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紙の本
ゆっくり読むのに適した短編集
2003/04/03 20:49
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投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹は、小説というのはひとつの観念を別のかたちにトランスフォームする作業だとどこかで述べている。作者の言葉が小説を読む上で役立つ場合と、虚心に読む妨げになってしまう場合があるが、本書についてはこの言葉が非常に役だった。
ミステリ風の結構を持った「UFOが釧路に降りる」、村上ワールド特有の三人関係のヴァリエーション「アイロンのある風景」、やはり表題作に選ぶにはこれしかない「神の子どもたちはみな踊る」など六作品が収められている。余談だが、いくら村上春樹といってもこの短編集のタイトルが『かえるくん、東京を救う』だったら、やはり売れ行きが二割ぐらい落ちるのではないか。
いずれの短編も、どこか自分にも覚えのあるような感情が、別の感情に移される(されそうになる)過程を描いている。どの作品が自分にとってフィットするのかは、他の村上作品の好みと相関関係があるだろう。『ノルウェイの森』が好きな人は「蜂蜜パイ」が好きになるような気がするし、「タイランド」の味わいを好む人は昔『回転木馬のデッド・ヒート』を愛読した人ではないかと思う。評者は、『かえるくん』の文学趣味が好みです。コンラッドを引用するかえるくん、カッコイイですね。
いずれにしても、一気に読まずゆっくり読んでいくのがよいと思います。一晩にひとつずつ何日もかけて読んでいくと、ぐっすり眠れる晩があって得した気分になれるはずです。
紙の本
短編集
2002/07/23 21:26
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投稿者:優樹O - この投稿者のレビュー一覧を見る
「阪神大震災」がテーマの短編6つを収録。テーマといっても舞台が神戸に設定されているわけではなく暗示されているに過ぎない。それなのに全体に統一した1995年の雰囲気が漂っている点はさすがだ。いろいろ評価の分かれる最近の著者だがこれは手軽に楽しめるし誰でもよい感想を持てるのではないだろうか。
紙の本
神戸の地震が起こったあとの心理状態を表した本です!
2002/07/17 22:49
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投稿者:ラフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
神戸の地震が起こってその悲惨な状況を報道で見たことが
きっかけとなって人々の心の中に闇を作った様を表現して
いるように思える。
全体の構成は「UFOが釧路に降りる」「アイロンのある
風景」「神の子どもたちはみな踊る」「タイランド」
「かえるくん、東京を救う」「蜂蜜パイ」という短編で
成り立っていてそのうちの「神の子どもたちはみな踊る」
がタイトルになっている。
とくに「UFOが釧路に降りる」というのは主人公の小村
が神戸の地震を報道で見た妻に家を去られて離婚するはめ
になったのはサエキさんの奥さんがUFOを見て家出した
のと同じように描かれている。
つまりこれはインパクトのある環境の変化が人間の心理状態
に大きな影響を及ぼすことになるという意味ではないかと
思った。
そういう時に人間は何もかも捨てることになるのだろうか
また「神の子どもたちはみな踊る」において宗教に関わって
いても性的欲求を超えることは難しいという人間の本能的な
ものを表現していると思った。
いずれの作品もいろんな状況における人間の持つ心理描写を
見事に描いていると思う。
紙の本
読みやすかったし、はまってしまいましたし
2002/06/07 15:42
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投稿者:ゆうきっく - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集ですが、今までのパターンとは違って昔の作品の短いバージョンとか今までの作品にあったようなパターンはほとんど出てこなかった。
いつもとは違う村上春樹がいた。
僕は、「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」が好きです。巧妙な文章トリックといいますか。僕は、あまり理解できていないのですが、その文章の裏に隠された現代への訴えのようなものがあるような気がしてならないのです。久しぶりに、とても面白い本でした。
紙の本
関連なさそうで関連のある連作短篇
2001/06/24 21:54
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投稿者:katu - この投稿者のレビュー一覧を見る
新潮に連載された『地震のあとで』5篇に書き下ろし1篇を加えた連作短編小説である。すべての作品が阪神・淡路大震災をモチーフにしているが、直接的にそこに言及している作品はない。
個人的に印象に残ったのは表題作『神の子どもたちはみな踊る』で主人公が夜の無人の野球場のピッチャーズマウンドで踊るシーンだ。妙に印象に残り、読後なんどもそのイメージが頭に浮かぶようになった。
非常に自伝的な『蜂蜜パイ』もファンには興味深いだろう。
紙の本
村上春樹の転回
2001/02/11 16:55
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
雑誌掲載時に読んで、単行本が出てまた読んで、少しだけ読まずに残しておいたところを時間をおいてまた読んで、そのたびにこれまでと何か違うと感じた。朝日新聞(2000年33月6日付夕刊:大阪)の「単眼複眼」で「伸」という匿名氏が「震災地への想像力や記憶がはるかな求心性を帯びて物語を織りなす。それぞれが心に空洞を抱え、家庭に欠落を持つ人々であり、運搬・流離譚・父親探し・祓いの旅・冥界下りなど「移動」の物語を経て、あるべき場所から遠く隔たってしまった「生」をかみしめる」と書いている。少し言葉が踊っているようにも思ったけれど、確かに「想像力や記憶」「移動」は本書のキーワードなのだろう。(「移動」というより「反復」?)
ところで、村上春樹が『若い読者のための短編小説案内』で取り上げた六つの短編小説は、その順番どおり『神の子どもたちはみな踊る』の六つ作品と対応させることができるのではないかと思う。だからどうだというわけではないけれど、少し気になったので、メモしておこう。
吉行淳之介「水の畔り」と「UFOが釧路に降りる」。そこでは空虚が移動する。水の畔り=圧倒的な暴力の瀬戸際。デタッチメント。
小島信夫「馬」と「アイロンのある風景」。家を建てる話と家(?)を燃やす話。家(ハウス、ホーム)と馬(ホース)との関係、絵と絵の中のアイロンとの関係。妄想的外部装置と焚き火。現世的コミットメントと遊離的デタッチメント。
安岡章太郎「ガラスの靴」と「神の子どもたちはみな踊る」。ガラスの靴と踊る神の子。肉的なものと単性生殖。父の不在。
庄野潤三「静物」と「タイランド」。記号化された世界。生きることと死ぬることは等価である。静物と石。
丸谷才一「樹影譚」と「かえるくん、東京を救う」。嘘と本当、夢と現実。「樹の影」の世界と「ぼく」自身の中の「非ぼく」の世界。変身、転生、変貌。呪術的世界とミミズ(肉)。妊娠と虫。
長谷川四郎「阿久正の話」と「蜂蜜パイ」。翻訳論と伝達論。日常と非日常。
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作者の転換点を示す傑作
2001/01/16 23:34
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投稿者:ともさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
このすぐれた連作小説は、前作「スプートニクの恋人」に比べるとはっきりと進歩ないし変化のあとが見て取れる。文体からは過剰だった形容詞や比喩の贅肉が落ちて、すっきり読みやすくなっている。叙述はすべて三人称だ。
最初の「UFOが釧路に降りる」を読んだ時点では、例によって大事な女性(配偶者)が謎の理由で失踪を遂げ、そのかわりに奇妙な女性二人組と遭遇するという、いつものパターンが展開されていて「またかよ」と思わずにはいられなかった。しかし、妻とはあっさり正式に離婚してしまうし、新しい女性とは「結合できない」ので、これまでの小説とは明瞭に異なり、失われた自分の半身を探す物語とは切れていることがわかる。かわりに提示されるのは、TVニュースで映し出された地震後の惨状のような、日常の奥底に内包された亀裂の断面である。
それにつづく別々の5つの物語はそれぞれ独自の不思議な後味を残す。どの話の中でも地震は遠くに起きた・しかし自分にかすかに関係するはずの破壊や危機の象徴である。暗示的なシンボルが説明抜きで投げ出され、物語がまさに始まりそうな予感を見せるところで唐突に終了してしまうという点では、村上春樹の短編はまるで日本の昔話のようでもある。
また、最後の「蜂蜜パイ」では珍しく作者の分身を思わせる小説家が登場する(西宮出身で早稲田大学出身という固有名詞が語られる)。プロットはある意味で陳腐な三角関係で、なおかつ結末も、この作者にしては例外的なほど妙に甘い。しかし、小説の中に別の童話のストーリー生成が劇中劇のごとくからんで、対位法的な効果を生むテクニックなどは非常にうまい。
この作者にとって、「ねじまき鳥クロニクル」はある意味で、それまで膨張しつづけた『物語』の到達点だったと思われる。その後、「アンダーグラウンド」や「約束された場所」などのジャーナリスティックな仕事を通して、社会との“コミットメント”の位置づけと小説への結び付けを模索していたにちがいない。
個人的には、「アイロンのある風景」「タイランド」「かえるくん、東京を救う」が気に入った。短編小説として、いずれも文章・ストーリーともに見事な出来映えである上に、通して読んだときの明暗・緩急の交替が、良い音楽のリズムのような快感を与えてくれる点が素晴らしい。傑作だと思う。