電子書籍
闇に葬られた真実
2022/06/02 18:30
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
凄惨な事件の背後に、七三一部隊の残党が亡霊のように見え隠れしていてゾッとします。全てを背負わされた死刑囚の無念さも、冷徹に見つめていました。
紙の本
帝銀事件
2022/02/14 10:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kotep - この投稿者のレビュー一覧を見る
松本清張が帝銀事件の経緯を追っていく。すると当時の警察の杜撰な捜査が浮き彫りに。強引な取り調べ、別件逮捕により加害者の人格を否定する流れからの追及、そして被害者への面通し等々。果たして本当に平沢は加害者であったのか・・・・・。
平沢氏以外に犯人んと思しき容疑者がいたにもかかわらず、平沢氏に絞り込まれたところに当時の警察の無責任さを感じる。過去の冤罪事件の数々は警察が国民に対して警察のメンツを守るための手段であったことが残念でならない。
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すべて知っている情報ばかりなのに、なぜこんなにドキドキできるのか。新装版なので、文字も読みやすく、また思いのほか松本清張が平沢に肩入れしていない書き方だったので(もちろんまったくしてないわけじゃないが)、どう結末づけるんだろう、と単純に読み手としておもしろがれて嬉しかった。
みなまでは書いていないけど、犯人を追い詰めたら軍の関係だった、というところを随所に散りばめて書いてある。でも追求はしきれないで終わった感じで、これは「日本の黒い霧」で充分に書いてあるからいいのかもしれない。「小説」とつけたところに、松本清張も小説では勝てない「事実」を悔しく思い、挑戦してみたんだと思う。いや、おもしろかった。
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昭和23年、米軍占領下の日本で起きた毒物による大量殺人事件。当初の警察捜査は毒物の専門知識を持つ軍関係者に向けられていたが、結局、逮捕されたのは毒物とも軍ともかけ離れた画家、平沢。
医学的知識のない市井の画家がこんな大胆な事件を実行できるのか。背後にGHQの陰謀を感じた松本清張は、架空の新聞記者に事件を推理させる小説スタイルで事件の真相に迫ろうとした。
小説?
ノンフィクション?
大作家の自己満足?
と、いろんな読み方ができる作品。
帝銀事件について、本当に松本清張の意見を知りたければ、「黒い霧」をどうぞ。
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「帝銀事件は旧訴訟法による最後の事件であった。旧訴訟法によると、自白重点主義である。」清張が一番言いたかったのは、この点であると感じた。 時を同じくして、東電OL殺人事件の真実も怪しくなってきた。事件のあらましを確認するために、佐野眞一氏の著書を読み返してみようかしら。
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昭和23年の大量毒殺事件を「小説」として発表しているのであくまでもフィクションという事か。軍部犯行説に動いていた捜査陣が平沢犯行説に傾いていく過程が描かれている。生存者がいるというところに被験者を絶滅させたとされる731部隊にしては手抜かりがある様に思える。
平沢氏が芸術家は命より名を惜しむという考えだったにせよ金の出所がハッキリしなかったのは作中にあるように疑惑を晴らすのに障害であったといえる。
生き残りの人が顔を見ても意見が割れた事から人間の観察力の薄弱さがよく分かった。
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▼「小説帝銀事件」松本清張。初出1959年。角川文庫。2019年8月読了。
▼1948年に東京都豊島区の帝国銀行支店で、一般営業閉店後の時間に「東京都の防疫の者だ」と名乗る男性が「赤痢の予防薬を飲んで」と騙して銀行員たちに毒物を飲ませ12名を殺害、現金などを奪って逃走。これが「帝銀事件」。ちなみに帝国銀行というのは今の三井住友銀行の前身だそうです。
▼同年、画家の平沢さんという人が容疑者として逮捕され、自白します。ただその後「拷問に近い取り調べを受けたから。ほんとうはやっていない」と。無罪を訴える中で裁判が行われ、1955年に死刑が確定。同時代から色々と辻褄の合わないことや疑惑が語られいて、死刑確定4年後の1959年に松本清張さんがこの「小説帝銀事件」を発表。ただ、再審や再捜査ということにはならず、平沢さんはずっと刑務所で暮らし、死刑も執行されないまま、1987年に95歳で病没。今の段階で公式見解はともあれ、多くの人が「平沢さんは無実だったろう」と発言しています。だとすれば、およそ40年無実で獄中にいて、死んでしまったことになります。
▼どうやら、実際に起こったこととして。捜査員の皆さんは、別段、全く根拠もなく平沢さんをでっちあげた訳ではなさそうで、それなりに「犯人である可能性がある人」ではあったようです。ただ、いろいろと辻褄が合わない。常識で考えて筋が通らないところが多い。そして、平沢さんを調べる一方で「これは旧軍人関係の仕業ではなかろうか」という線でも捜査が動いていた、あるいは動こうとしていたそうです。ところがどうやら「上=GHQ」に阻まれて、その線の捜査は終了させられた・・・。ということだそう。
▼この時代の法律が、「とにかく自白を最重要視する」という考え方だったんだそうです。今は違います。それもあって、有罪判決になった。作者の松本清張さんは、「これは平沢さんの犯罪ではなくて、旧陸軍関係者の犯罪。ただ、その犯人はGHQにとって重要な人物だったから、平沢犯人説でまとめられてしまった」という説に則って、一応小説として書いています。
▼ただ、あからさまなフィクションではありません。ぶっちゃけ読み応えとしては「ほぼほぼノンフィクション」な本です。そして、オモシロイ。とにかく本としてオモシロイ。清水潔さんの「桶川ストーカー殺人事件」「殺人犯はそこにいる」を読んでいる気分に似ています。やめられない止まらない。
▼色んな情報、色んな反証が語られますが、「確かになあ」と思ったのは、12人を遅効性の特殊な毒薬で殺害するっていうのは、これまで人を殺したことも無い、従軍経験もない、医薬系のキャリアもない、画家のオッサンが単独で冷静沈着に行えるもんぢゃないよなあ・・・ということ。
▼あと全然本筋と関係ないですが、平沢さんは一部の収入源を頑として語らなかったそう。松本清張さんは、「恐らく、カネを稼ぐために裏でポルノ的な画を描いていた。一応それなりの画家だった本人としては、その不名誉は言いたくなかった」という仮説を立てています。なるほど。1948年だから、「ポルノな画」というのが商売になったんだなあ。今ではネットで動画がいくらでも無料で・・・画ぢゃあ、商売にならないだろうなあ。
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戦後の米国占領下時代に起こった実際の事件。
小説の中身の事はほぼ事実であろうし、松本清張は実際に
平沢氏の釈放運動を行っている。
当時の闇の部分が垣間見える事件ではあった。
小説は平沢・検事・弁護士のすべての3方面での主観を
記しているが、どれもが納得いくものであり、どれもが納得
いかない部分もある。
が、個人的な意見として、やはり平沢氏なる画家が、
手早く薬品を、威厳持ちながら堂々と扱えるとも
思えないというのが正直な感想。
あくまで、松本清張氏の小説、及び他から仕入れた資料による、
勝手な想像につきないが。
死刑宣告されながらも、執行されずに、最後は病で亡くなった
平沢氏が本当に無罪だとしたら、どんなに悔しいだろうか。
国家が人を食い潰す。
許されない事実だが、これもまた事実なのだと、思わざるえない1冊でした。
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戦後間もなくの混乱期の事件だけに、この結果は致し方ないのかな。日本人には基本的にお上のやることは間違いないとか、黙って従うべきだという考え方が未だにあるように感じる。
おまけに、当時は旧刑事訴訟法。平沢氏はその法律の下の犠牲者と言って良いかもしれない。清張の筆致は非常に合理的で、平沢貞通の冤罪を強く印象づけてる。結局死刑が執行されなかったのも、当局が一抹の不安を抱えてた証拠だろう。
本来ならば、恩赦でもなんでも釈放すべきだった。
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帝銀事件についてのお話
当時の捜査の杜撰さにちょっとあきれた
軍関係の捜査は大変そう
内容的に平沢は犯人にしたてあげられた感がある
犯人としては矛盾するようなところもありながら
警察が決めつけてしまったような感じ
事実はいったいどうだったのだろう?
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帝銀事件の被疑者として死刑判決を受けた平沢貞通の獄中から弁護士に書いた葉書を目にした事で読んでみた。平沢が犯人ならばいろいろと疑問に思うこともあれど極悪極まりないし、冤罪ならとんでもない事だとどちらにしろ怖くなった。作者は冤罪寄りで書いたようにも思うけどどうなんだろう。
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真犯人はおそらく旧軍部の人間。731部隊関係者であり、毒物は青酸ニトリール。
私がこの事件で一番印象に残ったのは「第二薬(セコンド液)」の使用である。これは常人には決して思いつかない。これはただの水であった。しかし、一分後にそれを飲むように指示したことは、この一分間が非常に重要であったことを示唆する。極めて知能的な、そして無慈悲な犯罪であり、旧特務班関係者の犯罪であることを匂わせる。
日本が抱える深い闇の一つである。
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実際にあった事件を題材にした小説。
小説だけど、ほとんどノンフィクションのような形式。
この事件は犯人が逮捕され死刑判決まで出ているが、松本清張は元731部隊の人が犯人と推理している。
戦後、731部隊のノウハウが米軍に必要だったため、731部隊の隊員はGHQによって庇護された。
そのことを公にしたくなかったため、捜査の手が731部隊に及ぶと、GHQが邪魔をした。
と松本清張は推理を展開する。
いずれも何の証拠もなく、あくまで想像に過ぎないと思うが、一理あると思う。
ただし、冤罪なら誤認逮捕された人は、なぜ事件後、大金を持っていたのか。
そして、そのお金の出どころをなぜ言わないのか。この点が理解できない。
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帝銀事件が起きた昭和23年の日本は、連合国の占領下にあった。当時の日本人はもちろん、日本の様々な組織(検察・警察含む)にとってアメリカを中心とする占領軍は途方もなく巨大で、時には「壁」になったのだろう。
事件の犯人を旧日本軍関係者と睨んでいた警察捜査の主流は、「壁」にぶち当たってしまった。「壁」が旧日本軍のある一部に利用価値を見出し保護したからである。行き場をなくした主流が傍流の平沢貞通犯人説に殺到し、あれよあれよという間に平沢の死刑判決に至ってしまった。平沢自身、あまり素行がよくなかったことや脳の病気による虚言症などを抱えていたことがあり、自白重点主義の当時、心証の面で不利に働いただろう。
無関係の人が、時代や巡りあわせの悪さから想像もしなかった境遇に陥ってしまうことがある。これがフィクションでないことが恐怖である。
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帝銀事件について事件発生からその後の捜査までわかりやすく解説されている。小説というよりはノンフィクションで読みにくい箇所も多いが、事件への興味から割とすらすら読めた。平沢はどう見ても冤罪で警察の威信のためのスケープゴートとしか思えないが、彼自身が供述で引っ掻き回したり金の出所を明かさなかったりと、犯人にされても仕方ない状況を作っている。画界の興隆のために大量殺人犯の汚名を着せられてもいい、というのは理解できない。