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紙の本
おじさまに注目して読んでみる
2006/06/23 20:53
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
流行り病で両親を亡くして顔も知らないおじさんの屋敷に引き取られたメアリは、陰気な屋敷で、地面に埋まっていた古い鍵を見つけます。それは10年間誰も訪れることのなかった花園の入り口の鍵でした。女の子ならきっとストーリーを知っている定番児童文学ですが、本書はその完訳版。
主人公のメアリはわがままで癇癪もちで、「よくもまあここまで」と呆れるくらい可愛げのない子です。メアリが出会ったいとこのコリンも、彼女に輪をかけた扱いにくい子どもで、自分は病気のせいでもうすぐ死んでしまうと思い込んでいました。二人とも親からの無条件の愛情を知らずに育ち、どこか病んだ心と体を抱えています。同じ著者の手による「小公女」「小公子」の主人公たちは、現実味のない天使のような良い子たちであるだけに、メアリとコリンの「嫌な子っぷり」は強烈な印象でした。
けれど、荒れ果てていた花園が生き返っていくにつれ、メアリとコリンもまた健やかな心と体を取り戻していくのです。「花園は死んでいないわ」とは、荒れ果てた花園に小さな芽を見つけたメアリの言葉ですが、同じように子どもたちの中にも生きる力があり、光とともに立ち直っていく様が、読む者の心をひきつけます。やはり、メアリがハイジ(「アルプスの少女ハイジ」の主人公、天真爛漫な自然児で、とても良い子)でコナンがクララ(ハイジが話し相手に雇われるお嬢様、やっぱり良い子)だったら、この話はなりたたなかったわけです。
そしてまた、子どもたちを闇から救い出したものは、単なるガーデニングパワーではなく、閉ざされた秘密の場所であるという花園の舞台設定に負うところが大きいのではないでしょうか。打ち捨てられ閉ざされた花園は同時に、外界から守られた場所でもあります。その中を豊かにしていくにつれ、外の世界への扉を開ける力を得ていく。最初から開かれた太陽の光がいっぱいの庭園では、美しい奇跡は起こりえなかったと思います。
この「生きる力」は、植物や子どもの中だけでなく大人の中にもあります。ただ、子どもたちほど変化は劇的ではありませんでしたが。
メアリが見つけた花園は、もとはコリンの父親クレーベン氏の奥様が愛した場所。彼女が亡くなった時、クレーベン氏は悲しみのあまり花園を閉ざし、同時に自分の心も閉ざしてしまったのでした。クレーベン氏は、最愛の妻の死から立ち直ることができず、10年にわたって暗闇の中を一人さまよっています。子どもたちには花園があり、互いの存在があり、ディコンという良き友もいましたが、クレーベン氏は一人です。彼の心がどうやって絶望から抜け出していくか……このあたりを味わうには、やはり完訳版がお勧め。父親失格のクレーベン氏ですが、一人の男性としてみると、なかなか素敵なおじさまです。
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