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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2009.11
- 出版社: 新潮社
- レーベル: CREST BOOKS
- サイズ:20cm/172p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-10-590079-3
紙の本
初夜 (CREST BOOKS)
歴史学者を目指すエドワードと若きバイオリニストのフローレンスは、結婚式をつつがなく終え、風光明媚なチェジル・ビーチ沿いのホテルにチェックインする。初夜の興奮と歓喜。そして...
初夜 (CREST BOOKS)
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商品説明
歴史学者を目指すエドワードと若きバイオリニストのフローレンスは、結婚式をつつがなく終え、風光明媚なチェジル・ビーチ沿いのホテルにチェックインする。初夜の興奮と歓喜。そしてこみ上げる不安—。二人の運命を決定的に変えた一夜の一部始終を、細密画のような鮮明さで描き出す、優美で残酷な、異色の恋愛小説。【「BOOK」データベースの商品解説】
1962年イギリス。結婚式を終えたばかりのふたりは、まだベッドを共にしたことがなかった−。取り戻すことのできない遠い日の愛の記憶を、克明かつ繊細な描写で浮き彫りにする、異色の恋愛小説。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
イアン・マキューアン
- 略歴
- 〈イアン・マキューアン〉1948年英国生まれ。イースト・アングリア大学創作科大学院修士号取得。第一短編集でサマセット・モーム賞、「アムステルダム」でブッカー賞、「贖罪」で全米批評家協会賞など各賞を受賞。
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紙の本
時代を超えてそして国境を越えて、マキューアンは人を純粋無垢な気持ちで愛することの素晴らしさを本書を通して教えてくれる。たとえどんな不可解なことが起こっても、決してひるんではいけないのですね。読者は人生において一所懸命生きることの大切さを再認識するのである。
2010/01/20 16:48
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
原題 “On Chesil Beach”,村松潔訳。
私自身マキューアンの作品は『土曜日』、そして代表作だと目される『贖罪』に次、本作で3作目となる。
いずれもが素晴らしい作品であることに違いないのであるが、本作は今までの作品にない繊細な物語。
それは日本語タイトルからしてもおわかりであろうが、少なくとも性の解放がなされてなかった時代においては、人生の最大のイベントと言って過言でない日の出来事を赤裸々に語っています。
時代は1962年のイギリス。
愛し合っているふたり・・・エドワードとフローレンスはつつがなく結婚式を終えます。
結婚式のあとのビーチにあるホテルでの出来事なのですが、今までベッドをともにしたことがなかったのですね。
だからその緊張感が読者にも伝わってきます、否応なしに・・・
たとえば並みの作家が描けば滑稽な出来事として映るのかもしれませんが作者の力量、そして村松さんの訳文、ともに冴えわたっています。
作者はきっと愛に対して凄く繊細な方なのでしょう。それでなければこう言うシチュエーションの作品は作れませんわ。
冷徹というか冷酷というか、それとも残酷と言うのでしょうか。
どの言葉も当てはまるので敢えて書かせていただきますが、読者に対して真正面から2人の愛を突き付けてきます。
私は読んでいてお互いがお互いを思いやる気持ちが十分に伝わってきました。
それは作者のたとえば2人の生い立ちの違いや、あるいは知り合ったいきさつなどを通じて余計にわかりえたことではあるのですが。
女性側(フローレンス)の立場(というか階級)の方が高い点が重要な要素になっているのですね。
本当に心憎いですわ。
そして肝心なところは読者に委ねられているのですね、だからお互いが年月を経て幸せになっていく姿を目に浮かべながら本を閉じることが出来ます。
この物語のキーポイントは、男性読者の立場で言わせてもらえたらいかにフローレンスの気持ちがわかるか否かだと思います。
たとえば本作の時代設定が現代の話であれば無理が生じるかもしれません、でも時代はビートルズが世界を席巻する少し前のイギリスです。
第二次世界大戦が終わって17年しか経っていないのですからね。
いろんなことを斟酌して考えると、エドワードとフローレンスは素晴らしい“初夜”を迎えることが出来たのですね。
舞台は整っています。
結果として“初夜”の時点で2人は本当に熱烈に愛し合っていたのですね。
そして不可解で皮肉な出来事だったけど、ある意味必然的なことでもあったのですね。
なぜなら読者は後戻りできない人生を懸命に生きているその後の2人にエールを贈ることが出来たのです。
切ない気持を維持しながら・・・
そう読みとることがこの物語を満喫できた証拠なのかなと思ったりしました。
ここでは細かい内容は書かない方がいいでしょう。読んでのお楽しみですわ。
薄い本なのであなたも躊躇なく手に取って欲しい一冊であります。
紙の本
邦題は下品ですし、話に登場する新郎もどうしようもない下劣な男ですが、話は時代の制約というものを克明に描き出し、読者の浮ついた気持ちに冷水を浴びせかけます。これぞマキューアンの世界です。
2010/06/03 20:48
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
本を読むとき書店でつけてくれるカバーを利用しなくなって何年になるでしょう。別に人に知られて困るようなものを読んでいるわけじゃなし、と開き直ったつもりが、今では「私はこういう本を読んでます、いかがですか、貴方も手にしてみては」なんていうメッセージをこめて、電車の中で広告塔と化しています。ま、自分が図々しくなったということだけなのかもしれませんが。
でも、この本に関しては周囲の目が気になりました。だってタイトルが『初夜』ですよ。調べると原題は On Chesil Beach 穏やかなものじゃありませんか。いくら新婚旅行のホテルでの一夜を扱うからと言って『初夜』はないだろ、なんて思うんです。だから電車のなかでも、少しだけ引け目を感じながら、他人の視線を気にしいしい、の読書となりました。いやはや、書店でカバーつけてください、って言えばよかった・・・
タイトルは露骨ですが、カバーデザインは上品です。この細かい粒子からなるうねりの連なりはなんでしょう。柔らかな布の襞、それとも砂丘、いえいえ何かサラサラした粉で人工的につくったもの? どれも当てはまりそうですが私としてはベッドの上の毛布であってくれれば、小説の内容とはそれなりに合うなあ、なんて思ったりもします。そんな写真について Jacket Photograph TONY MOOW/orion/amanaimages とあります。
本の内容について、カバー折り返しの紹介文を写しておくと
*
性の解放が叫ばれる直前の、一九六二年英国。歴史学者を目指すエドワードと若きバイオリニストのフローレンスは、結婚式をつつがなく終え、風光明媚なチェジル・ビーチ沿いのホテルにチェックインする。知り合って1年と少し。愛し合う二人は、まだベッドをともにしたことがなかった。初夜の興奮と歓喜。そしてこみあげる不安――。二人の運命を変えた一夜の一部始終を、細密画のような描写で描き出す、優美で残酷な異色の恋愛小説。
*
となります。キーになるのは1962年という時代です。それがお話とどう絡むかといえば、風俗的なことでは殆ど関係してきません。洋服だ、町の様子だ、自動車だ、というった描写で時代を描くものでは全くありません。そうではなく、その時代の人々の心のありよう、セックスや結婚についての考え方や情報の制約、それが若い人たちの人生に悲劇をもたらします。登場人物は極めて少ないのですが、二人というわけではありません。
まず、若きバイオリニストのフローレンスがいます。22歳で王立音楽大学卒。実家はバンべりー・ロードから徒歩15分のところにあるゴシック様式の、大きなヴィクトリア朝時代の屋敷で、父親のジェフリーは実業家で、ビジネスマンらしい現実的な考えの持ち主です。いつもお金のことを考えていますが家庭のことに無頓着というわけではなく、娘のことを気にし、色々なところに連れて行ったりします。
母親のヴァイオレットは思想的にはガチガチの反共主義者で哲学者です。で彼女は娘の練習で出す楽器の音に我慢がなりません。そういうこともあってフローレンスは家を出て、寮で音楽三昧の暮らしを送っています。今は弦楽四重奏団のリーダーで、地方のオーケストラの団員になるか、このまま弦楽四重奏団でやっていくかで迷っています。IQが152といいますから、かなり優秀です。そしてこの時代のお嬢様らしく、男性との付き合いも無くセックスにも興味を抱いていません。勿論、処女です。
もう一人が歴史学者を目指すエドワードです。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで初めて歴史学の学位を取得している22歳の青年で双子の妹がいます。父親のライオネルはヘンリーの小学校の校長で、母親のマージョリーは事故で脳を損傷し、家事や育児は殆ど出来ません。日本では小学校の校長ともなれば、町や村の名士に数えられるかもしれませんが、上流階級かといえば決してそうではありません。英国でいえば労働者階級に分類されてしまいます。
そのせいか、学者を目指すエドワードのIQが135と、フローレンスに比べて低いというのが面白いです。頭があまりよくない男が学者になろうと思うのですから、当然、勉強のことしか考えません。だから女性と付き合ったことがない。時代が時代ですから、セックスに対する情報も少ない。結果、彼の頭にある女性やセックス観は古臭く硬直的なものとなっていきます。無論、資産家に対する劣等感もあって、それが涸れの言動の足かせとなる。
フローレンスのセックスに対する嫌悪感と、エドワードの独りよがり。異なった階級のものの生活や物の考え方の違いが、克服されるべきものとしてではなく、そのまま存在し続いていた1960年代。若さゆえか、それに全く気付かないままに結婚してしまった二人の困惑とそれがもたらす齟齬はたった一夜のあいだに肥大化していきます。
1962年といえば、10月にビートルズがデビューした年でもあります。そのせいか、彼はクラシック音楽にはまったく関心がなく、好きな音楽はロックンロール。かたや音楽と言えばクラシック、しかもお堅い弦楽四重奏団のリーダーです。せめて同じ学校の出身であれば、エドワードが人生経験の豊富な年上の男であれば、こんなことにはならなかった。いつも貧乏くじを引くのは女性・・・。
私としては、どうあってもエドワードを攻撃したくなります。このセックス亡者が! 結婚=セックスとしか考えることの出来ない世間知らず、学者バカが! お前のような男が学者を目指す、本でも抱いてマスかいてろ、なんて思うんです。でも、それは時代が生んだ悲劇でもあります。私だって子供のころはクラッシクなんて聴いていなかったし。
紙の本
若さにおける儚さ
2018/09/18 06:07
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:une femme - この投稿者のレビュー一覧を見る
このような極めて個人的なことを、小説にしたことは、驚くことでもあるが、物語は、とても慎ましく、やさしく、中心人物(フローレンスとエドワード)に寄り添うように、描かれている。構成も、交互に、過去を取り入れながら、進んでいき、面白い。結婚式後の一日が進むなかで、それぞれの性格という焦点から広がって、二人の出会いや、重ねてきた時間、それぞれの人生や家族との挿話が、挟まれるのである。
描き方を、少し歪めれば、卑猥にもなりうるだろうし、滑稽にもなるのだろうけれど、とても個人の物語を、丁寧に描くことで、若さの脆さと美しさが、ほのかに映し出される。その小品は、一人(二人)の人生が、思いのほか美しさを持っていることを、静かに示しているのかもしれない。
物語の終わりには、現実において、「もしも」の人生は、存在しないということを思った。二人に関しても、最初で最後の喧嘩や、それぞれの、その後の人生から露わになる、互いの性格から推測し得るように、「もし、あのとき、・・・」という物語は、あり得なかったと思う。最後には、そんな現実的な考えに落ち着くところも、慎ましい小品という印象が残った。
このような着眼点と、慎ましい描き方による小品は、他にないように思った。
紙の本
「人生」におけるバイオリンの応答
2019/04/20 16:56
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hm - この投稿者のレビュー一覧を見る
とても現実的なフィクションだと思った。
丁寧に人物の心理を書き、その心理とは裏腹になりうるセリフを並べてある。恋愛を経て結婚したばかりの、言葉にするには大変な「問題」を持つ二人が、この小説の成り立ちをがっしりと支えている。
二人の物語というより、物語のための二人、だと私は思った。
「ただ第二バイオリンが第一バイオリンに応答しただけだった」という一文が作中にある。ただの応答が「人生」を右へ、あるいは左へ切り替えさせうる。
楽譜に載った応答は、書き込まれ、演奏される時点で必然になる。
「人生」ではどうだろう。起こった応答が偶然だったか、あるいは必然だったか、私にはとても判別できない。