玄鳥
著者 藤沢周平 (著)
無外流の剣士として高名だった亡父から、娘ながら秘伝を受けついだ路(みち)。藩の討手に選ばれながらしくじって、嘲笑され左遷された曾根兵六に、路はその秘伝を教えようとする。曾...
玄鳥
商品説明
無外流の剣士として高名だった亡父から、娘ながら秘伝を受けついだ路(みち)。藩の討手に選ばれながらしくじって、嘲笑され左遷された曾根兵六に、路はその秘伝を教えようとする。曾根は、亡父の秘蔵弟子だった。玄鳥=つばめが思い起こさせる、武家の娘の淡い恋を描いた表題作。藩主の御前で試合にやぶれ、自暴自棄になった青年剣士の再生を描く「三月の鮠(はや)」。酒の失敗で、身の不運をかこつ下級武士の心を鮮やかに描く「浦島」など、珠玉の全5篇。
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暗くて明るくて湿っぽくないカラッと爽やかな5編
2009/12/25 18:48
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体を通して感じられるのは、カラッとした爽やかさである。
不遇により討手を差し向けられる人物とか、仲間が闇討ちに失敗し死んでしまうとか、暗くなりがちな内容には陰鬱な暗さは感じられない。
そこには湿っぽさがなく、カラッした爽やかささえ感じる空気があるかさかもしれない。
『玄鳥(つばめ)』
不首尾に終わった三人の討手のうち、無傷で帰ってきた曾根兵六に対し、藩は理不尽とも思える処分を課した。
兵六は粗忽者で、路の父から秘伝の型を半分以上受けておきながら、秘伝の型の伝授はうち切られていた。
藩の理不尽とも思える処分の内容に憤った路は、あることを伝えに兵六の元を訪れた。
玄鳥(つばめ)を巡る末次家の出来事と、曾根兵六を巡る出来事が照らし合わされて描かれている。
兵六を見る女性らしい幸せを求める視点は暗くなりがちな物語に一つの明かりを灯している。
『三月の鮠(はや)』
窪井信次郎は社で出逢った、清楚でうつくしい巫女のことが心から離れない。
やっと巫女から名前だけ教えてもらった信次郎に、社の別当から政争に関わる秘密を打ち明けられる。
後日、別当の家を訪れると、別当と召使いが殺されており、巫女は消えていた。
巫女を捜す信次郎の気持ちにさせる展開が信次郎と共に巫女に心を癒される。
美しい映像が浮かび上がってくるラストシーンはとても印象に残る。
『闇討ち』
むじな屋の上げ床に集まっている老齢の剣友が三人。
その一人・清成権兵衛は、減らされた家禄を戻してやると言われて闇討ちを持ちかけられていた。
家禄が餌だと知りつつ賭に出た権兵衛は失敗した。仲間二人は事件の真相を探り始める。
事件の真相を探るミステリーと結末の爽快さが魅力の作品。
三人がよく集まっていた「むじな屋」は、物語の展開から「同じ穴のムジナ」を連想させる。
『鷦鷯(みそさざい)』
横山新左衛門は、金貸しで人に嫌われている石塚平助から、娘・品を嫁に欲しいと言われたが断った。
ヘラヘラした平助の息子・孫四郎と楽しそうに話す品に不快感を持つ新左衛門。
ある時、普請組の小頭が狂い父と妻を殺した事件の討手として現れたのは孫四郎だった。
娘を嫁がせたくない父親の微妙な気持ちと、照応している鷦鷯と品を描いている。
『浦島』
御手洗孫六が酒で失敗し、勘定方から普請組に勤め替えを命じられて十八年。
今やその勤めが気に入っている孫六は、以前の失敗での疑いは晴れ、勘定方に戻ることになった。
そして十八年ぶりに訪れた勘定方は、勝手知ったる場所ではなく、苦痛が伴う職場になっていた。
タイトル通り浦島太郎を思わせる内容と、左遷先での居心地の良さを感じている孫六を描いたユーモアを感じさせる作品。
大好きな短編集になりました。
2019/04/11 15:04
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:satonoaki - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代を描いた小説が好きで、なかでも武家と人情が絡んだものが好きです。
剣で斬り回り、残酷な描写が多いものは苦手です。
そして、好きな作家は藤沢周平さん。
なんといっても、抑え気味に書かれた文章が静かで温かく美しいです。
『玄鳥』に収められたものは、どれも心に深く沁み入りました。
掌中の珠
2004/07/25 23:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブラジリアンキック - この投稿者のレビュー一覧を見る
あなたが引き出しの奥にそっとしまってあるもの。あるいは定期入れにそっと忍ばせているもの。でなければ実家の押入の片隅で、クッキーの空き缶の中そっと眠っているもの。
それがなければ生きていけないわけではないけれど、無くしたときにはとてつもなくヘコむもの。そして何かの折にふと取り出して眺めていると、若かりし日の切ない思い出に胸を締めつけられたり、「しあわせだなぁ」なんて人目も憚らずニヤついたり、なんだかじんわりと元気が出たりするもの。ここにあるのは、そんな愛おしい小品ばかり五作品。
派手ではないし、手がこんでいるわけでもないけれど、さらっと読めて、小さく感動し、忘れた頃にまたくりかえし読みたくなるのです。人様の書いたものではありますが、これはまるっきり自分のものとして愛でていいのです。きっと。
もしもあなたが藤沢作品を読んだことがないのなら、まずはこの一冊を手にとるべきです。あとは、放っておいても全作品を読みたくなるに違いありませんから。
悲哀
2002/03/12 15:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コウ - この投稿者のレビュー一覧を見る
男であろうと女であろうと、武家として生きる者の悲しいはかなさと、それでも誇りを失わずにいる強さとが感じられる。全篇を通して、報われなくとも懸命に生きようとすることを考えさせられる。
武士
2019/08/05 05:55
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
時代小説の大御所ともいうべき著者の武士の恋などを題材にした短編集。いつもながら情緒が光り人の心模様がきれいだ。