紙の本
“freiabereinsam”哀しくも魅力的な調べ
2005/03/20 01:08
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:RinMusic - この投稿者のレビュー一覧を見る
『F.A.E.ソナタ』と呼ばれる作品がある。ヴァイオリンとピアノのために作曲されたこのソナタは、第一楽章をアルベルト・ディートリヒ、第二楽章と第四楽章をロベルト・シューマン、そして第三楽章を本書の主人公となるヨハネス・ブラームスが手掛けたものである。「スケルツォ」楽章だけがブラームスの作として今日世に伝えられているが、本書を読んだ後にこの伴奏譜を奏でてみると、ブラームスの人生がここから溢れ出てくるのが感じられる。これは決してセンチメンタルな誇張ではない。ブラームスの音楽が持つ普遍的な力であり、その力ゆえに、センセーショナルな新ドイツ楽派との確執にも耐えることができた。リストとワーグナーは19世紀の楽壇を嵐のように去ったが、<競争相手が世を去ってしまったいま、彼がドイツ音楽界を代表する唯一の巨匠となってしまったのである>(p.143)という一文にすべてが帰結する。本書では特に、このあたりの事情が注意深く扱われており、複雑な事情をより客観的に描写する努力が見られる。三宅氏によって丹念に引用されたブラームス周辺の言動や手紙文が、ブラームスという人物像をよりリアルに描いている。つまり、ブラームスというのは途方もなくいい人で、途方もなく気難しい人だったということだ。肯定的な要素は否定的なものの影に吸われていく…ブラームスの作品の多くに見られるものだが、その空気は彼自身の性格内に留まらず、ブラームス亡き後に堰を切ったように氾濫するペシミズム的雰囲気の予兆でもある。フルトヴェングラーがブラームスを「ドイツ音楽の評価を最後に確立した人」と評したことの意味深さよ!
音楽は常に不完全である。常に虚飾と真実との闘いを、作曲家は繰り広げている。故に、傷つけ、傷つけられる関係が絶えない。ブラームスも旧敵が一人ずつ去っていく中で、丸山眞男が言ったように「音楽的内容は楽聖たちの後継者として少しも恥ずかしくないものだったけれど、なんせ話す言葉が古すぎた」(中野雄『丸山眞男 音楽の対話』p.228)己の姿に、増していく孤独を重ねていたのだろう。<秋のソナタ>という象徴的な比喩から、ブラームスの哀しくも魅力的な晩年の調べが聞かれてやまない。
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私はブラームスの音楽が大好きだ。
なぜかわからないが、初めてその音楽を聴いた時に、なんだか産まれる前からずっと知っていたような、それでもって魂が震えているようなとても不思議な気持ちがした。それほど、私はブラ−ムスに深い感銘をおぼえてしまったのである。
ずーっとそんなブラームスがどんな生涯を送ったのか知りたかった私がちょうど出会ったのがこの本だった。
噂では、シューマンの妻であるクララと不倫状態にあったりして、かなり悪いイメージを持たれている方も多かったようなのだが、この本を読んでいてブラームスがいかに感性豊かな人間味のある作曲家だったかがよくわかる。
また、ブラームスを取り巻く人々の様々な人間模様もこと細かに書いてあるので、音楽好きにとってみればたまらない一冊でもある。
この本を読んで、私は、どうしてもブラームスのことが嫌いになれない。それどころか増々好きになってしまったのである。この本を読んでから、再び彼の音楽を聴くと、彼の内面をその音楽から一層読み取ることができて、増々感動してしまうのだ。
ときどきカラーの写真も挟み込まれているので、すごく綺麗で飽きもこない本だ。読んだらきっとあなたも、ブラームスの辿った道へ旅立ちたくなること、間違いない。
世界中の著明な演奏家によるコラムや、年表、作品表などもついているのでかなり便利に使える。
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ブラームスの人生を簡単に知るにはよい本だ。ロマン派後期のブラームスは「秋の作曲家」という比喩はもっともだと思う。クララ・シューマンとのプラトニックな関係や、交響曲1番・ドイツレクイエムの背景は興味深い。また、マーラーやブルックナーをどう思っていたかも分かる。私のすきなハンガリー舞曲についてはあまり書かれていない。
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《読んだ時期:2008年1月》
ブラームス好きとしてはきちんとブラームスに向き合いたい!と思い手にした一冊。
コンパクトにまとめられているが、実に分かりやすく、内容も濃い本であった。
この作曲家シリーズ、読破してみたい!
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ブラームスって、ひげをはやしたおじいさんって言うイメージが強いですが、若いときはとてもかっこよかったようです!
そんなことを知ってしまうと、もっと知りたくなってきます!!
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購入済み
内容(「BOOK」データベースより)
貧民窟の一角に生まれたブラームスが、シューマンの熱烈な賛辞によって一躍有名となり、ドイツ音楽の巨匠としての名声を得るまでの64年の生涯。ワーグナー派との対立抗争、作品の生成過程、シューマン夫人クララをはじめとする多くの女性たちとの交渉など、さまざまな角度からブラームスの人間と芸術を描く。若杉弘、堀米ゆず子、K・ライスターら9人の音楽家のコラムを収録。
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欲しくて手に入れた本。少し残念なのは、ページ数が思ったより少なかったけど、写真の数が割りとあったので、良かったと思います。ブラームスとクララシューマンとの関係は、ブラームスの片想いで終わった様な気がします。もし、その後に出逢うアガーテと結婚してたらどうなってたのか気になったりしてます。
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(1988.06.18読了)(1986.12.26購入)
(「BOOK」データベースより)
貧民窟の一角に生まれたブラームスが、シューマンの熱烈な賛辞によって一躍有名となり、ドイツ音楽の巨匠としての名声を得るまでの64年の生涯。ワーグナー派との対立抗争、作品の生成過程、シューマン夫人クララをはじめとする多くの女性たちとの交渉など、さまざまな角度からブラームスの人間と芸術を描く。若杉弘、堀米ゆず子、K・ライスターら9人の音楽家のコラムを収録。
☆関連図書(既読)
「モーツァルト」田辺秀樹著、新潮文庫、1984.10.25
「バッハ」樋口隆一著、新潮文庫、1985.04.25
「ベートーヴェン」平野昭著、新潮文庫、1985.12.20
「チャイコフスキイ」森田稔著、新潮文庫、1986.05.25