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病気腎移植の取材中、ある医師から勧められた本。密室の中で生まれた疑惑を国内外の取材から考察し、最終的には科学の狂気に結び付けている。「神々の沈黙」の取材ノートでもある。中古で2千円近く、神々の-も同じくらい。著者も和田医師も亡くなり、そろそろ再版してもいいのではないでしょうか。
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心臓移植提供者になった山口さんがおぼれた現場は懐かしい故郷の海です。その登場してくる人々も医院も身近に感じています。それだけに今更ながらに戦慄を覚えます。
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Kindleの素晴らしい点は
何と言っても
今、読み終わった作品に
関連する書籍を、即座におススメしてくれるところ
本書も、その流儀に従って、早速
昭和44年3月から
朝日新聞の日曜版に連載していた
「神々の沈黙」という長編小説の
創作ノートと言う位置付けの作品
朝日新聞が
二十世紀の知的アドベンチャーを主人公とした
連載小説を企画
その第一回として、心臓移植を素材とした
小説の執筆依頼を受けたコトがきっかけだった
医学に対して、全く知識がないコトを理由に
一旦は、断った企画だった
終戦直後、自身が結核治療のため
当時、未だ生存率が低く
開発途上にあった、胸部成形術という手術を受け
成功しているコトで
患者の立場から、心臓移植という素材を扱うことの意義を見つけ
受諾する事となった
心臓移植の問題点を、正確に把握するため
実際に、移植の行われた国を巡らなければならず
南アフリカ、アメリカ、イギリスの3カ国を取材先に定めた
当時、人種差別の激しかった
南アフリカのビザがなかなか下りず
その間に、日本初の心臓移植手術が
札幌医科大学で行われたという一報を知る
一報を受けた吉村氏が
「世界初の心臓移植が
南アフリカで行われたように
日本の中央から遠い札幌で
心臓移植が実施されたことが
何か当然のことのように思えてきた」
と思ったのは、なかなか意味深である
早々に札幌へ向かい
ドナーとなった、山口青年の救助をした
警官や貸しボート業者
水難事故として、記事を書いた地元記者に取材し
山口家の葬儀に参列
一躍、時の人となった
札幌医科大学の心臓外科医である和田寿郎教授
当初から、記者の中には
和田教授に対して
「マスコミを巧みに利用する人物」として
冷ややかな見方をする者が多かった
その後も、新聞やテレビなどで
経過を見守った
そんな中、南アフリカへの入国査証が下り
慌しく出発する
イギリスではロンドンの図書館で
心臓移植に関する新聞、雑誌の閲覧を行い
ヨーロッパでの反応を知る
一般人は、世界初の快挙を成し遂げた
クリスチャン・バーナードを英雄視扱いしているのに反し
ヨーロッパ医学界の態度は、冷淡で
「拒絶反応の問題は、未だ未解決で
基礎的に不完全な現状で、心臓移植を行うことは
医師として許されるべきではない」
と激しく非難していた
その後、南アフリカのケープタウンへ向かう
そこでは
尋常ではないアパルトヘイトを目の当たりにする
黒人同士の喧嘩を頻繁に目にする中で
そのような争いが、南アフリカの医学に影響を与えていたことを知る
刃物などの凶器を使用した殺傷事件が極めて多く
それらの傷害者は、続々と外科医の元に運ばれ
総じて外科技術が高度なものになったという
バーナードが勤務している病院長や同僚
彼が最初に心臓移植をしたドナー
ドナーが事故に遭った現場で
救助活動をした人や
ドナーの家族
レシピエントの家族に対して
綿密な取材を行った
40日間に及ぶ、海外取材を終えて帰国
その一週間後にレシピエントだった宮崎君が死亡
葬儀に参列する
帰京し、連載予定の小説の題名を
「神々の沈黙」と決め、執筆を開始
札幌医科大学で、日本初の心臓移植が行なわれ
その不透明さ故に、海外と比べて
30年以上も遅れを取ってしまったことや
医師から作家に転身した
渡辺淳一が、当時
助手として、その手術に立ち会っていた事は
彼の著作を読んで知っていたものの
吉村氏が
実際に、その当時に起こった出来事を
タイムリーに取材しているとは
本当に驚いた
「神々の沈黙」は、残念ながら
絶版になっているので、未読だけど
むしろ、本書に巡り合ったことは奇跡的
日本でも、ようやく実施されるようになった臓器移植だが
まだまだハードルは高い
何をもって、人の死と判定するか
それまでの死の定義は
心臓の停止、呼吸の停止、刺戟に対する一切の反応の消失とされていたものが
医療器具や、蘇生術の進歩のため
断定が不確かになってしまった
また、本書で最も印象的だったのは
「医学は、悲劇的喜劇である」と
世界で初めて、心臓移植を行ったアメリカの事例では
死を間近に迎えた、68歳の男性に
心臓移植を企てたものの
ドナー候補の青年が、小康状態を保ったため
心臓摘出が不可能になり
病院内で飼育されていた
チンパンジーの心臓を移植し
術後一時間で死亡している
移植に限らず、医療においては
一般人には、想像もつかないような事が
行なわれ続けた結果
我々が恩恵を受けているのかと
なかなか感慨深いものがある
もう一つ、印象的だったのは
「元々、和田教授に対する批判も
一部ではあったものの
心臓移植を受けた、宮崎君が亡くなった直後から
マスコミなど、批判者の数が激増したことで
一般の人々の間に、微妙な心理が働き始めた」
「批判者が、多分に感情的な批判を行ったことによって
全面否定というものは
この世にはあり得ないということを感じていて
シーソーゲームのように
社会のバランスを保たせようとする
庶民感情なのかもしれない」と
これは、なかなか興味深い
現代でも、変わらず同じ事が繰り返されている
SNSの発達で、多少の違いがあるにせよ
人間のすることは
いつの時代も、変わらないものなのだ
吉村作品は、いつもその事を気づかせてくれる
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#吉村作品にハズレなし