投稿元:
レビューを見る
(01)
1990年代前半の視座に立ち,心理学や精神医学の観点から,心霊現象,超常現象などオカルト世界を分析している.金縛り,幽体離脱,臨死体験,催眠術,超能力,霊媒,千里眼やテレパシー,ポルターガイストなどに,心理療法,睡眠と脳波の観測,薬物中毒,譫妄,集団幻覚を宛てがい,科学的な因果による説明を試みる.
また後半では,近代の心霊史を概観し,鶴屋南北の怪談,ドイツのホフマンの文学,ラフカディオ・ハーンやポー,鴎外の幻想的な作品を分析する.文学領域は,このような心理的な界隈に発生しつつ,社会や個人の事情が反映され,作家としての資質は,オカルト的な気質にも結びつく.そして,作家の社会性とも強い関連があるようにも思われる.フロイトやユングも動員され,心理を通した文明論(*02)としても読むことができるだろう.
(02)
「工業化社会」と著者は現代の文明を端的に括る.工業や商業といった産業に動員される大衆という労働者という基底にある近代の構図を前提とし,宙吊りになる心理が霊感や霊能として主体に自覚される.その自覚は,堪能され,耽溺される魅惑を放ち,逃避の目当てにもなり,他者を誘い込む魔圏にもなりうるのだろう.