一覧を見る
パレツキー初読み。V.I.ウォーショースキーというちょっと風変わりな名前(実際、作中の悪党にもなかなか名前を覚えてもらえない)の美人私立探偵が主人公のシリーズ第1作目。パソコンも携帯もない時代の超アナログ社会が舞台だけに、とにかくフットワークと体力が勝負。そして空手の使い手でもある彼女は殺し屋を相手に大立ち回り。最後はスカッとさせてくれるが、ハードボイルド小説にしてはちとキャラが弱いかな。個人的にはもう少しド派手に暴れまわって欲しい。でも、当時の女性の社会的地位からすると充分型破りな女性なのかも。
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主人公のヴィクは女性探偵ですが、マフィアに脅されても、事務所を荒らされても、決して自分を曲げない信念がすごい!
一人称で語られるヴィクの心情や他の登場人物たちとの会話もかなり魅力的。
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V・I・ヴォーショースキー・シリーズ
息子ピーターの恋人アニタ・マグローを探してほしいとジョン・L・セイヤーの依頼。捜査を開始し大学に向かうが・・・・。ピーターの部屋で発見したピーターの遺体。ピーターがバイトしていた保険会社の部長ヤードロー・マスターズの証言。依頼人は本物のセイヤーではなかった。かくまわれるアニタ。アニタの父親アンドリュー・マグローの正体。マフィアであるアール・シュマイセンの脅し。射殺された本物のジョン・L・セイヤー。醜聞を恐れるセイヤー家。セイヤーの娘ジルの依頼。ジルを保護するヴィク。
2011年10月13日読了
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3
焦燥と退屈と癇癪持ち達の夏。
語りにもう少し毒やウイットが欲しい。
何故か突然怒りだす登場人物が多い。
終盤のスピード感・緊迫感はなかなか。
《勝手にサマーアクションシリーズ》第4弾。
ただでさえ暑い夏なのに、そんなに怒ってばかりいると増々暑くなってしまうよ。
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うらぶれた探偵像、事件をめぐる警察との衝突、ギャングの脅迫など、序盤の展開は定型的だが、主人公の魅力で最後までもたせる。
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新版ではライトノベル調の表紙ですが、内容はロジックやトリックよりもハードボイルドであることに重きを置いている印象がありました。
80年代前半のシカゴが舞台になっているので、パソコンや携帯電話は登場しません。アナログの世界とハードボイルドと女探偵とが非常にマッチしており、荒々しさの中にも軽快さと皮肉のスパイスが効いているたように感じました。
ミステリの要である事件の真相は、簡単ではないものの非常にシンプルで正直物足りなかったです。また、登場人物が多く、シカゴの地理が分からないため、時々混乱しながら読み進めることがありました。よって☆は4つで。
今後新版をハヤカワさんが出版されるのであれば、できればシカゴの簡単な地図をつけてくれると嬉しいです。ミステリに地図や間取り図はつきものだしね。
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いわゆるハードボイルドミステリー。の、看板作品を読んでおこう、という個人的な試みの一つ。
サラ・パレツキーさんというアメリカの女性作家。V.I.ウォシャウスキーという名前の30代?の女性私立探偵が活躍するシリーズ、1作目。
未見ですが、キャスリーン・ターナーさんが主人公を演じた映画「私がウォシャウスキー」(1991)もあります。
キャスリーン・ターナーさんは好きなので、その内観たいものです。
面白かったです。
正直に言うと「ゴッドウルフの行方」とは段違いに面白かったです。
小説のアメリカでの発表は1982年だそうです。舞台はシカゴ。
私立探偵のウォシャウスキーさんが、大手組合活動家、大手銀行家、大手保険会社、マフィア、の4者が絡んだ陰謀に挑む。
あらすじは別として、なんで面白かったのか、と考えると。
主人公のキャラクター。主人公が「正義の味方活動」をするモチベーションというか、主人公の歪みというか、持ち味というか。
だと思います。
フィリップ・マーロウさんは、資本主義大国アメリカが独り勝ちに近い爛熟の時期に、
恐らく人類が初めて経験する欲望の集団マラソンのような大都会で、
「そこにいるべからざる、高貴な知性とモラル」と持ってしまっている人だったんだと思います。
そして、そこで生きていくべき撃たれ強さと俗なる人間関係への忍耐能力を持っていたんですね。
そして、大事なことは、予め自分が敗北と孤独に所属するべき流れを認める虚無さ、自虐趣味を持っている。
それが何故そうか、という具体的な理由が説明されなくても、それが一人称の文章の意識の根幹にある。と思うんです。
だから実は、欲望の集団マラソンたる資本主義都会生活を描写する、ある種のパサッージュというか、文明批評というか。
そういう香りが、エンターテイメントの装いの粗筋を流れながら一貫してあります。
それが最大の魅力なんだと思います。
そこンところのいちばんの魅力が、「ゴッドウルフの行方」のスペンサーさんには弱かったと思います。
「単独行動の正義の味方が世間のシステムの中に存在する悪事を懲らしめる」という枠組みは同じなんですけど、
スペンサーの視点、という味付けが、欠けている。コリコリした読みごたえがそこには少なかったと思います。
言ってみれば、歪みが足りないというか。マッチョすぎるかな、というか。
(でも、「そういう方が読み易いし好きだ」、という嗜好も、もちろん人それぞれ、あるいは読み手がその時に求めているモノによりけりで、大いにアリだと思いますが)
「サマータイム・ブルース」のウォシャウスキーさんは、やっぱり女性ですから。
女性だけどタフに暴力の街で自立を貫いていく。孤立を貫いていく。
それだけでもう、ここの言うところの「歪み」が作りやすいんでしょうね。
圧倒的に少数派であり、そこに無理がある。要するに、自虐があるんですね。
主人公が世間のマジョリティから対極の地点に居る、というかそこに居たい、という心情的な背景がはっきりするんですね。
やっぱりまだまだどうして、世の中の歯車を強引に回しているのは、男たちの世界。
人種差別と同じく性差別も、無くならない問題です。その問題がそこに在る、私たちの中にも、必ずある。という考え方が当たり前になっただけですからね。21世紀になっても。
だから、世の中の勝ち組システムに上手く乗じた形での暴力、という強者に対したときに。
当然、「正義の味方」たる主人公たちは、弱者の側に立つんですが、
ウォシャウスキーさんが弱者を守るときに、それは、見下して庇護・同情している、というだけでなく。
「そこで可哀そうな目にあっているのは、自分でもあるのだ」という感じ方をしているのが、判るんですね。感じられるというか。
「世の中のシステムから切り離された独立独歩の地点に居て、完全自分裁量の経済活動をして、心理的にも自立して。
個としての能力とコネクションと尊厳に満ちて、誰にも見下されず、そして媚びず。
最高の距離感の仲間と友人がありながら、独り巨悪に立ち向かい、困難があっても最後には知恵と精神力とストレス解消な自衛暴力の反撃で勝利する。
そして誰の賞賛も浴びずに背中を見せて去っていく」
というのが、恐らくハードボイルド・ミステリーの、物語としての疑似体験の甘い美味しい、究極のポイントだと思うんです。
そうすると、そもそも、そういうスタート地点に居る、説得力とリアリティのある理由、が大人としては欲しい訳ですが、
それがこの物語には、あった気がしました。
お話としても、まだまだ60年代-70年代のアンチ権力運動の香りが残る中で、
●組合=なんとなく反体制左翼イメージ
●銀行家=なんとなく体制側右翼イメージ
●保険会社=なんとなく中立的な「大人の難しいシステム」イメージ
が、実はグルになっている、という「理想無き欲望の街」世界観が作られて、
それに、アンチ権力運動の中で自家中毒を起こしているのんきな大学生たちが絡む。
そのどれにも、(どの家族イメージにも)はみ出している主人公と、ベタながらそこに絡むワトソン的な女性下町医師という相棒。
既存の探偵冒険物語を、なんていうか、ポストモダンな価値観の時代に、男女を裏返しに焼きこむ工夫を積み上げて、
新鮮な世界観が作れていると思いました。
起承転結で言うと、ちょっと「承」あたりでダレたんですが。相棒的な女医ロディさんが出てきた辺りで俄然、世界観がハッキリした感じがありました。
それまではやや、主人公が男性社会に無理矢理肘鉄を打ちまくっている感が、ちと胃にもたれたんですが。
信頼して依存する相棒が出てきたことで、対比的に小説世界全体が豊穣になった気がします。
このシリーズは今も健在なようですね。
その代り、年1作のような多作ペースではないようですが。
近作では携帯パソコンの時代背景になっているようで、
そのあたり、また読んでみても良いな、と思わせてくれました。
新訳らしく、読み易かったです。
(新訳ではないのか?「新版」?)
でも、表紙のデザインは、全然好きじゃないですが(笑)。
##########以下、個人的な備忘録としてのあらすじ############
①大学生男子の息子を探して欲しい、と銀行家からの依頼。
(実はきっかけは、依頼者が主人公の父=元警官(もう死亡)を知っているからという理由あり)
②調査したら、大学生男子は射殺体で発見。同棲していた女子大生は行方不明。
その女子大生は、大手組合活動家の娘。
③大学生のアルバイト先の保険会社を主人公が取材。
さらに大学を取材。主人公が銀行家の息子なんだけど、左翼志向だったこと。
④主人公をギャングが、手を引けと脅して暴力。
⑤死んだ大学生男子の妹、の情報。
そして、逆算思考で、組合活動家と銀行家がつるんでいるのでは、という仮説。
男子大学生の父=銀行家、が殺害される。
⑥大学生男子の部屋の捜索から、「架空保険請求の不正」が殺人の理由では、と思う。
⑦組合活動家、銀行家、保険会社の上役、がつるんでいるという状況証拠を得る。
⑧大学生への取材と呼びかけから、行方不明の同棲女子大生と接触。
⑨男子大学生の妹の、内部情報。そして女子大生の語りから、
「男子大学生の父=銀行家」そして「女子大生の父=組合活動家」そして「男子大学生のバイト先=保険会社重役」の三者の、
架空保険金請求による不正収入、という犯罪全貌が判る。無論そこにマフィアが関係している。
⑤主人公が取材途中で恋愛関係になっている、保険会社の平社員男性。この人が捜査に協力していたが、主人公を信じ切れずに、上役=悪者、に情報を言っちゃう。
⑥平社員男性の自宅で、殺しに来た悪者たちと主人公のアクション、主人公、勝つ。おしまい。
という流れなんですね。
まあ、「粗筋は、いちばんのお楽しみどころではない。主人公が迷走する身振りと、その間ににじむ生活感や思考過程がいちばんの味わい」
というのは、他のハードボイルド・ミステリーと変わらないんですけどね。
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90年ごろに旧版で読んで以来の再読。やっぱりおもしろかった。
前回読んだあと、筋書きや事件の大筋はきれいさっぱりわすれていたんだけど、ヴィクのくらしぶりとか、ロティとのからみは「そうそう!」という感じでしっかり残っていたのがおもしろい。
正直、あそこまでの独立心はわたしには皆無なので、そんなにがんばらなくてもいいじゃない、と思ってしまうところが多々なんだけど、ジルや、あの女の子(もう名前忘れた)に対する優しさなど、ああ、こういうところがヴィクの魅力だなと再認識した。
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30年近く前の作品なんですね。携帯とか、パソコンが一切出てこない辺りは時代背景なのですが、正直な所、あとがきで指摘されるまで気になりませんでした。それだけ内容が濃く、面白いという事。女性版ハードボイルドって、なんかかっこいいです。
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スー・グラフトンのキンジー・ミルホーンシリーズとともに〝女〟私立探偵小説に一時代を築いたパレツキーのV.I.ウォーショースキーの登場は、当時かなり刺激的で話題になった。当然それまでにも女性探偵がいないわけではなかったが、真っ正面からハードボイルドを踏襲したスタイルによって、同性の読者を中心にミステリファンを開拓した意義は大きい。
本作は1982年発表の第1作で、パレツキーの意気込みが全編に溢れている。ただ、〝タフな女探偵〟の造型がやや過剰なきらいがあり、事件の関係者と渡り合うさまに不自然さを感じる。フットワークが軽く、ひたすらに猪突猛進。とにかく喋りまくり、感じたありのままに喜怒哀楽を表現する。たいした証拠も無い相手に対し、直感でいきなり犯人呼ばわりするなど、現場を混乱させることも多い。
プロットにいわゆる〝ウーマンリブ〟を絡ませるなど、ジェンダーに関わる問題意識もあるが、まだ薄い。傷ついた子どもに対して〝母性的〟に接したすぐ後に、男との逢瀬をしっかりこなす割り切り具合は、女性作家にしか描けないエピソードだ。当時の〝現代的な女〟の生き方を象徴させる理想像として、より〝ハード〟な面を強調したのだろう。贔屓の球団の試合を気にする点や、反権威的な気質は、既存の私立探偵小説に倣っており、オマージュと対抗意識が散在している。そのしたたかさをどう捉えるかで、シリーズの評価も変わるだろう。
普段、くたびれた男の私立探偵小説ばかり読んでいるせいか、その差異は一層際立つ。だが、元気過ぎる探偵の行動についていけない私には、鬱屈としていながらも情感の流れる駄目な男たちのハードボイルドが性に合っているようだ。
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探偵、VIウォーショースキーの第1作目。
タフな女性探偵が前面に出まくっており、事件があまり印象に残らない。主人公の人物が竹を割ったような性格で、好感が持てる。英文和訳のあのやたらと細かい描写が苦にならなければ楽しめるかもしれない。
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ヴィクシリーズを読んだのははじめて。ハードボイルド女性探偵物としてはオーソドックスな造りだなあと感じたが、たぶんこの作品がジャンルの元祖だからだよね。書かれたのは1982年。いま、ハリウッドで「強い女性」が活躍する作品が増えているけど、こういう作品が源流にあるんだろうなあと感じた。ヴィクはかっこいい。