- 販売開始日: 2013/06/01
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-111710-2
海の史劇
著者 吉村昭 (著)
祖国の荒廃をこの一戦に賭けて、世界注視のうちに歴史が決定される。ロジェストヴェンスキー提督が、ロシアの大艦隊を率いて長征に向かう圧倒的な場面に始まり、連合艦隊司令長官東郷...
海の史劇
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商品説明
祖国の荒廃をこの一戦に賭けて、世界注視のうちに歴史が決定される。ロジェストヴェンスキー提督が、ロシアの大艦隊を率いて長征に向かう圧倒的な場面に始まり、連合艦隊司令長官東郷平八郎の死で終わる、名高い〈日本海海戦〉の劇的な全貌。ロシア側の秘匿資料を初めて採り入れ、七ヶ月に及ぶ大回航の苦心と、迎え撃つ日本側の態度、海戦の詳細等々を克明に描いた空前の記録文学。
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坂の上に雲はあったか
2009/04/09 23:47
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「第二次世界大戦であれだけ負けておいて、いまさら戦勝気分に浸れない」という、まったくもって時制を無視した感慨から、「日本海海戦もの」は意識的に遠ざけてきた。ところが、「戦艦武蔵」「陸奥爆沈」「海軍乙事件」「大本営が震えた日」・・・と、独自の戦記物を著わしてきた吉村昭氏が、日本海海戦をとりあげていたことを遅まきながら知って、あわてて手に取った。氏の姿勢は、声高に戦争を非難するわけでも、何かの「理由」を強引に探すわけでもなく、ただ「ひたすらに書く」に尽きる。それでいて読者を考えこませる。対象への知的誠実さとはこのようなことをいうのであろう。
本書最大の特徴は、日本海海戦を日露双方の視点から交互に描いていることである。むしろ、主人公はロシアの第二太平洋艦隊の司令官ロジェストヴェンスキー提督だといってもよいだろう。新鋭戦艦を中心とする大規模な艦隊がフィンランド湾を出航するところから本書ははじまる。そして、彼が会戦の中で傷つき、「敗軍の将」の捕虜として生き残り、どのようにして本国に帰ったか、まで書き込んである。
かつて参考書で読んだか、それとも何かの講義で聞いたか、「なぜ日本海海戦で日本が勝ったか(ロシアが負けたか)」の理由の1つに、「ロシアの艦隊は疲れていたから」というのがあげられていた。その時は「アフリカ大陸をぐるっと回ってくれば、そりゃそうだろう」くらいにしか思っていなかったが、本書はその「大航海」を丁寧に再現する。定期的に補給しなければならない石炭と食料、北方のロシア人には不慣れな暑さ、中立国違反という理由でゆっくりと停泊できない港の数々、日本海軍の待ち伏せへの恐怖などなど。少なくない兵士がこの途中で死んでいることも初めて知った。また、この航海そのものが一大事業であったことも改めて伝えられる。アジアに着いた時は、各国の新聞が賛辞を贈ったという。
最近は、日本海海戦での連合艦隊の「丁字戦法」が取り上げられることが多いが、本書では最小限ふれているにすぎない。むしろ、戦争全体の細部を描くことにこだわっているようだ。二〇三高地での消耗戦やポーツマス講和会議はもとより、日露両国での捕虜の態度と扱い、三笠の爆沈、日比谷焼討ち事件、ロシア捕虜内部での兵士の暴動などなど、予想以上にさまざまなことが盛り込まれている。著者が書きたかったのは、「勝ち負けの理由」などではなく、この戦争そのものなのだ。
本書は東郷の死をもって閉じられるが、その前に、敗軍の将二人の「その後」も記している。艦隊の提督ロジェストヴェンスキーは、軍法会議で無罪となるも官位は剥奪され、3年後に死亡。旅順の司令官であったステッセルは陸軍軍事裁判で死刑宣告。のちに減刑されシベリア追放。老いて紅茶の行商人になったという。
史劇の語ってくれること
2016/01/18 07:33
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本海海戦に向かったバルチック艦隊の日本廻航が苦難に満ちたものであったことが印象に残る。
吉村史劇ともいうべき、淡々とした叙述は「こんな風に彼らはやってきて、闘い、そして敗れ、捕虜は厚遇された」そういうものであるが、この海戦の意義を識る日本人ならではの期待感に違わないものとなっている。
「坂の上の雲」の日本の勃興する姿との対比は鮮やかであり、大国ロシアが敗れる状況にあったことを密に描かれている。この相手があって勝負があったのだと。
太平洋戦争の悲劇に繋がる日露戦争
2019/08/02 21:44
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニック - この投稿者のレビュー一覧を見る
日露戦争とその戦後処理の様子を、とくに海戦におけるロシア側人物たちの人間描写もふんだんに混じえながら描く。国家観の未成熟な日本民衆が勝利に沸き、講和条件に憤激する挿話も随所に表し、この戦争に勝ってしまったことが、太平洋戦争の悲劇に繋がっていったことが理解できる。
海戦描写はもちろん抜群の読み応え、しかし海戦終了後の展開に多くを考えさせられた
2020/05/24 18:33
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
『坂の上の雲』を読了し、ロシア目線の戦記も読みたくて手に取った。
戦記としての読み応えはもちろん、司馬先生の描写とはまた違うロシア提督の人となりに感動を覚えるシーンもあった(最後の捕虜帰国時の日本側への食事要求などは全くいただけなかったが)。
戦闘の激烈な描写に一気に引き込まれ読み進めていったが、海戦が終わったあとの講和条約をめぐる両国の立場の違いを最後の最後まで埋めようと努力した両国全権の姿勢にページをめくる手が止まらず、読んでる当方まで背筋が伸びる思いがした。
また司馬先生も批判的に記述している通り、当時の一部の新聞が講和内容を屈辱的とし、全権と政府を攻撃することへ民衆を煽ったことに腹立たしさを感じざるを得なかった。その中で多くの民衆が最前線で命をかけて戦っている兵士の存在を忘れ「戦争継続」を遠い世界のこととして叫んでいるが、「それなら自分が行って武器を持って戦ってこい」という冷却的意見を唱える新聞が何故出現しなかったのかという、当時の時代背景やマスコミの責任にやはり疑問を感じざるを得なかった。戦勝気分に酔っている中で国民総愚民化が始まっており、愚劣なその後の戦争を回避できなかったことに繋がっていったというのは司馬史観そのものだが、本書を読んで正にこれを再認識した。
自国ナンバーワンという対立構造の現在の国際社会において、再度愚民を顕現させないような深い洞察と思考が必要と考えさせられた。
緻密な筆致
2016/12/09 15:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ME - この投稿者のレビュー一覧を見る
やや冗長な感はあるが、日露戦争の海戦から講和条約締結、その後の経緯が緻密な筆致で書かれている。『坂の上の雲』は起伏にとんだ筆致だが、本書は平坦な筆致が多い。その中で講和条約締結に至る日露全権の緊迫したやり取りは興味深かった。
同じ作者の『ポーツマスの旗』も薦めたい。