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紙の本
環境問題の「問題」を解きほぐす
2005/07/14 14:53
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栄助 - この投稿者のレビュー一覧を見る
環境問題の本というと、実態リポート、破滅的未来予測、「今こそ力を合わせるべき」という精神的訓示がそのほとんどを占めている。しかし、それだけでは解決の道は見えない。
環境問題の実態は、解決しなければ未来がないということまでは、すでに理解されている。自然科学的原因についても、解決策を講じるのに十分な程度理解されている。とすれば、環境問題で「問題」なのは、なぜその解決策が手遅れギリギリまで実行されていないのか、ということになると思う。
だから、環境問題を理解したければ、実態報告、自然科学的解明に加えて、「問題」を生み出す社会構造の解明が必要になる。本書は、「解決策の具体化をめぐる政治経済的な諸利害の対立という現実」を整理し、どのような新しい諸関係を構築するべきか検討している。環境問題が10年ごとに大きく展開しているが、本書は92年に出版されているものの、内容に古さは感じさせない。問題の根本を捉えているからだろう。
本書の特長の一つは、「地球環境問題」を5つのタイプに分けているところだろう。一言に「地球環境問題」と言っても、様々な問題が様々なかたちで進行している。本当に解決しようと思うなら、問題が起こる構造のタイプで分けて検討しないといけない。この整理によって、問題をよく理解することができる。
本書を読めば、原因は、先進国の(特にアメリカと日本の)経済成長優先主義にあると分かる。それも基本的には、初期の公害問題を起こした構造を解決せずにズルズルときているというから根が深い。しかし、発展途上国との関係を見ると、単純な構図ではないことも分かる。
森林破壊も、砂漠化の進行も、有害物質の排出規制が甘いのも、発展途上国の行為によってなのだ。一見すれば、発展途上国にも問題がある。確かに、たとえばマレーシアのマハティール元大統領は、非同盟諸国のリーダーでもあったが、開発主義者でもあった。
しかし、また発展途上国を環境問題の発生源に陥らせているのは、やはり先進国に起因するものだというのも、本書で理解できる。マレーシアの熱帯林から伐採された木材は、ほとんどが日本に運ばれているし、途上国の甘い環境規制に乗じて本国ではできないような無茶な経済活動をしているのも日本をはじめ先進国の企業だったりする。途上国の多くが、貧困から抜け出そうと、環境破壊に走らざるを得ない状況にある。
現在の国際環境条約の方向が、先進国に環境規制を求めながら、途上国に経済主権と持続的発展の権利を認める構造にして解決を図ろうとしているのを見ると、本書の指摘の鋭さにうなずかされる。
社会構造まで理解されたとしても、実は、それを変革するための行動がなされない限り、現実には解決しない。本書のテーマは、問題解決のための社会構造を解明することなので、どういう行動をとるべきかは、やはり私たちで考えなければならない。
そして、終章には、私たちがどういう方向で行動するべきかという示唆もされている。それは、「地域にしっかりと根をおろす形で大きく発展していく」ことだという。地球規模の問題解決に、やはり地に足をつけて行動していくことを指摘しているのは、大切なことではないだろうか。
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