増補 南京事件論争史
著者 笠原十九司 著
明白な史実であるにもかかわらず、否定派の存在によっていまだ論争が続く南京事件。否定派の論拠のトリックとは? 親本(平凡社新書)刊行後の10年分を増補した全史。
増補 南京事件論争史
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否定派の 手口と間違い わかる本
2023/03/18 22:14
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:清高 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1.内容
笠原十九司は、中国近現代史、東アジア近現代史を専門とする歴史学者であるが(プロフィール参照)、笠原によると、南京大虐殺(本書では「南京大虐殺事件の略称として南京事件を使う」(p.15)としているが、コトバンク「南京事件」の洞富雄(本書にも登場)の解説によると、南京事件は3回あり、そのうち1937年の事件である)は、歴史学の世界において史実として確定している。また、日本においては、死者は20万人というのが推定の上限であるが、中国で唱えられている30万人説も根拠がある。しかし、日本においては、「『論争』」(pp.109-110に「『論争』」の変遷が書かれている)が仕掛けられており、歴史学を研究していない普通の人からすると、論争が延々と続いているように見えてしまう。本書では、南京大虐殺の存在自体の否定や、人数の矮小化といった「『論争』」が、歴史学者から見て虚偽であることを説明した本である。
2.評価
レビューを書いているが、筆者は歴史学者ではない。従って、本書の内容が正しいと判断するも、それは、例えば『現代の日本史』(山川出版社の日本史Aの教科書。2013年)p.121と矛盾しないという程度のものである(教科書検定を信用しつつも、教科書検定も時によって変化していることも本書で書かれている)。
しかし、それにも関わらず、本書を5点とする。上記の筆者の判断に加え、「『論争』」を仕掛ける側の動機が、歴史学を無視した政治的なものであることは、本書でも言及されている「従軍慰安婦」(慰安婦)や、朝鮮人強制連行(徴用工)でも同じだとわかるからである。また、「『論争』」を仕掛ける側がすべて間違っているわけではなく、例えばp.165にある板倉由明の「『証言つぶし』」や、pp.211-213にある秦郁彦のような(産経新聞は「『論争』」を仕掛ける側であったが(p.132「『正論』グループ」の記述から判断した)、秦の批判がそうかは、筆者は軽々に判断してはならないと判断した)、笠原が用いた写真のミスの指摘のような妥当な批判があったことも書かれており、フェアだと認識したからである。
ナショナリズムと南京事件
2018/12/13 14:23
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
南京事件に関する論争は、中国、日本ともナショナリズムが絡むので真実が見えにくくなっている。まずは、真実の追究そしてそれを踏まえて歴史を評価する作業が必要だろう。本書は、どのように南京事件を考えるか、良くも悪くもその見本となる材料を提供してくれるだろう。
ドイツに幻想を持つな
2018/12/19 13:29
19人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「この種の感情的な対立や紛議を目撃して、南京事件には人の理性を失わせる魔性が宿っているのではないかとさえ思った」と秦郁彦「南京事件・増補版」280頁に書いてあるのを連想させる本だ。
とにかく著者と意見を異にする人々(「南京事件は支那やコミンテルン、アメリカがでっち上げた虚構だ」というトンデモから秦氏のような著者より犠牲者数を低く見積もる人まで)に対する感情的な記述や自分達が編纂した資料集を持ち上げる一方で、偕行社が編纂した「南京戦史」に対する低い評価が目につく本だ。
昭和年間に出版された本の編著者名の中に下里正樹という元赤旗の記者がいるが、彼は「非転向の闘士」で獄死した市川正一が昭和4年に上海にいた佐野学を特高がおびき出す為の手紙を書いた(あるいは書かされた)事を書いたばっかりに共産党を除名されている。共産党系の研究者だったら、彼の関わった本を使わないだろう。
レイシスト連中の「写真鑑定」を批判しているが、当の本人が「アサヒグラフ」に掲載されたヤラセ写真を国民政府側が正反対のキャプションをつけていたのを鵜呑みにして、指摘されて回収したとはいえ、自著に掲載した事を書いている。「三光」の写真の件は野戦病院の前で撮影した片足を失った国府軍の捕虜の写真から「野戦病院」の看板をトリミングしたものだ。「南京事件」にあるように「日本軍側にも捕虜を労働力ないし傀儡軍の兵士として活用しようとする発想が一部に生れた」から脱走しないように捕虜の片足を切り落とすという手間暇かかる事をしそうもないは気がつくだろうに。
反アベの立場からか、自民党の政治家達の家系図を書いて非難しているが、それなら「荒れ野の40年」演説で名高いリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー男爵は戦時中は功一級鉄十字章に輝く歩兵大尉で、実父は継続裁判で有罪になった第三帝国時代の外務次官のエルンスト・フォン・ヴァイツゼッカー男爵で、実兄はドイツ軍の核開発に関わっている。それにリヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカー男爵はヴィルヘルム街裁判の際に実父の弁護活動をしている。自民党の政治家達がダメなら、こんな「輝かしい系図」と経歴を持つ人物を持ち上げる事は矛盾しないのだろうか?版元の平凡社は「ヴァイツゼッカー家」を出していたのに、著者は読んだ事がないのだろうか?ヴァンゼー会議に外務次官補のマルティーン・ルターが出席していたように、外務省は国防軍や帝国鉄道と並んで「ユダヤ人問題の最終的解決」に関わった組織で、ドイツ連邦共和国の外務省に外交官達が復職していた。