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龍宮 (文春文庫)
龍宮
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北斎 | 9-34 | |
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龍宮 | 35-61 | |
狐塚 | 63-91 |
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紙の本
異形、異界のものたちは普通に存在する。
2011/11/26 21:07
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美さんの異界・異形の短篇7篇。
書評集『大好きな本』では他の好きな作家の本には大変、ゆかしい、謙虚な言葉でその世界を
褒め、おすすめというより「本をそっと差し出す」という書評を書かれていたのですが、
その中で、愛という言葉に対しては慎重で、安直に愛し合いましょうなどという言葉には
石を投げつけたくなる、とも書かれていて、そんな激しい一面も持っている方です。
この短篇集は、どの物語も人間と異形の者が同一の世界にいる、または完全に異界の物語
としかいいようのない短篇が並んでいて、通して読むと話の筋は違っていても
川上さんの「冷たい怒り」のようなものが、しんしんと身にしみました。
また、川上さんは異形の世界を描くのに、神話や伝説というもに全く頼らず、オリジナルの
神話を創り上げることにかけては、その冷たさと同時に既存の物語には依存しない、という
反骨精神すら感じます。
第一話「北斎」では、海からあがって人間となった男とであった私。酒を飲むうちに説教
なんだか、身の上話なのだかわからない不思議蛸男の世界にひきずりこまれる私。
という海から来た者、から始まり、最終話「海馬」では、やはり海から上がって人間と生活を共にした女という
海から始まって海に戻る、という構成になっています。
どの物語も「愛し合いましょう」などという言葉には冷たい一瞥を投げつけており、
静かな冷たい怒りの炎がめらめらしているのです。
また、人の一生など、異形の世界には関係なく、7代前の先祖にひとめぼれする子孫の女も
200歳。それでも、欲情したり、嫉妬したりする、というたまりませんなぁ、と思わず
ため息をついてしまう、ほとんど永遠の命の持ち主が多いのです。
失意の人間を「アレ」と呼び、拾って歩く毛深い生き物である私。普通に会社に勤めて、
人間の暮らしをしていても、「失意」でしぼんでしまった人間を小さくしてポケットに入れて
家に連れて帰り、家におく「私」は、人間より丁寧に仕事にのぞみ、何故人間はこんなに
仕事におざなりなのかわからないけれど、淡々と日々をすごす「うごろもち」
どこからか生まれてきて、イチコ、フタバ、ミツヘ、シマ、ゴマ、ムツミ、ナナヨ・・・の七人の姉の
元で順番に暮らす私。どれも「姉」とはいいがたい「姉」なのですが、
(ナナヨは姉であると同時に妻となる)女=姉と淡々と生きる私。
淡々で生々しい、趣味の良い悪趣味、安定した不安定。そんな世界が次々とでてくるのですが、
そこにあるのは、男と女の営みを根底からくつがえしてしまう独自のゆるがない価値観。
どの物語の主人公にも、悩みはない。何がおきても、動揺することなくゆるがない。
そこがしんしんと怖いと言えば怖いし、不気味と言えば不気味だし、美しいと言えば美しい。
そういった、たんなる「綺譚」を超えた「伝説」「神話」とでも言うような世界を短篇で淡々と
書かれると、読んでいて、まいったなぁ、と思ってしまいます。
人間だけが生物ではない、と頭でわかっていても、自分の頭の中は人間のことばかりだったりしますが、
ふと電車の隣に座る人は、本当は人間ではないのかもしれない。それを「怖い=排斥したい」と描かず
「そういうもの」と描いています。
思い返すといつの時代も世の中は「純愛」を求めていたように思いますが、7代前の先祖に
愛してる、と何度言ったところで、先祖は相手にしない。「だってあなたは冷静だもの。ほかの
女はもっと生だったよ。女が生になってくれなきゃ、おれだって近づけない」そんな、と否定しても
愛してる、好きだ、と言っても先祖は薄く笑うだけ、という「純愛しっぺがえし」を描いた「島崎」だけ
が「愛」「好き」という言葉を使っています。200歳の私ですら、先祖とは血がつながっている
のがわかっていても、一目ぼれの高揚した気持は押さえられない。
また、異形の者の世界ではない「荒神」の主人公の主婦は、万引きしても、不倫しても、なんとも
感じない。普通に生活している。そんなほとんど「静かに気が狂ってる普通の人」というのも
十分、異形を感じます。価値観や善悪の判断が根底から違うのもまた「異形」
読んでいて和むものではなく、不安をかきたてるような川上さんの「純愛しっぺ返し」 短篇7篇。
どの世界もうすぼんやりとしてクリアではなく、薄暗い。そしてそれは決して気持悪いものではなく、存在している
から存在している。それだけです。ありえない、と言わせない説得力を持つ文章。
今はどこもかしこも明るくなってしまった都会の夜ですが、昔、子どものころ、田舎に行くと
トイレというか便所が妙に薄暗くて、なんで明るしてくれないのか、怖くて仕方なかった
子どものころの「暗闇への不安」がよみがえります。
紙の本
時間を忘れてのめりこむ
2016/07/22 10:22
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
人じゃない、生き物と人「らしき」生き物が織りなす異世界短編集。こころに残ったのは『島崎』寿命が狂ってしまって、何百年も生き続ける人間もざらになった世界。そこで自分の先祖に一目惚れし恋をする女。女の年齢は200歳くらい。で、先祖は400歳くらい。年齢を感じさせない程若々しいらしい。先祖はプレイボーイなので、一番愛している女には手を出さない。女はいつも切ない。ほか最後まで得体の知れなかった『海馬』『北斎』の女好き蛸、神様となった曾祖母イトちゃんがかわいらしい表題『龍宮』どれも現実を忘れさせてくれる逸品小説。