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紙の本
この歌集を同僚と分かち合い、溜飲を下げるもよし、反乱を画策するもよし
2000/07/18 09:15
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投稿者:井上真希 - この投稿者のレビュー一覧を見る
籠の鳥水槽の魚小屋の馬繋がれし犬定期買うわれ(第八章 反乱)
どんな大手企業であっても、経営が破綻する時代である。滅私奉公と引き換えに、ささやかな一生の保障を手にしたはずのサラリーマンにとって、その前提が崩れることは何を意味するのか。外の世界、拘束を解かれた自由な生活を夢見たことはあっても、今さら解き放たれたところで、果たして生き延びてゆけるのか。やはり、ネクタイという首輪ははずせないかもしれない・・・。定年までは。
サラリーマン歌人として知られる著者は、43歳、広告代理店勤続20年、一貫して営業畑を歩み、現在もセールス活動を行う中間管理職だ。営業部長当時は、リストラのため、部下に解雇を通告、その後、成績不振の責任を取る形で課長に降格された経緯をもつ。子供はまだ幼く、マンションを購入したばかりで、「定年まで勤めあげむを前提に生保加入の印寒く押す」の一首から、ローン返済もあるに違いない。下戸のため、飲んで憂さを晴らすこともできず、やはり下戸の同僚と喫茶店でケーキを頬張りながら愚痴をこぼし合ったこともある。その同僚は、異常なまでのギャンブル好きが嵩じて、ある日失踪。自分には到底そんな真似はできないという著者の反乱が、作歌なのだ。日々の鬱屈、怒り、敗北感を、歌に詠むことで浄化している。まったく、何かなければやってられないのである。
通勤電車、休日、転職、上司、会議、忙殺、背広、月曜、休日出勤、名刺、セールス、給料、集金、部下、評価、クレーム、商談、去りし夢、タイムカード、ビル、人波、改札口、忍耐、孤独、人事、倦怠——サラリーマン経験のある人ならば、これらのタイトルから心に浮かぶものは無数にあるだろう。
しかし、サラリーマンの誰もが、子供の頃からサラリーマン生活に憧れていたわけではないはずだ。すべては知らない間に放り込まれた競争社会のなせるものだろう。いい学校からいい会社へ。高度経済成長とともに、皆がレースに参加させられてきた。だが、時代とともに花形の業種は移り変わり、かつて超人気企業に入社したはずが、定年を迎える頃には風前の灯火、それどころか、今やリストラや倒産もありうる。
生くるとはこんな連続なだれ込みて席少なきを取り合う電車(第一章 通勤電車)
昔、「人生ゲーム」という双六遊びをした。あの時すでに、子供同士で刷り込まれた競争をしていたのだと思う。そして最近楽しんでいるのは、パソコンの「大富豪」ゲームである。所詮、最初の手札がよければ大体最後まで「大富豪」か「富豪」で、反対に、スタートが悪ければずっと「大貧民」のままなのだと、一度は見限った。ところが、このゲームには、遊び方のヘルプにも出ていない裏のルールがあった。ある条件下で「革命!」が起こるのである。カードの強さの順番が逆転するのだ。それを発見して以来、ひたすら革命を楽しみにゲームを続けている。
この歌集も、何かを考えるきっかけになると思うのだが。 (bk1ブックナビゲーター:井上真希/翻訳・評論 2000.07.17)
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