紙の本
エビを通して、食の南北問題を理解する定番の書
2008/05/23 19:08
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
20年も前に出版された本である。さすがにデータ類は古い。しかし、食に関わる南北問題をえぐり出した本として、『バナナと日本人』(鶴見良行著)と並び、長く読み継がれてきた。
それを、ようやく手にして読んでみた。インドネシアをはじめとする途上国の人たちの労働を収奪した上に私たちの食が成り立っているのがよく分かった。「これは古いデータなのだ」という意識が、かえって生々しさを適度にぬぐい去り、この事態を冷静に見つめさせてくれる。
今どきならば、エビをめぐる事情は、マグロやウナギなどにもあてはまるのだろうと思いながら読み進めた。
それにしても、日本人がエビを購入するときに支払う金額の、わずか7.5%しか現地の漁師さんたちが手にしていないという事実には凍りついてしまった。エビが日常の食事となった国に暮らす者として、うしろめたさを感じないではいられない。
一番の驚きは、もともと歴史的に、日本人はそれほどエビを好んで食していたわけではないという指摘だ。商社やエビ問屋、冷凍食品メーカー、スーパーマーケット、政府などが利害を一致させて、日本人の食を変えたのである。エビは儲かる、そうにらんだ関係者が、いろいろな手を使って、日本人をエビ好きにさせた。
何しろ世界で一番のエビ諸費国である。それも世界で取り引きされるエビの大半を日本と米国(80年代当時のデータ)とで消費してしまっているのだから、いびつである。いや、それで途上国の人たちの暮らしが豊かになっているのならいい。しかし、そうではないという証明が、上の7.5%という数字である。
エビのトロール船は、伝統的な漁場を破壊し尽くす。エビだけでなく、地場産の魚やカニ、イカ、ナマコなど、何から何まで根こそぎ網にからめ取るのだ。高く売れない魚はその場で捨てられる。エビにねらいを定められた漁場は、こうして荒れ果てていく。
最新型の漁船に代表されるテクノロジーの発達は、たしかに北の人々の食生活を豊かにした。しかし、同時にエビなどの漁業資源を徹底的に取り尽くすシステムをも可能にしてしまった。
いずれ行き詰まるに違いない、このシステムが破綻するのはいつ、どういう形でだろうか。その答えは、本書の続編に書いてあるに違いない。こうして『エビと日本人2』をすぐに入手した。
紙の本
ルポルタージュの古典
2011/09/03 11:22
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Genpyon - この投稿者のレビュー一覧を見る
本著は、生物としてのエビが日本人の食材としての海老になるまでの過程を丹念に追い、およそ日本人とエビに関わることであれば、あらゆるデータを揃えた感のある著書となっている。
ルポルタージュの古典と呼んでいい本著のデータは当然に古いものとならざるをえないのだが、今なおそこにある南北問題の枠組みをリアルに描き出すことこそが本著の目的であり、著者が見事な筆到でその目的を達成していくところにこそ、本著の読むべきところがあると思う。
現代日本人の前にある何ということもないかのように見える食材が、まさに南北問題ー特に途上国の貧困もしくは貧富の差の拡大ーに直接つながっていて、さらに、どんな仕組みがそのつながりを隠し、海老を何ということもない食材にしか見えなくさせている仕組みが何であるのかを、筆者は見事に描き出してくれている。
その仕組みにこそ世界認識の本質があり、その本質を見事に描き出しているところにこそ、本著がルポルタージュの古典と呼ぶべき理由があると思う。
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日常、何気なく口にしているエビ。日本人はエビが好きだが、どこからこのエビが来ているか考えたことはあるだろうか。限られた人間が口にするエビを供給するために、環境やそこで暮らす人々の生活を破壊している現状を私たちは知らない。何故そこまでして日本人はエビを食べるようになったのかという背景もこの本では知ることができる。エビによる環境破壊・生活破壊があるという現状認識だけにとどまらず、その向こうにある欧米圏の文明というあるひとつのものさしによって振り分けられた搾取が許される側と搾取される側という世界構造にも思いを馳せた。開国以来、黒船の脅威から自分も「搾取する側」の仲間入りをすることで搾取されることから日本は逃れ、それこそが明治政府の目指した「国際的地位の向上」だったのかもしれない。
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買った本。
日本人がエビを大量に輸入することで、世界にどんな影響を与えるかが描かれている本。
エビの乱獲によって海の環境が破壊され、エビの養殖のためにマングローブの森が伐採され、輸送のためのタンカーでは大量の石油が使用される。
エビ産業に従事する人々の収入格差は一段と大きくなるが、またそれによって糧を得ているのも事実。
『バナナと日本人』とともに、フェアトレードについて考える上での必読書。
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日本人は、世界一エビを食らう人種である―普段何気なく口にするエビ、それを養殖するために、アジアで多くのマングローブが犠牲になっているという事実。
中学生の公民の授業で取り上げたい一冊。
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日本で消費されるエビの養殖などのために,東南アジア諸国では,マングローブ林などさまざまな環境が蝕まれている.この事実はすでに衆知であるものの,多くの人は表面的にしか知らない.この本は著されてから20年近く経つが,そのメッセージは変わらず重要.もっと広く読まれてもよいと思う.
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日本って世界1位のエビ消費国。
でも、何にも知らなかった私達。
マングローブだけじゃなく海も破壊されてる。
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途上国と日本をつなぐ糸をたどる本。「バナナと日本人」に続いて、エビを題材に取り上げている。エビを食べるだけでは決してわかることのない複雑な経路を丁寧に追っている。だいぶ事情は変わってきてはいるが、今読んでも示唆が多い。
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私の大好きな「エビ」って自由化されたのは、ちょうど私達が生まれた頃だったんですね。
さらに、その前年には、「バナナ」が自由化されたらしいです。
だから、私達が成長する頃にだんだんと色んな物であふれかえっていたんですね。
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人類学者になりたくなったんです、この本に出逢って。
モノのルーツを知りたくなったのは、この本のお陰だと思います。
そして、日本人が食べているものの多くが、
諸外国に委ねられているという事、そして大切なものを切り捨てさせている
ということ。。。
日本の自給率、39%ですから。
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エビにまつわる色んな話。
これが資本主義だ!ってことがよく分かる本。
日本のエビ産業(国産98%)が自由化でいとも簡単に、外国産87%に変貌していく様子や、零細漁民達が貨幣経済の末端に組み込まれていく様はもはや仕方ないことにすら思える。
一方、エビを輸出する国々にとってはエビ産業が外貨、技術を獲得する貴重な機会になっているのも事実な訳で。
一概に良い悪いが判断できない難しい問題だと思います。
個人的には、日本がエビ輸入国に変わっていく過程がひじょーに興味深く読めた。
低温輸送インフラの整備、各家庭への冷蔵庫普及、商社・食品メーカー・スーパーの販促、外食産業の成長。
色んな要因があるけど、その中でもインフラってとてつもなく大事だなと。
そしてもう一点。
エビについての研究の姿勢に感銘を受けた。
徹底した現場主義で、インターネットが普及していない時代にここまで調べあげるその研究者魂に感服です。
極めるってこういうことを言うんだなー。
ネットや文献だけでささっとレポート書いてしまう自分が何とも愚かしく思えます。
「開発輸入」、「買い付け輸入」など知れてよかったなと思う用語もちらほら。
久々に学ぶことが多く得られた本でした。
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日本人が食べてるエビはどこから来てるのか。日本人のエビのためにいろんなことが行われてる。養殖のためにマングローブ伐採…わたしの大好きなマングローブ…。でも日本人にエビを売ってを仕事にしてる人もいるんだもんね。
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日本で大量消費されているエビについて、その生産現場から消費までの現場と流通を丹念にたどって解説する。筆者のチームが実際に現地へ赴き、インタビューした成果が詰まっている。1では、インドネシアの漁民の声を拾い、日本資本に組み込まれている様子を描く。トロール船は現地に何も残さずに商品としてのエビを収穫していく。乱獲によって資源が枯渇し、養殖ブームが起こっている。2では、エビの生物学的解説や、伝統的漁法から現在の漁法まで紹介する。日本で消費するエビの八割以上が外国産であるという。3では、養殖漁民の仕事と生活や、輸出するまでの流通の仕組みについて紹介する。エビの養殖方法を確立したのは日本である。4では、エビを加工する工場の女工さんたちの労働状況について紹介する。日本の商社や水産会社が深く関わっていることも指摘される。5では、日本のエビ消費動向について。エビが身近なものになったのはごく最近であり、業者と政府が一体となって冷凍食品を普及させた成果であると指摘する。1986年にはすべての食料品の中で輸入額1位になったそうだ。目次 1 エビを獲る人びと―トロール漁の現場 2 エビという生き物―生態・種類・獲られ方 3 エビを育てる人びと―養殖をインドネシア・台湾に見る 4 エビを加工する人びと―調味料づくり・殻剥き・箱詰め 5 エビを売る人、食べる人―この四半世紀に何が起きたか?1988年発行と古くなった本なので現時点とは異なる点もあるだろうが面白く読めた。かつての水産ニッポンが水産物大輸入国になったということは、食料自給率の問題につながってくる。貿易データ、取引相場などの経済指標が数多く紹介されているし、現地の人々の声もリアリティがあって面白い。漁港、工場などの描写は旅行記のような趣もあり、現地の風景をうまく表現している。国際資本に飲み込まれる第三世界という問題指摘も、変な押しつけがましさがなく、共感が持てる。
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インフルエンザと言えば副作用が話題のタミフルですが我が家でも僕を始め何人かが飲みました。 タミフルは厳密にはインフルエンザを治さない(活動を鈍らせるだけ)上に異常行動等の副作用があると報道されていましたね。そして新型インフルエンザにも有効だと言うので国家を挙げての備蓄計画まであるとか。 そのタミフルは特許の関係で、スイスの製薬大手ロシュが一社独占で作っているんですと。そして世界規模で見ると生産量の約8割を日本が消費しているとか なぜか? ほとんどの国ではインフルエンザは薬であわてて治さなければいけないほどの病気だとは認識されていない。2,3日熱は出るものの安静にしていれば治るもの、あくまで風邪の一種。との認識が一般的らしいです。 そこで連想したのが「エビ」です。 エビ!? そうエビです。エビちゃんじゃありませんよ、海老です(笑)。 みなさんやみんさんの回りにもエビ好きな人って多いでしょ? 日本は世界に冠たるエビ好き民族です。ですが沿岸からの漁獲量だけではその胃袋を満たせず、日本でのエビの消費の9割は外国からの輸入なんですと。 この本を読むとそんな事が書いてあります。
http://chatarow.seesaa.net/article/123746593.html
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30年前の本なのでデータはやや古かったですが。
マングローブの根元で、プランクトンを索餌するエビを想う。
そのエビを三角網で漁獲する漁師たちの伝統的漁業を想う。
国際市場で需要と供給が結びつくことを、多面的に考える。
漁業は特に蛋白源供給以上の意味を
地域にもたらしていることが多いので、
国際商品としての魚介類を見るとき、その視点は忘れてはいけないのだなと
当たり前のことですが、思いました。
中身を知って、買う。