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クリスティの短編集。うち二編は同じ新潮文庫の『クリスティ短編集(一)』と『クリスティ短編集(二)』にも収録されているので、個の短編集で読める作品としては八作品。
どの作品にも、風景や人物の描写においてクリスティらしい表現力に満ちていて、言葉の使い方ひとつを取ってみても面白いし、読みやすい。それはつまり、日本語で読んでいる以上、翻訳が秀逸ということでもあります。
『四人目の男』は、生に執着した女性が軸になった、やや怪奇な作品。こういうこと、本当に起き得るのかもしれない、という気にさせられます。
『縁は異なもの』は、日本に置き換えたら落語にでもなりそうな作品。主人公はさしずめ身代を食いつぶす若旦那か。時折、こういう軽さを繰り出してくるあたりがクリスティの面白いところ。
『白木蓮の花』と『仄暗い鏡の中で』は、クリスティの表現力を満喫できる作品。文字をたどるごとに目の前に浮かぶ情景が美しい。
『ジェインの職探し』『赤信号』『青い壺の謎』はクライマックスのスピード感が楽しい。推理小説のような要素も含まれていて、読了後に「こう来たか!」と思わせる展開が好い。
『あっぱれ、男』は、このタイトルがすべてを物語る作品。状況に翻弄されつつ、最後に男振りを見せる主人公に好感が持てる。
クリスティはポワロもの以外にもたくさんの作品を遺しているので、そのうちの一つとして楽しむのが良いかと。