紙の本
君は大場政夫を覚えているか
2019/06/06 16:02
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノンフィクションにはスポーツノンフィクションというジャンルがあって、そこにも多くの名作がある。
初期の頃の沢木耕太郎にもスポーツノンフィクションの旗手といった印象がある。
ただ沢木の場合、スポーツといっても団体競技よりも個人競技、ボクシングであったり陸上であったり、そういうのが好みにあっていそうだ。
それはスポーツを描くというよりアスリート、つまりは人間に興味があるということだろう。
1989年に刊行されたこの本で描かれているアスリートもボクシングであったりマラソンであったり相撲であったりする。
沢木の名前を一躍有名にした『敗れざる者たち』が刊行されたのが1976年、それからの沢木は多くの賞を受賞するノンフィクション作家に成長していた。
この作品を読んだ時、多くの読者が『敗れざる者たち』と同じ世界観に安堵し、さすが沢木と喝采をおくったものだ。
ここには5篇の作品が収められている。
中でも印象深いのは、昭和48年1月に起こった世界フライ級チャンピオンであった大場政夫の死を描いた「ジム」だ。
この作品は現在休刊となっている『PLAYBOY』誌に載ったもので、掲載誌の読者層にぴったりあった内容になっている。
栄光の真っただ中で死んでいった<僕ら>のヒーロー。その悲劇性を沢木は見事に結晶させた。
それも大場の年長の女性マネージャの語り文として。
その手法は、のちに名作『檀』でも生かされてことになる。
なお、他にはマラソンの瀬古利彦(「普通の一日」)やボクシングの輪島功一(「コホーネス<肝っ玉>」)などが収録されている。
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ボクサー輪島功一の美学に惚れる。
彼こそは男の中の男
(『敗れざる者たち』の続編です。読む際はそちらから)
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『敗れざる者たち』以来の、スポーツ選手に焦点を当てた沢木耕太郎の短編ノンフィクション集です。「ジム」や「ガリヴァー漂流」では、その後の『壇』等に生かされる一人称での語りという実験的手法が試みられていて新鮮。そして特に「ジム」は名作!必見です。
絶頂期から下りていく(いかなければならない)選手の儚さ、物悲しさを強調して勝負の世界を描いています。「コホーネス<肝っ玉>」に出てくる輪島功一の生き様は、衝撃的ですらありました。
ジム
普通の一日
コホーネス<肝っ玉>
ガリヴァー漂流
王であれ、道化であれ
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凄く気遣いの人に見える。
他人の無神経さが許せない人に見える。
そういう神経質さがなければ作家になれないかもしれない。
でも大場政夫に関した章では自分自身はどうなの?と首を傾げたくなる。
まぁでもボクシング好きだし、一気に読み終えれた。
輪島を尊敬する僕としては輪島までケチョンケチョンな書かれ方をされてたら許せないと思ったが、事実そうなりそうに見えながら、結局は著者本人が一本とられるような形での結末。内容も良くて収録された作品の中で一番面白かった。
クセがあって気になる所はあるけど、結局なんだかんだでこの人の作品は好きなんだなぁ。
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とても読みやすい本です。
短編集になっています。
スポーツ人生について・・・・
スポーツ選手として活躍した、その後を書いてある作品集です。
あっという間に読めてしまいます。
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沢木耕太郎のスポーツノンフィクション短編集の中でくりかえし読んだ本。
元世界チャンピオン輪島功一のところはページが擦り切れるくらい読みました。
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小さい頃から、周りにヒーローがいた。
チェンジマンとか、ドラゴンボールの悟空とか。
それで、自分もヒーローになりたくて、変身ごっことかしてた。
そんな風に、憧れの、絶対的な存在として
ヒーローはいた。
現実世界では、プロスポーツ界の選手が
ヒーローとしてよく捉えられる。
イチローとか。カズとか。
彼らは同じ人間なのに、
ヒーローとして存在してほしいという周りの願望故に
彼らが持つ闇は考慮されないことが多い。
それでも同じ人間だし。
闇を見てもらえない分、彼らの孤独は強いんだ。
っていうことで、
この本は、プロスポーツ界のヒーロー=「王」の闇が、
本人や周囲へのインタビューや沢木さんの目を通して
描かれている本。
面白い。
人間って面白い。
同じ人間だけど、持つ能力と環境と
求められているコトのプレッシャーゆえに、
彼らの闇は私が持つ闇とは全然違う。
うん。
沢木さんの切り口が、王を「王」として扱っていなくて面白い。
さらっと読んでみてください。
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増田係長のお薦め本。輪島の生き方、負けてもボロボロになっても挑戦し続けることこそ大切であると伝えたかった。綺麗じゃない辞め方も生き方としてもいい。
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沢木耕太郎さんの本は初めて読みました。
「深夜特急」を読みたいなとは思ってたのですが。
本書を読んでみたきっかけはどこかで読んだ前溝 隆男さんのこと。
国際プロレスのレフェリーだった人です。
国際プロレスはかつて日本のプロレスが3つしか団体のなかったころのマイナー団体。
あまりテレビがつかず、ほとんど観ることができませんでした。
試合自体も近所に来た記憶がない。
ただ、昭和のプロレスファンは馬場派猪木派に分かれてはいても、決してないがしろにできない団体であります。
現在、ある意味プロレスラーの代表みたいに扱われているアニマル浜口も「国際」のレスラーでした。
あと、有名どころではラッシャー木村やストロング小林(金剛)も。
外国人では、カール・ゴッチ、アンドレ・ザ・ジャイアント、ビル・ロビンソンも国際のスター選手でした。
レフェリーも非常に濃い人達を揃えていたと思います。揃えていたわけではないでしょうが、結果的に個性的だったと。
その中にあっては、地味な存在として前溝隆夫さんの名前は記憶に残っていました。
でも、ほとんど忘れられた存在で、今ググってもほとんど情報は出て来ません。
ところが、実はスゴイ人なんですよね。
この人に、ほぼ唯一スポットライトを当てたのが、この中編集に入っている「ガリヴァー漂流」という一編。
もしかしたら、国際プロレスの中でも最もスゴイ経歴の持ち主かも知れません。
戦争中のトンガ王国に日本人とのハーフに生まれたのですが、外見的には縄文人の見本のようで、どこから見ても日本人です。
和歌山県で育ち、中学卒業と同時に大相撲に入門します。
割りと順調な番付の上がり方をするのですが、大した理由もなく若くして引退。
その後、ほとんど経験のないプロ野球に挑戦し、続いてプロボクサーになります。
大相撲力士からプロボクサー。
こんな経歴を持った人、日本のスポーツマンにいるでしょうか。
しかも、ボクシングでもかなりの強さを誇り、ミドル級の日本王者に上り詰めます。
「はじめの一歩」は前溝さんをモデルにしたのではないかと思うほど、気が優しかったようです。
もっと貪欲であれば、その当時の日本ボクシング界に力があれば、竹原慎二以前に世界ミドル級のチャンピオンになれたのかも知れません。
最終的には国際プロレスのレフェリーになるのですが、その時々のエピソードがかなり面白く描かれます。
そして、今回ボクは前溝隆夫さんを描いた小説であることを知っていたのですが、その名前がでてくるのは物語の半分を過ぎてからです。
ほとんど感情移入できないままここまで引っ張ってこれる力のある小説(モノローグ)ではあると思いました。
その他の作品としては最後の表題作「王の闇」。
ジョー・フレイジャーの没落した侘しさを彷彿とさせる佳作です。
「深夜特急・ボクサー編」と��う感じです。
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ボクシングに限らずスポーツの世界で頂点を極め、そして陥落していった男たちの短編集です。
日本で一番歴史のあるボクシングジムの女性マネジャーが、昭和48年に現役チャンピオンのまま交通事故で死亡した大場政夫について述懐する「ジム」を読みたくて買いました。そのマネジャー長野ハルさんは先に読んだ「一瞬の夏」にも少しだけ登場します。
調べてみると、80歳を越えて未だ現役ということで驚きました。どんな人なのか会ってみたい。
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沢木耕太郎のスポーツノンフィクション。「破れざる者たち」より知名度は低いと思う。
表題と取り上げている選手は以下の通りで、マラソン選手の瀬古利彦の他は4人ともボクサー。
ジムー大場政夫
普通の一日ー瀬古利彦
コホーネス<肝っ玉>ー輪島功一
ガリバー漂流ー前溝隆男
王であれ、道化であれージョー・フレイジャー
刊行が1989年だが主に70年台に活躍した選手を取り上げているため、私は輪島とフレイジャーの名前が辛うじて分かるだけだった。
ジム
沢木耕太郎はエッセイでたまに「夭逝者について強く関心を持っていた時期があった」と述べている。「敗れざる者たち」の「長距離ランナーの遺書」の円谷幸吉と、「ジム」の大場政夫はこの着想の源になった人物だろう。23歳で夭逝した世界チャンピオンについて、帝拳ジムのマネージャーの長野ハルの一人称で描写する。
ガリバー漂流
相撲、野球、ボクシング、ボウリング、レスリングと職を変えていく前溝の生き方は、スポーツの世界でもこんな生き方が出来るのか(あるいは、出来るような時代だったのか)と驚かされる。
王であれ、道化であれ
モハメド・アリとレオン・スピンクスの試合を前にしたニューオーリンズ。かつてのチャンピオンであるフレイジャーへの取材を試みる沢木。フレイジャーはクラブのイベントで歌っていた。
本題とは関係ないが「バーボン通り」はニューオーリンズにあるのねということをこの話で初めて知った。
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凄いですね。沢木耕太郎。
なんだかズンズン胸に押し込まれるような言葉が随所に散りばめられている。
沢木耕太郎さんは、時に主人公達を無情に切り刻み、批判する。しかし、週刊誌の無責任な暴露記事と(比較するのも失礼だが)その読後感が圧倒的に違うのは、綿密な取材(この人の場合、ほとんどが直接主人公に付き添って行う)による真実感と、やはりどこかに暖かい眼差しが存在するからだろう。
コホーネスの輪島。格好良いですね・・・。ブラウン管でみるヘラヘラは一面に過ぎず、その裏にある、さすが世界チャンピオンと思わせる執念
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輪島はほとんど動かない足で十一回まで闘ったのだ。ダウンされ、そのたびに立ち上がったが、三迫はついにタオルを投げ入れた。それが輪島にとって最初の、そして最後のタオル投入であった。
「俺の試合にタオルはないはずだって、あとで怒ったけど、仕方がなかったのかもしれないな。お客さんも要求したというし、まったく、堕ちるところまで堕ちたよ・・」
そこで輪島はグラスを取り、一気に呑み干すと、しばらくして言った。
「ハッピー・エンドさ・・」
えっ、と私は訊き返した。輪島はいま、本当にハッピー・エンドと言ったのだろうか。
「そう、ハッピー・エンドさ。これからすぐに死んでも悔いはない。死にたくはないけどね。」
そこに自虐の口調はなかった。
「俺はいつまでやったとしても、ああいう終わり方で終わる俺しか想像できなかった。メチャメチャ、ボロボロになるまでやりつづけ、堕ちるところまで堕ちて、そしてやっとひとつのことをおえられる、そうでなければどうして納得ができる、どうして後悔せずにおえられるんだ・・」(p.145)
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ボクシングを中心にした5篇のスポーツノンフィクション集。敗れざる者たち、一瞬の夏との繋がりが見れる文章も多くとても楽しめた。解説者も述べているが、沢木耕太郎の醍醐味は、一つ一つの作品の連動性であるのかもしれない、と思った。