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日本人の習性について、昔から
「島国根性」などと称されることがあるけれども
それが具体的に何を示すものか、いまいち漠然としている
そう思って僕は想像してみるのだが
たとえば「井の中の蛙」を自覚するがゆえの劣等感
「井の中の蛙」で、世間知らずゆえの純粋さ
狭く区切られた土地の中で育まれる、濃密でときに重苦しい連帯意識
それらに支えられた、外の世界に対する反骨心
…といったところではないだろうか
そのように、内と外の二元論で世界をとらえることを
「ファシズム的」と揶揄する向きは昔からあるが
まあなんだ
ファシストが自覚的にそれをおこなうのと
ポストモダニストが無自覚的にそれにおちいるのとでは
欺瞞が薄いだけファシストのほうがまだマシと言うこともできよう
表題作は、インド~中東~ヨーロッパと放浪を続けてきた日本人が
オランダ人の妻とともに帰郷する話なんだが
それはなんというか、自由であることに疲れてしまったんだな
自由ってのは孤独であるし、孤独ってのは寂しいものだから
自分が自分らしくふらふらしてる間に
妻もフリーセックス主義に走っちゃって
それで結局、お互いに傷ついてしまったりするわけだ
けれども、だから日本社会に自分を押し込めようったって
そううまくいくものではない
そこでまた夫婦生活は幾度目かの危機を迎えるわけなんだが
それで見出される打開策というのが
マッチョイズムだったりするんだよなあ……
「愚者の夜」は、村上春樹「風の歌を聴け」を抑えて
1979年の芥川賞を獲った作品である
しかし
帰る場所は過去の思い出にしか存在しないとする「風の~」に比べて
そのニヒリズムは不徹底と言わざるをえまい
だからこそ、当時においては高く評価されもしたのだろう
しかしその意味で言えば
併録されている「オレンジ色の海」はニヒリズムに走る以前の
孤独というものを書いていて
なかなか面白い読み物だったと思う