紙の本
背筋が凍るほどの恐怖に因果応報を知る
2011/08/15 08:44
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
忘れられない一冊というものがあるように、人生においても忘れられない人、忘れられない思い出、忘れられない「罪」というものがある。
あなたにとっての忘れられない時は?と聞かれて、一昔前、ましてや夏のこの時期に問われれば大半の人が戦争と答えたのではないだろうか。
「戦争を知らないこともたち」がほぼ大半となった現在では、半年前の関東東北や阪神淡路大震災がそれにあたるよう移行しているのかもしれない。
生き死にを左右する異常な世界の非常時に、人は基本的には本能的に己の命を守ることを第一優先にするだろう。肉親や愛する人でもない限り、目の前の他人よりも自分の命、共に助かるかもしれない可能性よりも自分ひとり確実に生き残る確実な選択肢を取るに違いない。
この物語は親しい「お姉さん」を見捨てて銃撃から一人逃げ隠れて生き延びた、そしてその罪に蓋をして安穏な人生を送ってきた男が 数十年後の帰省でその場その瞬間をフラッシュバックし罪悪感に苛まれるという物語である。いや、それだけではない。
その忘れていた罪悪を思い出させられて尚、都合のよい解釈と自己弁護で再び何もなかった日常に戻ろうとしたその瞬間、さらにより大きな罪悪の連鎖を負うはめになるという、むしろホラーに近いものがある。
私はこの物語をおそらく中学の夏、教科書で読み知った。
まだ純粋?であった当時の私はひたすら罪から逃げようとする彼への単純な非難を覚え、最後のオチにゾクリと恐怖したものである。
年を重ね、程度の差はあれ様々な「罪」を重ねて罪悪感を隅に追いやりつつ日々を生きる大人となった今、改めてこの物語を読みどう感じるか。
この物語を子供はもちろんだがそれ以上に大人に読んでいただきたい。
人は幸福な時よりも不幸な時をいつまでも引き摺る皮肉な生き物で、善幸よりも罪悪を覚えている、そのくせ表面上は嫌なことをさっさと忘れる因果な生き物である。
因果応報。
人が報いを受ける時とはどのようなものなのか。
あの時とは違い数倍の、背筋が凍るような恐怖を覚えつつこの物語を私は読んでいる。
紙の本
山川方夫は素晴らしい
2021/11/04 21:39
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
入試問題などにも頻出される「夏の葬列」を含む短編集。
どの作品も戦争が影を落としていて、明るいとは言えない。とても暗いのだが、時代の文脈の中で不可視化された人間の心情や闇が、映像となって頭に浮かぶ。まさに文学である。
表題作も素晴らしいが、ほかもとてもいい。個人的には『煙突』が、印象に残った。
もう少し長く生きて、作品を残して欲しかった。
投稿元:
レビューを見る
未読のため評価は保留。
ただし、表題作「夏の葬列」のみでいえば五つ星になると思う。国語の教科書に掲載されて読んだ方も多いと思われる。
投稿元:
レビューを見る
第1回:山川方夫 『夏の葬列』
http://ameblo.jp/pippu-t-takenoki/entry-10002412844.html
投稿元:
レビューを見る
小学校(中学校?)の時に教科書に載ってたました。
また読み返してみるとまた別な視点で読めますね。小学生にはちょっとブラックな内容なのでは・・・??
投稿元:
レビューを見る
小学生のころかな?公文式で「夏の葬列」の一文が引用されていて、とても気になっていていましたが、高校生の時やっとこの本を手に取ることが出来ました。
目の前で女の子を見殺しにし、そしてその罪悪感が、再び鮮やかに蘇るとことは、人生の皮肉すら感じられます。
人間、罪の意識持つとどんどん悪循環に陥っていくんだということを悟らせてくれた本です。
投稿元:
レビューを見る
地味かもしれないけれど、実はすごい作家さんだと思う。大掛かりな設定も仕掛けもないけれど、妙に印象に残って何度も読み返したくなる。じわじわくる。書き手の手腕ですね。
投稿元:
レビューを見る
著者を知ったのはいつかの国語の教科書でだ。そこで出会い、作品に触れてみたいと思ったのだ。数年が経ち親しい人から贈られた、この本。ページをめくると懐かしさは無く、独特な世界が描かれた。奥行きがあるように感じられた作品である。また日をおいて読む事で、印象も変わるかと楽しみである。
投稿元:
レビューを見る
教科書で「夏の葬列」を読んでから、一度は手を出したいと思っていた作家さんでした。時代としては戦争が終わって、これからどーすんの?という時期のお話が多くて、いわゆる戦争を知らない世代ビンビンのわたしとは何も通じる物が無いんじゃないかなぁ、と思っていたのですが、全く違いました。ある、あるある。全体に流れるもうどーすんのホント?もうなにどーすんの?と言った空気。生命が殆ど脅かされる事のない時間の中で、ふと自分が生きてるんだか死んでるんだか判らなくなるあの感じ。夏の葬列を教科書で読んだとき感じた、「もう取り返しがつかない」というあの絶望。あれは戦争の悲惨さを伝える、というテーマだけでなく、そういったやりきれなさをいつかわたしたちに回想させる為に載せられていたのかなと思ったくらいでした。ショート・ショートもどちらかというとそっけなくて簡潔な文体で、内容も日常的なのに、オチが凄く上手くて全然退屈しませんでした。むしろ興奮したよ。若くして亡くなってしまった事が本当に惜しまれます。「朝のヨット」がすきだなぁ。
投稿元:
レビューを見る
代表作『夏の葬列』。
――あの終戦の夏、僕は確かにそこに彼女といた。
逃れられぬ呪縛と、繰り返される悪夢、過去を断ち切ろうとする一人の青年の前に佇む二人の亡霊の影。
人の心、時代の刹那を微細にとらえた静謐と幻影の作家、山川方夫の作品集。
投稿元:
レビューを見る
私は教科書で読んだことはなかったのですが、なるほど教科書に載るだけあるなぁと思える分かりやすい文章。戦争をテーマにしてるのに在り来たりじゃないストーリー。戦争をしてはいけない理由って、こういうことなんだなぁと漠然と思わされました。
投稿元:
レビューを見る
かなりオススメです。切なくて何とも言えない。自分は一体何を背負って生きて、何に許しを請うのか。本当に間違いではないのか。自己満足に過ぎないのか。ひとり傷つくと誰かも苦しんでいる。繋がってるのが人間達。
投稿元:
レビューを見る
中学2年生の教科書で読んで
衝撃を受けました。
ラストのどんでん返しが今でも記憶に残っています。
主人公の気持ちを考えると
天国から地獄に落とされたようなラスト・・・
投稿元:
レビューを見る
太平洋戦争末期のある夏の日、海辺の小さな町が空襲に遭う。
あわてて逃げた少年は自分をかばおうとした少女を敵機がやってくる方向へ突き飛ばしてしまう……。
少年は成長し、その町を訪ねる。
自分が突き飛ばした少女がどうなったのかを知るために。
表題作以下八編を収録。
中でも『海岸公園』が身に迫った。
主人公は父親を亡くし母・姉・妹と暮らしているが、90歳になる祖父が自分たちの住む東京の家ではなく
愛人の養子の家に一万円の仕送りつきで行きたいと言い出し……。
人間がどうしようもなく人を憎んだり嫌うしかない時が来るということをこの小説に教わった。
肉親を愛せるとは限らないのだ。
2001年9月10日読了。
投稿元:
レビューを見る
短編集。表題作の「夏の葬列」は教科書にも取り上げられているらしい。戦争そのものの悲惨さよりも、戦争と言う状況が生み出した苦い出来事について語られた作品だった。読後は後味の悪さが残るが、それでも、最後は悲しいようでどこか前向きだ。過去に行ってしまったことは決して取り返しがつかない。悔やんだり目を逸らしたりするのではなく、逃げ場はないのだと自覚することしか、前に進む方法はないんだよなと思う。
他には「煙突」がよかった。、