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紙の本

ここに若者の勇気、傲慢、嘆き、希望、恐れ、すべてがある

2001/10/05 23:06

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:読ん太 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 上巻では、『いのちの初夜』他の小説が収録されていたが、下巻では『癩院記録』他の随筆集、感想、日記、川端康成との書簡集、院内での親友による追悼記などが収録されている。
 未完のものも多くあるが、すべてが直接的でより北條民雄その人がよく現れている。日記は飛び飛びにつけられているが、彼が日記をつける時は小説が思うように書けない時だったそうで、生みの苦しみにのた打ち回る姿が浮かび上がってくる。盲目になるかもしれないという恐怖に怯え、手が使えなくなるかもしれぬという不安、癩という病気を負いながらも若者独特の未知の世界への憧れ、あるいは強い性欲には押さえ難いものがあり心が散り散りになる様子に胸がつまる。

 ある日の民雄の日記。
「しみじみと思う。怖しい病気に憑かれしものかな、
 慟哭したし。
 泣き叫びたし。
 この心如何にせん。 」

 川端康成との書簡集では、あの大作家がまるで北條民雄のマネージャーのように雑事を引き受けて、最後まで民雄にいいものを書かせようとする姿勢が伺われる。民雄が得た原稿料を預かり時を見ては、「お金は足りていますか?」「少し送りましょうか?」と手紙を書いたり、原稿を読んで誤字を訂正したり、作品の題名を考えるのが苦手な民雄に代わって題名を考えたりまでしている。『最初の一夜』は『いのちの初夜』に、『危機』は『癩院受胎』に川端氏の提案によって改題された。
 北條民雄全集を読んで、「最良と最悪を手にして本来持っている才能を開花させ名を残した人」という印象を、「やや良とやや悪を手にして才能もなく凡々と生きる私」は強く感じるのであった。

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2022/02/20 22:20

投稿元:ブクログ

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