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紙の本

アル中男がアルコールを断った。「消し屋の竜」の復活だ。凶器は手。友達(だち)の仇が棲む京都へ乗り込ん

2000/07/10 20:49

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投稿者:松本賢吾 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 デビュー作の『置き去りの街』は北方謙三推賞! 二作目の本作は大沢在昌感嘆! とハードボイルド界の大御所二人のお墨付きがオビにある。これならハズレはないぞとわくわくドキドキ。さらに「著者のことば」で、<京都はアウトローの似合う街だ>と鋭いジャブを繰り出され、そうなのか、知らなかった、京都がね、と意表を衝かれる。清水寺や祇園と舞妓に代表される優雅な街とハードボイルド。果たして似合うのかね。そんな意地悪な目で本を開いた。

 ところがいきなり、<桜木町のスナックで、いつものように酔っていた>と、ハードボイルドの定番、横浜(ハマ)とアル中男が登場する。こりゃ、ひと筋縄ではいかないわ。降参して読み進む。とにかくテンポがいい。文章が小気味いい。スナックで隣に座った女に誘われた部屋には男がいて、典型的な美人局(つつもたせ)。ヒモ男を叩きのめして金を奪い、<おれはワルから餌をくすねて生計を立てている>と嘯く(うそぶく)沢田竜介(さわだりゅうすけ)が主人公。当然のことながら竜介は単なる世を拗ねたアル中男ではない。七年前に捨てた京都では<消し屋の竜>と呼ばれた凄腕の殺し屋だったとくれば、いやでもわくわく度が増すというもの。また脇役が一癖も二癖もある連中揃いで唸らされる。

 なかでも出色は赤坂の一つ木(ひとつぎ)通りのゲイバー「ハリーの店」のオーナーで、<百八十センチを越える上背と、百二十キロの重量、それに顎まで伸びた揉み上げとぎょろりと光る目玉で、どう見てもレスラーか熊にしか見えないハリーだが、正真正銘のホモだ。熊の体の中に女が住みついている>と、何やら先頃芥川賞を受賞した作家を思い出してしまうが、ハリーは隙あらば竜介を口説こうと狙っている。

 そのハリーの店に竜介を訪ねて来た男が殺され、さらに京都時代の友達(ダチ)、峰山(みねやま)が竜介の眼前で殺される。アル中の体が旧友を見殺しにしてしまったのだ。アルコールを断ち、走り、泳ぎ、鴨居にヘビイバッグをぶら下げて殴る。捨てたはずの街に乗り込むためのトレーニングで、一ヶ月後には竜介の姿が京都にあった。消し屋の竜の復活だ。むろん女も絡んできて、かっての恋人の美樹と小悪魔の京子ことキョンジャ。またこの女たちがいいのだ。そして竜介は仕事をする。凶器は手。なぜ竜介が殺し屋と呼ばれず、消し屋と呼ばれるかをその仕事を通して納得させられ、手口の巧妙さと迫力に圧倒される。しかも竜介はスーパーマンではなく、頭を割られて入院したり、腹を刺されたり、拷問で殺されそうになったりしながら、峰山を殺した一味の黒幕を突きとめ、その背後に蠢く巨悪を炙り出して行く。とにかくノンストップでわくわくドキドキしながら読み終わり、ほっと息を吐いて本を閉じると竜介同様にウイスキーのショットグラスに手を伸ばしていた。 (bk1ブックナビゲーター:松本賢吾/作家 2000.7.11)

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