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自分のお腹に宿る生命を愛しみ、その誕生を心待ちにする。妊娠とはそういうものだと思っていた。「妊娠カレンダー」の姉の感覚はそれと対極に位置する。彼女にとって妊娠は体を変化させる要因であるにすぎない。もしくは妊娠を、自身の妊娠として実感できていないのかもしれない。
両親を早くに亡くした姉妹。主人公の姉は妊娠を控えていた。主人公と妊婦の姉と義兄の、妊娠から出産までの日々を綴る。
農薬入りのグレープフルーツジャムを作る妹の悪意はどこからくるのか。妊婦の姉がどんなに理不尽な我侭を言っても、決して反抗せず従ってきた主人公。そして夫の義兄もまた従順であった。主人公はそんな義兄に対し「苛立たしい気持ちさえする」。義兄に対する苛立たしさは同時に、彼と同じように姉に対して従順な自分自身への苛立たしさでもあったのだろう。グレープフルーツジャムを作り続け姉に食べさせる行為は、姉に従順な自分自身への反抗であったのではないか。
当たり前に繰り返される日々に目を凝らし、そこに潜む闇を微細に描写する。小川洋子さんは天才だと、改めて実感した一冊です。
同時収録の「ドミトリイ」もまた秀逸。
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お姉さんのヒステリックと食欲が読んでてちょっと怖かった。
そんでもって、グレープフルーツジャムをわざと姉に食べさせ続けてたんやったら、その主人公ももっと怖い。
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妊娠のイメージは一般的にピンクなどのパステルカラー、毎日楽しいなどという明るいイメージが付き物であるが、そうではない「妊娠」の話。
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博士の愛した数式とは全く違うので、あの感じを期待して読むと失敗する。すごい盛り上がりがある訳ではないですが、この方らしい作品だと思いました。
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やっぱり小川洋子さんの小説って、もともとこういう空気の持ち主だったんだなーって改めて思いました。初期の作品なのでしょう。ほんとにほんとに、冷たい空気が流れてそれを冷めた表情で横目で見ながら描写しているんだと思う。「妊娠カレンダー」はあの甘酸っぱいちょっと苦いグレープフルーツジャムが、大量に食べたくなる。「ドミトリィ」は結末がないからこそ怖くなったし、「夕暮れの給食室と雨のプール」は小学校が怖くなった。朝の通学で2個も小学校見るのに。
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姉妹の表面化してないズレ具合とか、その二人の新しい命に対して希望みたいなものを放棄してる感じが不気味でぐいぐい引き込まれた。静かで美しい文体、ときにグロテスクで小川さんらしい作品。
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すごく、すごく読みたかった1冊。
それだけに期待も大きかったのか、読んだ後は「なんだこれ?」って感じでした。
独特の世界なんです。
ホラーじゃないんだけど、なんか読んでいてゾクゾクとしてくる怖さがありました。
読み終わった後は「だから何?」ってちょっと突っ込んでしまう私。
この作品の良さが理解出来ない私はまだまだ子供なんでしょうか・・・?!
(だって賞取ってるんですよ)
いつか他の作品もトライしてみようかなぁ〜と思いましたが、以前に比べるとこの人の作品詠んでみた度数は下がりました。
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芥川賞受賞作。姉の妊娠をまるで喜べず、姉に毒(と勝手に本人が思う)を盛り続ける妹。
親を亡くし、姉夫婦と暮らす彼女は、「家族」とか「家庭」っていうものがどこか歪んで形成されているのかもなぁ。
赤ちゃんは可愛いもの、愛すべき存在というのは誰しもに自然におこる感情ではないのかもしれない。何しろ彼女は胎児を染色体としてしかイメージできない。
「毒を盛る」とはいえ、まるで激情はなく、むしろ淡々(冷淡?)とした主人公の感情と、刻一刻と変化する姉の体や感情の対比がおもしろい。
他2編の短編も不思議な魅力満載な小川ワールドを楽しめます♪
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どうしても私には博士の愛した数式のイメージがこの作者に根付いている。
だから読んで若干の衝撃を受けた。
「お約束」かもしれないがこれは映像化したらおもしろいかもしれない。
不思議な世界観を感じた。
ドミトリイは何だか切ない。
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2007.11. 前、まだそんなに小川さんを好きでもなかった頃に「妊娠カレンダー」を、読み切れなかった。途中で、どうにもおもしろくないなぁ・・・と思い出して、終わりまでいかなかったのが嘘みたい。おもしろいよ。今よりずっと、毒を含んでて。特に「ドミトリイ」が好み。ホラーかと思う。小川さんの小説に出てくる男性は、なんだか普通では絶対にいなさそうなのに、全然奇異な感じがしないのがすごく不思議。
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美しくないとわかっていてもその絵を想像せざるを得ない生々しさ。漂う狂気に気づいたときどきりとさせられる。「夕暮れの給食室と雨のプール」の切ないかんじがすき。
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3編の短編集。表題作の「妊娠カレンダー」は姉の妊娠を冷めた目線で観察する妹の日記。それがだんだんと不気味な感情を生んで...。3編とも不思議な不気味な雰囲気に包まれています。ラストもはっきりしない感じなので、あとひく読後感です。
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「妊娠カレンダー」は芥川賞受賞作。
姉の妊娠をきっかけに揺れ動き変化していく主人公の心と姉の姿が面白い。
少し狂気を感じて、人によっては重たい感じもするかもしれないが、個人的には面白いと思ってしまった。
(08年4月16日)
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危ういバランスの上に成り立つ景色。
それを危ういとも感じない世界。
私の生活は、どんなバランスの上に広がっているんだっけ?
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芥川賞受賞の「妊娠カレンダー」を含む3編のストーリーからなる短編集。
なんとも難儀な作品。読了後、不思議な感情に陥る。
なんてことない風景や出来事、自分たちにとって普遍的と思える思想や思考なんかが実はなんとも危ういバランスの中で保たれていていることを強く感じる。
解説にも書いていたけど、世間に対応するさい自己を殺した<素直さ>で保たれている世界っては・・・どうなんだろうか。
<たとえ自分が手にしているもの全部をなくしたのとしても、自分自身は残るわ。だから、自分自身をもっと信じるべきだし、一人っきりでいることを哀しんじゃいけない。>
個人的には現状、置かれた状況を再度、確認しようかね。