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万延元年のフットボール みんなのレビュー
- 大江 健三郎 (著)
- 税込価格:2,090円(19pt)
- 出版社:講談社
- 発売日:1988/04/04
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紙の本
合う、合わないはやっぱりある。「それでも読んで欲しい」というのは、私のわがままである。
2003/11/20 00:15
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中堅 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「朱色の塗料で頭と顔を塗りつぶし、素裸で肛門に胡瓜をさしこみ」首を括って死んだ、ただひとりの友人や、「茶色の眼で穏やかに見かえすほかにいかなる人間的反応も示さない」赤ん坊、そして、障害児の出産によってアルコールから離れられなくなり、心の闇に怯える妻・菜採子。
主人公・蜜三郎もまた、死んだ友人を想い、夜明けの暗い穴ぼこに無気力にうずくまっていた。そんな時、アメリカから帰ってきた弟・鷹四に誘われて、蜜三郎は妻と共に希望の草の家を探しに故郷である四国の谷間の村へ出発する。
谷間の村で鷹四は、村の青年たちを集めフットボール・チームを結成し、万延元年に谷間の村で起こった一揆に重ね合わせて、100年後の今、スーパー・マーケットの天皇に対して一揆を起こそうとする……。
この小説の魅力は「持続する緊張感」であると思う。主要な登場人物は全員が精神の危機に瀕しており、万延元年の一揆や、戦争直後におけるS兄さんの死についての蜜三郎と鷹四の論争は、まさにそれぞれの「identity」をかけた切迫したものとなっている。また他にも、鷹四の「本当のこと」に関する謎や、蜜三郎の菜採子との確執、谷間の民衆の狡猾さなど、緊張の糸が切れることがない。そのエネルギーは、最後の蜜三郎と鷹四の会話に向かって収束していくのである。
さらに、小説世界の構造についていえば、蜜三郎を中心とした、「危機からの回復」というような、個人の物語の背景に、「六十年安保闘争」という大衆の寓話が織り込まれているために、読み直すことによって新しい意味を発見することもできるだろう。
著者も認めるように、「他者を拒む」表現が冒頭に出てくるために、さらに、そもそもの著者の文体自身が硬いために、また「根所蜜三郎」や、「鷹四」などの登場人物の奇妙な名前によって、読むのを途中でやめてしまう人がいるかもしれない。しかし、純文学の旗手として前線で戦い続ける大江健三郎の臨界点といわれるこの小説をそれだけの理由で放り出すのはもったいない。
私が今回読み直してみて感じることは、「この小説には感傷がない」ということである。それは、登場人物が人間らしくないということではなくて、主に蜜三郎に放たれる強烈な批判や、緊張関係の中に、感傷よりも「生きることへの意思」また、言い換えれば、「くそまじめに生きる意志」が強く含まれているということだ。逆にそれだけに、この物語がこれほど緊張感を保てているとも言える。冒頭の蜜三郎も無気力感の中にいながら「期待」の感覚を探すことから始まるし、友人の死もまた、心の暗闇と最後まで戦った結果である。
私は、この小説には読者の中にある甘えを削りとってくれる効果があるのではないかと思っている。
辛い読書体験の先に、「期待」の感覚が待っている。多くの人に挑戦してもらいたい小説である。
紙の本
大江といえばやはりこれ
2021/12/28 14:54
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
誰もが認める大江健三郎の代表作であり、多くの人が大江の最高傑作と考えるであろう作品だ。現在読んでも日本社会を照らすその幻視性は新鮮であり、今なおというより、さらにその魅力が増しているかもしれない。
紙の本
百年間を描く
2001/03/03 21:28
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:7777777 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『万延元年のフットボール』は「僕」の友人が朱色の塗料で顔をぬりつぶし、素裸で肛門に胡瓜をさしこみ、縊死したことからはじまる。この異様な死からはじまる作品は村を起点にして進んでゆく。
なぜ弟の鷹四は自殺しなければならなかったのか?
100年前と現在が交錯しながらマジックリアリズムで見事に描かれた傑作。
同じ時期に書かれたガルシア・マルケスの『百年の孤独』も視野にいれておくといいと思います。
紙の本
万延元年のフットボール
2019/11/04 23:50
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
頭が悪いので一読しただけではわからない部分も多かった。今度は当時の世相や社会状況なども勉強してから読もうと思った。ただ、それでも魅力的な物語だと感じた。
電子書籍
やっぱりこの作家の作品はいい
2019/01/28 15:08
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
施設に預けていた障害児の我が子を引き取り、弟と妻との子供と一緒に育てるというこの結末は、大江氏の他の作品、例えば「飼育」や「他人の足」のような狭い世界での人間の醜さを描き出した初期作品に比べると確かに救われる部分はあるのかな、ハッピーエンドには違いがないのかなとも思ってしまうが、ストーリーに登場する村落の陰湿さ、部外者(「飼育」の場合は黒人兵だったが、今回は事業に成功した朝鮮人)に対しての卑屈な態度により強い印象を受けた。この内にこもっている鬱屈は、やはり大江氏でないと描くことができない世界なのかもしれない