紙の本
この小説をぜひヨーロッパの人に読んでもらいたい。日本人作家観が変わる
2002/10/23 20:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて辻邦生の小説と塩野七生の評伝を読んだ時、日本人が西欧を舞台に歴史小説を書くことができるんだ、と驚いたけれど、佐藤賢一の小説に出会ったときは、それこそ「日本人はとうとうヨーロッパを自分のものにした」と感心し、喜んでしまった。この本も西洋歴史小説いったほうがぴったりだし、ゾンネバルト事件を解決する推理小説でもある。ちょっと違うけれど、西洋版『ぼんくら』とでもいったらいいのだろうか。
主人公ドニ・クルパンは人文主義者。パリ夜警隊長で、剣客でもあるが、ま、これが何とも言えぬお坊ちゃん。女性の体にいつもクラクラしているという設定のワトソン役。本当の主人公は、マギステルことミッシェル。貴族で美丈夫、頭がよくて優しい。おまけに姉のアンリエットも凄い美女、もしかすると弟を超える才能と魅力の持ち主。ここらは今のコミック風かもしれない。
ともかくミッシェルは、もてる。今は修道院にいるカトリーヌ、印刷屋の未亡人マルトをはじめ、評判の美女たちとどんどん関係する。その彼に憧れ、こぼれんばかりのマルトの胸の膨らみに気もそぞろなクルパンというのが、いかにも定石通りの配役だけれど、それが陳腐にならないのが佐藤の偉いところ。といって筆は柔らかく、読んでいて当時のパリに親しみを覚えてしまう。
当時の宗教界に輩出したカルヴァン、ロヨラ、ザビエル、それに絡む国王フランソワ。こういった歴史上の人物が、何の違和感も抱かせずに小説の中を生きていく。ノートルダム寺院での探索の楽しいことといったら。全部で40章、各章に「私ことドニ・クルパンがガーランド通りの印刷屋を訪ねること、ならびに生涯忘れられない恥をかくこと」という、あのドンキホーテばりの紹介がついている。主題は宗教だけど少しも堅苦しくない。日本人がこういった小説をどうして描けるのかと、本当に感心する。
『双頭の鷲』『カエサルを撃て』『王妃の離婚』など今まで作品が出るたびに佐藤賢一の奇跡を見てきたけれど、今回も脱帽。1968年生まれの佐藤は西洋中世史を専攻。衒学趣味に陥ることなく、該博な知識を誇ることなく、自然に小説の背景に溶け込ませることの上手さ、そして人間への洞察。辻邦生、塩野七生ですら果たせなかった自然体での西洋小説。多分、21世紀の日本で最も重要な作家の一人になるだろう作者に脱帽。
紙の本
2000/6/25朝刊
2000/10/21 00:15
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投稿者:日本経済新聞 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人は神によって救われるのか——。『王妃の離婚』で直木賞に輝いた著者が、十六世紀のパリを舞台に宗教と人間という壮大なテーマに挑んだ。大船主の二男で夜警隊長のドニ・クルパンと、パリ大学神学部きっての秀才、ミシェルが様々な事件を解決。最初はばらばらに見える事件の陰から、やがて学生街、カルチェ・ラタンとパリを揺るがす陰謀が現れる。
ミステリータッチの中に神学論争を織り込み、神や絶対を求める人間の悲喜劇を描き出す手並みは鮮やかだ。後に貴族に列せられたドニ・クルパンの回想録という形式が物語にリズムを与え、一気に読ませる。
(C) 日本経済新聞社 1997-2000
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宗教革命前夜、まさに夜明け前のパリの青春譜。浪人決まった頃に読んで、やっぱり男の子になりたいと切実に思った。大学院で西洋史を専攻していた著者の習俗の描き方がいい。
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16世紀、パリ。
セーヌ川左岸の大学街カルチェ・ラタンをめぐる物語。
キリスト教世界と、神学を学ぶ学生、学僧たち、イグナティウス・ロヨラ、フランシスコ・ザビエル、カルヴァンなどの歴史的人物を脇役にしている。
カトリックの信仰が生活の基盤になっている16世紀のヨーロッパ。
なかなか大変な基盤だ。
この時代に、すでに矛盾が生じてきているカトリックの考えを、現代も踏襲して政治の基盤においているアメリカって、すごい国だなぁと思った。
アメリカ人の約40%しか進化論を信じていないというし。
信じている40%の人は、どんな人なんだろう。
やっぱり、ミシェルみたいな聖職者だったりするのかも。
カトリックの教えもキリスト教の教えも、結局は男性のものでしかない。
男性中心ではなくて、人間とは男性のことなのだ。
そんな女性蔑視のカトリックが、男女平等と思われるアメリカや今日の世界で受け入れられているなんて、やっぱりとっても不思議だ。
この物語は、「ドニ・クルパン回想録」と題されています。
プロローグとして、ドニ九世から「序 日本語訳の刊行に寄せて」という文章を載せているし、巻末には解説として著者本人が「解説 ドニ・クルパンとその時代」としてドニ・クルパンの歴史的背景を史実として書いています。
でも、それはたぶんちょっとしたトリックで、ドニ・クルパンはやっぱり架空の人物ではないかな。
「日本語訳」という割には原作者の名前がまったく出ていないし、この設定事態が著者による創作だと思う。
巻末に「参考文献」がなかったところも、これだけの「序〜」や解説をつけているのにアンバランスだし。
創作の人物ドニ君、なかなかの好青年で、天才マギステル・ミシェルに翻弄される姿はとっても魅力的です。
健気にがんばるドニ君、「史実」によって将来大人物になることが分かっていても、なんだか応援したくなってしまいます。
難しそうな表紙だけど、なかなかおもしろくておすすめです。
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図書館で借りてしまいましたが、これは買うべきだろうなと言う一冊。
佐藤賢一さんは『ダルタニャンの生涯(岩波新書』で入ったクチですが、小説はこれが初めてでした。ミステリーなのか歴史小説なのかファンタジーなのか悩むところですが、十六世紀のパリ学生街最高ですー。
地図がついているので、ドニさんとマギステルが肩を並べて(身長差ありそうですが)、サン・ベルナール河岸を歩いているんだなぁなどと本文と突き合わせてニヤニヤしながら読みました。
2010/1/16読了
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「王妃の離婚」の佐藤賢一の本。
16世紀のフランスが舞台で、お坊さんたちがたくさん登場します。
またザビエル頭だらけだよ、と思っていたら、フランシスコ・ザビエルご本人も登場。アジアに旅立つ前のザビエル氏です。
主人公は、水運会社のお坊ちゃまで、泣き虫の夜警隊長ドニ。次々起こる事件を解決できずにそのつど元家庭教師の「マギステル・ミシェル」に泣きついては助けてもらう。
このマギステル(英語で言うマスター、ドイツ語だとマイスター)が実はカゲの主人公であります。
頭がずば抜けてよくて、背が高くて、ケンカも強くて、とってもハンサム。女にもててもててしょうがない。
そんなミシェルも実は秘密を抱えていて…。
そんなこんなといくつかの事件がからみあい、ひとつの大きな陰謀に結びついていくのです。
泣き虫ドニと美貌の学僧ミシェルは果たして解決できるのかっ!!みたいなお話。
カルチェ・ラタンとはパリ大学周辺地域のことで、「ラテン語の街区」というイミ。ここでは、神学を学ぶ学生や学僧たちが、街角のあちこちでラテン語で議論をふっかけあっているから、だとか。
それにしても、美貌の学僧って言われても、ザビエル頭だしなあ、…イメージしにくい。
神学のちょっと難しい話もありますが、娯楽小説の色合いが強くて、まあ、面白いです。
歴史小説って知識のひけらかしに走っちゃうとつまらないからね。
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隊長殿がかわいいです。
へたれのいじられキャラに見えて芯が強い。
そしてマギステルにもう頼らないとか散々いろいろ言っておいて好きな人が失踪したら結局マギステルに頼みに行くとか、かわいいな。
惜しむらくは私がキリスト教にさっぱり明るくないことか。もう少し理解があったらマギステルのかっこいい見せ場をよりかっこよく鑑賞できたのかもしれん。
あと講談調というか、一回一回(一章一章?)で区切ってあるので読書時にキリがつけやすくて読みやすかったです。
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1536年のパリ。警隊長ドニ・クルパンと、元家庭教師の神学僧ミシェルが、学生街カルチェ・ラタンで起こる事件を解決する。
お坊ちゃんな主人公と美形の神学僧という、設定だけだとラノベにありそう。
どんどん話が展開していき、中世のパリの様子や宗教論なども楽しめた。
教会が知識を独占したことが、諸悪の根源というのもよく分かる。
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へたれな夜警隊長ドニと頭脳明晰な美貌の学僧ミシェルが、宗教改革前夜のパリを舞台に繰り広げる推理小説。物語の中に当時の習俗が描かれたり、人々の価値観の基礎であったキリスト教的思想が解説されたり。ただの推理ものではなく歴史・宗教の面からも楽しめる一冊。
ザビエル、カルヴァン、イグナティウス・ロヨラ、その他大物の歴史上の人物や、『ノートルダムの鐘』のカジモドまで出てくるので脇役は超豪華キャストと言えるかも。
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夜警隊隊長のドニ・クルパンは、夜警隊に持ち込まれる事件を、学生時代の家庭教師だった学僧ミシェルと共に解決していく。
宣教師のザビエルが出てきたり、当時のパリの市井も垣間見れる。
映画にしたらミシェルはどんな俳優が演じるのか、ちょっと見てみたい。
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「王妃の離婚」の青春の町を舞台に、「傭兵ピエール」の縁者が活躍する偽翻訳本。「アラビアの夜の種族」を挙げるまでもなく、翻訳を騙ったり、史実の有名人を登場させる方法は、没入感を増す(というよりは創作が現実を侵食してくる)のに有効だと改めて確認した。