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紙の本

薄墨色の中で最後に燃えた命の焔

2010/07/17 10:49

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:wildcat - この投稿者のレビュー一覧を見る

表紙には、目を閉じた鳥と傍らにはまもなくその命を終えようとする赤いはっぱ。

はっぱは赤い色を強く残しながらも、穴があいていて、
カサカサしたその姿は生命の泉がまもなく枯れようとしていることを物語っている。

中表紙には、若い四羽の小鳥たち。

ここはみずみずしさに満ち溢れた世界だ。

海の見える丘の上に一本の木が立っていた。

もうすっかり年をとっていて、春が来ても芽を出すような力はない。

たった一枚の赤いはっぱが揺れているのは、そんな木の枝の先だ。

そこへお母さん鳥がやってくる。

「なんて すてきな いろの はっぱだろう。
あのこたちの おふとんに してあげよう。」

お母さん鳥は、貝殻や海藻で作った巣の
小さな卵の上に赤いはっぱをのせた。

赤いはっぱの赤は、最後の命を燃やすように輝く。

目を閉じるお母さん鳥とその傍らに寄りそう赤いはっぱ。

表紙の絵はこのシーンを描いていたのだ。

  あかい はっぱは うれしく なって
  そっと たまごを だいた。

  おかあさんどりも、あかい はっぱと いっしょに
  たまごを だいた。

  (あったかくて いい におい。)

  あかい はっぱは、木が げんきだった ころを おもいだした。

お母さんの嬉しそうな誇らしそうな幸せそうな顔。

はっぱもこの幸せを共に感じるのである。

この自分が誰かの役に立つ喜び、
その役に立つのが生命の誕生であることの喜び。

はっぱはお母さん鳥と一緒に卵を抱くことで、
自分の日々を思い出す。

青々としたはっぱが茂っていた頃、
風や雨から鳥たちを守ったこと、
はっぱに抱かれた鳥たちが海の歌を歌っていたこと。

海に日が沈む時、赤く燃えたこと。

鳥もはっぱも夕陽のおかげで赤く燃えたこと。

もういなくなってしまった仲間たち。

  それでも、あかい はっぱは しあわせだった。

お母さん鳥の温かさが赤いはっぱの体にしみる。

赤いはっぱ自身には本来ならばもう温かみは残っていなかったのかもしれない。

でも、お母さん鳥の温かさを受け取り、一緒に卵をつつんだのだ。

赤いはっぱは、だんだんと茶色に変わっていく。

時は近づいている。

ここで鳥とはっぱの絵は、薄墨色になる。

そこにかすかに、いや、奥深くに確かに残る赤。

この赤は、若く元気なころに燃えていた赤よりも、
何よりも、深い赤である。

あの頃は夕陽がはっぱを燃やしたのだが、
この赤はこのはっぱの内面の焔なのだ。

眠くなるたびに体を震わせて耐える赤いはっぱは
最後の命を燃やしたのだ。

近づいた時の中で、命の誕生を待つために。

そのとき、赤いはっぱは薄れていく意識の中でかすかに声を聴いた。

そして、最後の意識の中で、確かに何かが受け継がれたことを見たのだ。

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2010/12/06 11:40

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2010/07/23 06:12

投稿元:ブクログ

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2010/12/10 16:20

投稿元:ブクログ

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