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紙の本
幽玄の味わいの戯曲集
2009/05/06 22:52
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
岡本綺堂は一般には「半七捕物帳」や怪奇小説などが知られていると思うが、歌舞伎通であったとともにその脚本、つまり明治時代の新歌舞伎の作者という面も持っている。当時の人気役者二代目市川佐團次のお家芸「杏花戯曲十種」のうち6作が綺堂作品だったというから、たいへんなものだ。その戯曲のうち代表作「修禅寺物語」などを集めたのが本書で、実にのびのびと、磊落な書き振りで、とにかく歌舞伎好きだったらしいのが現れているように感じられる。
「修禅寺物語」は将軍源頼家に能面作りを命じられた名人、しかし頼家が北条氏に討たれる運命にあるのは周知の歴史。その破滅の跫と面作師の狂気にも近い意地が混交して、妖しい雰囲気を纏って場は進む。
「箕輪の心中」題の通りに、だめな侍と花魁の心中もの。結末は心中と分かっているのだけど、来るぞ来るぞと思いながらどんどん期待が高まってきて、知らないうちに目の前に花びらと艶やかな着物の裾が舞うかのような巧妙な展開に、深い溜め息を吐き出してしまう。
「佐々木高綱」は源頼朝に冷遇された高綱の出家の場面とその心境を綴ったもの。
「能因法師」は平安期の歌人同士の見栄の張り合いを面白おかしく描いたもの、「俳諧師」も芭蕉の弟子という貧乏俳人の心境もので、ただ笑えるというだけでなく、そのおかしみが作中に詠まれる短歌や俳句に託された心情と共鳴する展開は、実に心憎いばかり。
「正雪の二代目」は、攘夷を謳って由比正雪二代目と称される男の挙動の滑稽さ。ある種の狂言廻しのような人間を中心にして、悪党のように見せながら次第に哀感が滲み出て、いつのまにか情けなくも憎めない人間に見えてきてしまう手際が鮮やか。
こうして見ると、美男美女やヒーローにはなりえないような人々の物語が多いようだ。彼らの放った一瞬の輝きや、職人芸や信条への誇り、それゆえに生まれる哀しさなどを、悠々とした筆致で書いている。それぞれ時を越えて人々の生き方に光を当てて、頼家や高綱などの有名人が登場するものは、それなりの重みとともに視点の新しさがあり、市井の無名人には奔放なドラマが用意されている。これを舞台で観ると、さらに劇的に感動してしまうのかもしれないが、活字で恬淡として味わうのもまたよしと思う。
(2008年復刊時の書名は「修禅寺物語・正雪の二代目 他四編」)
紙の本
歌舞伎の演目とは、もともと時代の最先端を描いた
2023/04/24 07:25
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:マーブル - この投稿者のレビュー一覧を見る
『修善寺物語』における娘の虚栄心。『箕輪の心中』では家制度への反発。『佐々木高綱』では勝利者である将軍への反骨心。『能因法師』の自らの作品の価値を高めるためのやらせ風プロデュース。『俳諧師』で選択を迫られる現実を前にした、本音と建て前。そして『正雪の二代目』は風雲急を告げる幕末に蔓延る詐欺行為の顛末。 歌舞伎の演目とは、もともと時代の最先端を描いたもの。そう聞いた事はあるがそれにしても古い時代を舞台としながらも、そこに描かれるのは「個人」に気づき、「個人」の欲望を求めることに正直な登場人物たち。
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