紙の本
ローマ帝国に食い殺された男の話
2006/10/29 11:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
カリグラというと 映画「カリギュラ」で有名になったわけである。一大エロス歴史絵巻という触れ込みで マルコム マクドゥエルや ピーターオトゥールという派手な俳優での 一種異様な映画である。そう言えば マルコム マクドゥエルは 「時計じかけのオレンジ」の中でもローマ帝国の兵士を演じている場面があった。彼は ローマ帝国が似合う顔なのだろうか。
ところで 本書は流石に塩野七生である。「若さが権力を持つこと」の危険性と残酷さを余す所なく描き出している。ローマ帝国の皇帝という とてつもないミッションを与えられた若者が そのミッションに心を病んでいく様は 現代の我々にも笑えないものがある。
塩野の筆致は時として優しい。3歳当時に ゲルマニクスの子供として 木靴=カリグラを履いて ローマから遠いガリアの地でよちよち歩く姿をさりげなく描き出す。その心温まる姿が残影として残るゆえ カリグラが ローマ帝国に「食い殺されていく」姿の悲惨さが くっきりと浮かび上がる。塩野の「名人芸」には 嘆息するしかない。
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
文庫43巻の18巻目。読み通せるか不安を抱きつつ読み始めましたが、大変読みやすく、世界史に無知な自分でも読めそうです。こんな授業だったら面白かったのに、と思います。
紙の本
こんなに支離滅裂な君主も珍しい
2015/08/28 17:26
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投稿者:historian - この投稿者のレビュー一覧を見る
不人気ながら皇帝の責務を果たしたティベリウスの死後、帝位についたカリグラ。アウグストゥスの直系の子孫で血筋では申し分なかったものの、皇帝になった彼のやったことは支離滅裂で、治世4年にして近衛軍団に暗殺されるに至る。
不当に悪評を浴びせられた皇帝を弁護するのが目的のはずのこの巻だが、カリグラに関してはフォローできる材料が無いために悪評のままで終わってしまっている・・・。ただ、自分には皇族に生まれさえしなければそれなりの人生を送れたであろう彼が、皇族に生まれてしまったがために若い頃に親兄弟を失う不幸な生い立ちを送ったことも彼の所行の遠因ではないかと思えた。
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名君ティベリウスの後、繁栄するローマを引き継いだのは暴君カリグラ。アウグストゥスの孫娘、アグリッピーナ暗躍開始。
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2代皇帝ティベリウスはカプリ島に隠遁し、帝国をリモートコントロールする。人付き合いは避けても、帝国の統治には投げ出さなかった。
カエサルが設計し、アウグストゥスが構築し、ティベリウスが磐石にした帝国ローマを、20代の幸運な若者が引き継ぐことになる。
3代皇帝カリグラ。若さゆえか、虚栄心か、神になろうと望んだ若者は愚政の限りをつくし、帝国の財政を破綻させ、ついには暗殺されてしまう。
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二代目皇帝ティベリウスが亡くなり、カリグラ帝の治世が始まるも
あっという間に殺されて終わる巻です。
ティベリウス、ほんまに凄い!
誇り高く、能力もあって、心も体も強い人。
(こんな人が今の日本の政界にいてくれればね)
でも、民衆は彼を好きじゃなかったのでした。
ティベリウスは媚を売らなかったから。
ローマにとって必要な地味なことを淡々と確実に行った。
カリグラは、ひどいな・・・
ティベリウスの孫とマウリタニア王を自分勝手な理由で
殺したのが、ショックでした。
ユダヤ人に対する考察も興味深い巻です。
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ローマ人に疎まれた第2代皇帝ティベリウスの治世とその晩年、そして、ローマ人から祝福された第3代皇帝カリグラの即位から暗殺まで。
本書を読み、決してカリグラは非道で無計画なだけの人間ではなかったのだと感じた。しかし、即位時に相当な黒字だった国家財政をたった4年で破綻させた点ではやはりカリグラも凡人ではないなぁと・・・。
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本巻では、歴代の皇帝の中でも、おそらく一番の悪帝であったと思しきカリグラの治世が描かれる。カリグラは、幼い時から皇位継承者として育てられてはいたが、ティベリウスの後を引き継いだときには、それでもまだ若すぎたのかもしれない。頭は決して悪くなかったらしいが、とにかく自制心に欠けるところがあり、皇帝としては全くもって不適当な人物であった。後代のネロやオトもそうだが、若くして皇帝になった人は、なにか成功出来ていない気がする。その点、19歳で政界デビューしながら皇帝の役職を完璧に勤め上げたアウグストゥスは、よほど天才的な人物だったのだろう。
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2代皇帝ティベリウスの不評ながらも着実な政治、3代皇帝カリグラの(表面的に)評判がよいが愚かな政治。散財、恐怖政治。カリグラは生きた時代が悪かったのだろうか。戦乱の時代であればもう少しましだったかも。
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面白いのは相変わらずですが、
帝政、特に「悪名」を残すような皇帝の時代に入ると、
それは「スキャンダル」を書くことにもなる。
共和政の頃には、制定された法律と、それを巡る議論、環境と葛藤とが主軸であったものが、ロイヤル・ファミリーを主役にした権力闘争の色彩が強くなる。
読み物としては、ドラマがあって楽しくはあるのですが。
それに、塩野さんの偉いところは、そういう「ドラマ」によって名を落とした皇帝の、地味で地道で評価されにくい業績を拾い出して、その重要性を説得するところにあるわけです。
塩野さんが、「ローマ人」を書いたことについて、
私は、よくまぁ、もっとも自分に適した題材を探し当てたものだ、と思ったりします。
正直、決して、物凄く巧い話が書ける人ではないということは、
塩野さんの、ローマ人以外の、主にルネサンス期のイタリアあたりを舞台にした作品を読んで思います。
心理描写が凡庸というか。
だから、愛やら恋やらが主題の小説書いても、多分、さして評価を得られたひとではないと思う。
でも、良識(というか常識)に基づいて、地道な作業のもと「一般人にわかりやすく、『法の民』の業績を伝える」仕事には、実に適した文体、能力を持ち合わせたひとなのだと。
で、その能力が最大限に発揮されたのは、むしろ共和政時代の、わかりにくい行政組織とか法律の改定の意味とかを書いていた辺りだろうなぁ、と思うのです。
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カリグラ登場。派手好きで浪費家だったんだね。暗殺の動機も塩野さんの意見に賛成。さて、クラディウスはどんな皇帝だったのだろう?
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ティベリウスは理解できるが、カリグラは理解できない。若いと見えないものがたくさんあるということか。
ティベリウスは質実剛健、不器用で人に合わせることができない、カリスマ性もない、でも、この不完全さ、人間臭さが自分はカエサル、アウグストゥスよりも好きだ。
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人気取りをせず必要な事を淡々と遂行したティベリウス、その重要性を理解せずに人気取りの事業に走ったカリグラ。ローマの為に必要な事を行った者と自分の為に必要な事を行った者。でも、最終的にはティベリウスもカリグラも当時のローマ市民から評価されなかった点では同じ。今を生きる者が客観的な評価をする事はなかなかに難しいのだなぁ。
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地中海の小島カプリに隠遁したティベリウスは、そこから
元老院に手紙を送り議決を求めることで首都ローマに
いずとも帝国をコントロールした。
しかし、元老院や市民には首都不在を長く続ける皇帝への
不満が溜まる。「皇帝は我々を見捨てのか」と。後世の歴史
家からは冷酷な皇帝として描かれることの多かったティベリ
ウスだが、著者は疑問を投げかける。
アウグストゥスが作り上げたものを維持し、継続した彼こそ
善政を行ったのではないか…と。
自分への批判を隠そうともせず「打倒!ティベリウス」を公言
して憚らないアグリッピーナやその取り巻きを国家反逆罪で
追放した皇帝は、77歳で没する。後継者に養子あったゲル
マニクスの三男を指名して。
このティベリウスを描く著者である。タキトゥスの『年代記』を
引きながら、その記述に同意したり批判したりをしているのだが、
これが滅法面白い。まるで、時空を超えてタキトゥスと討論を
しているようだ。
帝国を遠隔操作したティベリウス、私は彼の公人ではなく個人の
面に注目したい。政略結婚が主流だった時代であるから仕方ない
のかも知れぬが、アウグストゥスと先妻の間に出来た娘ユリアと
結婚する為に、先妻と離婚している。
この離婚が、彼の心に深い傷を負わせたのではないだろうか。
その証拠にユリアとは早々に別居し、別れた妻の後ろ姿を
偶然見かけた時から、彼女と顔を合わせるような場所へは
出掛けようとはしなかったのだから。
さて、3代目の皇帝となったのは歴史的にも悪評芬々のカリグラ
である。ティベリウスの堅実な帝国運営で黒字だった財政も、
人気取りの催し物の数々の開催で3年も経たずに赤字に転落
させる。
25歳にも満たずに皇帝になった若者は、政治のなんたるかを
分かっていなかった。
「若、ご乱心か」と言う訳で、カリグラを幼少から知っている武人
カシウス・ケレアを中心とした近衛軍団に暗殺され、4年という
短い治世を終える。
このケレアがまたいい男なんだなぁ~。惚れ~~。笑。。
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前半はティベリウスの治世後期について、後半はカリグラについて書かれていますが、サドとか変態趣味とか残虐非道とかとかく評判の悪いカリグラが実際はそこまで酷くもなかったとされています(塩野氏の見解では)。ただ、政治経験のないある意味無邪気な若者が全権力を握った時の恐ろしさがよく分かる気がしました。カリグラを暗殺した近衛軍団の大隊長の動機が塩野氏の推測のように、不肖の息子をこれ以上生かしてはおけないという父親に似た感情からのものであったのか、是非知りたい所です。もしそうなら1才の娘まで道連れにする必要はなかったような気もするんですが。