紙の本
空海の実像が描きだされている
2011/11/13 17:56
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書のもとは一九六七年六月発行の筑摩叢書である。司馬遼太郎の「空海の風景」が一九七六年であり、本書もその執筆の参考にされたことであろう。筑摩叢書で一度読んだ記憶があるが、再度読むことにした。東京国立博物館で「空海と密教美術」展を見たことによる刺激もある。
空海ほど伝説の多い人はない。今昔物語などのように平安時代から既に伝説ができあがっている。宗門においては神格化されている。現代でも超能力者の本家本元のように扱われている小説や漫画が書かれている。
本書の著者たちは真言宗の僧籍にあるとともに仏教学者である。資料を選別し、史実と推定されることを史料のなかから抽出し、空海の伝記を構成している。おもに空海の書いた文書からその活動、行跡、事蹟を再現している。書かれてから40年以上経っているが、空海についての研究として一級品の価値を維持しているものと思われる。空海の実像が描きだされているようだ。解説によれば、研究者の間でも評価が高いようである。
紙の本
伝説を排除した空海伝
2015/11/02 22:02
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:しゅん - この投稿者のレビュー一覧を見る
文献考証をして弘法大師伝説を排除した空海の伝記。
仏教への志向、求道の遍歴、真言密教の大成、文化芸術活動などの全般に触れている。おそらく一番正確ではないか!
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空海の話というよ
楊貴妃と周りの人達の呪いの攻防
というかんじだった
いろんな人達が一目見たときから魅了されるという楊貴妃って
どんな人だったんだろうか?
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空海の生涯と思想について解説している評伝です。
本書では、日本各地におけるさまざまな伝説の主人公となっている空海の実像にせまり、さらに空海の求めた仏教のありかたがどのようなものだったのかということを、文献学的な精査を経た根本史料にもとづいて解明することがめざされています。単行本は1967年に刊行されており、かなり古い本ではありますが、いわゆる弘法大師伝説の覆いを取り、空海の実像にせまる先駆的な業績といえるのではないかと思います。
また、最澄が天台宗という新しい一派を開くために南都仏教と激しい抗争をおこなったのに対して、空海が密教の立場から従来の仏教を包摂したと著者たちは述べて、両者の思想のちがいを明らかにしています。こうした見方はやや空海を贔屓しているようにも感じられますが、両者の性格のちがいをある一つの側面からとらえたものということができるように思います。
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本書の題名『沙門空海』であるが、「沙門」とは“僧”というような社会的位置を示すような表現であるので、『沙門空海』で「僧の空海」というようなことになる。そしてこの『沙門空海』は、空海御本人が多用した署名であるらしい。“沙門”というように自身を称したことになる。
空海御本人が“沙門”を自称するということは?“沙門”に込められた「細かいニュアンス」ということが気になるが、これは「官寺」で正規に僧としての地位を確かに得る者というよりも、もっと私的に仏の道を収めようと方々を巡って修行をする活動に身を投じている者というような感が強いように聞こえるのだという。そんなことも本書の中で話題になっていた。
本書は、御本人が書き記した様々なモノ、同時代や少し後の時代の様々な書物での言及というようなことに依拠し、「文献が語る過去の或る時期の人物や活動の様相を探る」という「非常に基礎に忠実」な方法で空海という人物の歩み、活動を明らかにし、その活動がもたらした様々な事柄をも同時代の著名人の事等も交えて語るという内容である。
本書は1967年頃に登場した一種の専門書が1993年に文庫本ということになり、そこから版が重ねられている。自身で入手したのは2018年の「第9刷」であった。或いは「空海の生涯や活動がもたらした事柄を知る」という趣旨、所謂「伝記」ということでは、既に“古典”となっているような一冊かもしれない。
本書の内容に触れて改めて気付かされるのは、「〇〇な例は空海のみ」というようなことが存外に多く在るということである。
例えば、空海は親戚の伝手を辿って当時のポピュラーであった学問に取組み、官人を目指すコースに乗り始めた。なかなかに優秀でもあったらしい。“大学”という場で学んだのだが、そういう経験を有する仏教の僧は空海以外には見受けられないのだという…
“大学”という場で学んだことで、名文家、名筆家として知られる素養が育まれ、同時にやがてもたらす密教に関して、同時代に知られていた学問や仏教の各宗派が説く事柄を包摂しながら高みを目指すとするような考え方の基礎になったのかもしれない。
何れにしても、“大学”というような場で学んだという、身を立てる「流れ」から逸れ、私的に仏の道を収めようと方々を巡って修行をする活動に身を投じながら、仏教系の思想の「最終ランナー」のように現れた密教に着目し、唐に入って学ぶ機会を掴み、国際的な交流も多く経験し、帰国後は多くの人士と交わりながら文化活動や社会活動にも身を投じ、同時に自身の道を求めることも忘れなかったというのが空海だ…何か益々「凄い人物…」と思ってしまう。
「読書の歓び」というようなこととして「実際に会えるのでもない“人物”を知る」ということが挙げられるのではないかと思う。本書は間違いなく、自らを“沙門”と称した男、日本の文化史上で屈指の巨大な存在とも考え得る人物、「空海」と巡り会うことが叶う一冊だと思う。
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本書は空海に関する本の中で群を抜いてロングセラーになっている本と言うことで、私が購入したものは2015年の第八刷でした。私は素直に頭から読んでいきましたが、文末にある竹内信夫氏の解説を先に読むと、もっと理解が深まっていたかなと感じます。というのも本書の題名である「沙門空海」ですが、竹内氏によればこの本が出る前ほとんどすべての本が「弘法大師」研究と言うことで弘法大師という呼び名を使っていたそうです。そして弘法大師というのは空海入滅後100年近く経った後に天皇から下賜された名前で、この名前は伝説的存在というニュアンスが含まれています。そのため弘法大師研究になると、日本全国に散在する弘法大師伝説(例:奇跡を起こしたという類も含め)までが対象になってしまいますが、本書は人間としての空海に焦点をあてた点において画期的な本だったとのことです。ですからこのような背景情報を知った上で最初から読んだらより面白かったのではないかと読後に感じた次第です。
読みやすさで言うと近年出版されている空海入門書と比較すれば格段に難しいですが、空海を学びたい人は本書は必須なのではないかと感じましたし、個人的にとても感銘を受けました。