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紙の本
おかしなのはあなたの方だ
2000/12/22 17:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:吉野桃花 - この投稿者のレビュー一覧を見る
小林信彦が自分自身が付き合って感じた部分だけで、渥美清を描き出した作品。ほとんど事実に違いないことでも、自分が直接見聞きしたこと以外は書かない、という姿勢である。
私などは、寅さん映画も1本も見たことはなく、ただ後年の“日本人の情緒の象徴としての寅さん”というイメージしかなかった。
野心家で負けず嫌いで、才気ばしった若い頃の渥美清を堪能させてもらった。
その頃、夜中まで2人で笑いの話をし合ったというのだから、小林信彦が渥美清に与えた影響は少なくないだろうし、普通だったらそのまま親しく付き合うような気がする。
でも、後年の“寅=渥美清”のころになると、著者は明かに渥美清とは一線を引き、振り払うようなまねまでするのである。
正確ではないのだけど、この作品の中で小林自身が“僕には奇妙なくせがあって、人をエスカレーターの上に乗せるまでは、あれやこれやと世話をやき、いったん乗せてしまうと、もう一切関係なく自分とは違う高みにいる人として見ていたいのである。”という内容のことを書いていて、私は、あっ!と思った。これだよ。これ。
横山やすしを書いた『天才伝説 横山やすし』のなかでも、映画に出ろ出ろと話を進めときながら、映画が順調に進みだすと、すっと側からいなくなるのである。
その後、映画(唐獅子株式会社だったかな?)の2作目の話が上手く進まなくなって、そこからやすしはなんだか転げ落ちるように不幸な状況になっていくわけだけど、フォローもなし。
正直、けしかけといてそれはないだろう、と思ったのだった。
そうか。そういうことだったのか。
なんだか、小林信彦の方がよっぽど“おかしな男”なんじゃないか、と思い始めてしまった。
十数年後に小林信彦が亡くなって(勝手に死後のこと考えてすみません)、小林信彦のことを書いた本が出たら、絶対読もうと思う。
自伝は書いてるから、ともかくそれは読んでおこうっと。
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