紙の本
りんさんの「りん」としたところ
2006/02/20 13:53
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
詩の創作ノートのような部分も多く、大正、昭和、平成を生きた一人の詩人、一人の女性が書いたエッセーとして、著者の詩をもう一段味わえる内容です。「表札」や「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」「弔詞」「くらし」など、良く知られている詩が生まれた時の著者の気持ちを知ると、これらの詩がさらに深みをまして届いてくる気がします。著者がどのような思いで詩を書き続けたのか書かれているのを読むと、言葉と生きること、生活することの関係の深さを教えられるようです。
例えば「ドレモコレモミンナクッテヤル」と、怖い笑いを感じさせる「シジミ」という詩。これにも「あのね、私といっしょに、もう少し遠くまで行きましょう」という言葉が添えられると、とたんにやさしさが加わってきます。「一人暮らしでは一回では食べきれない」で残ってしまうというところには、生活がにじみでています。
表題になった「ユーモアの鎖国」では、戦争の「美談」が「命がけのこっけいさ」と感じられるようになっていく時の流れが描かれます。働く女性の少なかった時代に働くこと。銭湯の情景。そんな、戦中からつい数十年前までの出来事をとらえて語られる言葉たち。ゆっくり、ゆっくり読みたい懐かしさ。なんだか、もっと話を聞いておけばよかったとこのごろ思う、亡くなった母の言葉を聴くようなエッセーでもありました。たった半世紀ぐらい前の生活の記憶も、年を追うごとに人の命の入れ替わりの中で消えて行きます。残してくれてありがとう、と言いたくなりました。
優しいばかりではなく、ちょっぴり厳しく心に残った言葉を最後に引用します。りんさんの「りん」としたところが感じられる言葉です。
「ずいぶん生きてきた、と思いました。この先、ほんとうにひとりぽっちの老年が私をおとずれたとき、詩は私をなぐさめてくれるでしょうか?冗談ではない、という、もう一つの声が私をたたきます。そんな甘ったるいのが詩であるのなら、お砂糖でもナメテオケ。」
電子書籍
「詩」の力を存分に感じる作品
2021/01/28 23:24
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投稿者:ぽん - この投稿者のレビュー一覧を見る
津村紀久子さんの著書「枕元の本棚」で紹介されていて、石垣りんさんのことを知りました。
久しぶりに「詩」というものに触れて
頭の中の乾いた部分が水で満たされるような、
静かで満ち足りた時間をもらいました。
作品が生まれるまでの情景や出来事が綴られており、
まるで作者と一緒に詩の世界を巡っているような気持ちになりました。
やさしい文体のなかにハッとするような鋭い目線の社会考察が含まれ、「刺さる」の連続。
ひとつひとつの詩のクオリティと重みが大きく、一冊読み終わるのに時間がかかりました。
エッセイ部分では戦後の大変な環境で働き、家族を支えてきた作者のささやかな日々が綴られています。
同じ「はたらく女性」として、同じまではいかなくても、ここまでの覚悟はあるだろうかと自分に問いかけたくなりました。
何度も読み返したくなる作品です。
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経緯は忘れましたが図書館で借りてきました。今度読み返す用に購入しようと思います。が、詩集を買うほうが良いかな。面白かったですが色々な文章をまとめてあったので初心者向けではなかったかな、と思いました。
解説を書かれた方が石垣さんは良い意味で普通の人だ、と言うようなことを書かれていましたがさすが上手いことを言うなあと思いました。普通の感覚でおかしいと思ったことやそれは違うんじゃないかと感じること。そういう感覚が鈍くなるとどんどん人や団体、社会はおかしなことになっていくんだなあと図らずも気づかさせられた気がします。地に足が着いた考えってきっとこういうことを言うのかな、と。
とは言え日常を観察する視線は凡人とは比較にならないくらい鋭いなあと思いました。人も生き物もモノも社会も見る視線が違うとこれほど形状を変えるのか、とびっくりしました。
そして読んでいて良いなあと思った一文。
「私のふるさとは、戦争の道具になったり、利権の対象になる土地ではなく、日本の言葉だと、はっきり言うつもりです。」
しびれるなあ。
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戦中、戦後の世相を庶民目線で語った作品も珍しい。「ユーモアの鎖国」という表現もいい。戦争で死んでいく人は、決して美談で語られる人ばかりでない。あるいは戦中であれば美談だったのが、敗戦とともに美談でなくなる。こんな世の中に疑問を持たない方がおかしい。著者が噂で聞いた「豪の中の男」。乙な恰好で、日本刀を抱えて死んだという男。そんな見知らぬ男の死を弔い涙する著者の胸中がまざまざと映し出されている感を受けた。生の不条理さと、それを真面目に考えるバカバカしさ。そんな葛藤にも似た想いが、ユーモアの鎖国を解いたのだと理解した。
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まだ戦争経験があり日本が貧しさから抜け出せると信じていた時代の女性のことば。企業に勤めることがもっといいことだった時代。企業に対する姿勢のたたずまいは学ぶものが多い。
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資料番号:010704674
ご利用の細則:貸出可能です
備考:【元の所在場所】自動書庫
http://lib-yuki.city.yuki.lg.jp/info/shoko.html
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これは、interesting!興味深いというべき。
戦前戦後を、職業婦人として丸の内の銀行で働きながら、物書きをしていた著者が、仕事を辞めたあと人生を振り返って書いた短編集。
日経WOMENの特集で、「ポストライムの舟」で芥川賞を受賞した津村記久子さんが推めていたから、読んでみたら、良い感じです。
彼女の生きた時代は、今とは生活感も違えば、女性の地位がまだ低くお茶汲みや集金も女性の仕事だったはずなのに、その仕事に対するスタンスと、物事の評し方には脱帽せざるをえません。
気に入ったエピソードをいくつか。
○ハンドバッグを持って通勤する女性を評した「宿借り」(P10)
○彼女の仕事に対するスタンスの根本的な部分をつづった「事務員として働き続けて」(P95)
また、彼女は同僚として仲間としたい人として、「働く以上しなければいけない地味な仕事を果し、日常の挨拶など上下の区別なく、男女の区別なく、気持よくとりかわし、女性でいて女性をバカにしてかかることのない人」、と言っていますが、基本的で、でも意識しないとできていないなあ。まだまだ若輩者でした。
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◆きっかけ
『詩のこころを読む』(茨木のり子)で著者のことを知り、現実を受け止め見つめているどっしりとしたたたずまいのようなものを感じ、他の作品も読みたいと思って。Amazonでざっと見て特に気になったのが、エッセイ『ユーモアの鎖国』と、谷川俊太郎さんと茨木のり子さんの弔辞も収められているという『レモンとねずみ』。2017/6/21
◆感想
し図。リクエストして他館貸し出し。
p43…ラーメン 「元気になってしまうと「きょうは節約してラーメンにするか」などといいます。値段は安くても健康という高い代価を支払って食べるのに。」
→ドキッ。
p82…ユーモアの鎖国 「どちらか一方の権力に荷担して、その世界で美談を生きようと、または美談に死のうとすれば、力がほろびたとき〝ちょっと乙な格好″でしかなくなる場合があるのを。」
2017/9/12
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津村記久子が自著の中で勧めていた本。
詩人のエッセイやってんな、もっと評論的な本かと思った。
戦前中後を銀行で働く職業女性として独身のまま勤め上げた詩人でもある著者のみた日本。軍国主義、敗戦、左翼の台頭、高度成長…と昭和史にずっぽりはまった生涯を通して、石垣りんという一個人の目線と心で感じ取った描写が興味深かった。
結婚せず母となれなかったが、定年まで銀行勤めをまっとうした女性の立場というと、キャリアウーマンの先駆け、ジェンダーフリーの元祖…みたいな切り口もあっただろうし、そういう書き方の方が興味もひかれて銭にもなったろうに、そういう部分は過度に露出させず、普通に構えず、詩人としての目線を第一に立てているところがよい。
ただ、その詩人の視線ってのが、詩心のない俺には少々難しかったなぁ。感嘆のため息が多いのよ。「あぁ」「おぉ」って…こんなん連発するのはアン・シャーリーだけかと思ってた。