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紙の本
新たな雇用制度を考える助けに
2002/01/06 21:50
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投稿者:基山健 - この投稿者のレビュー一覧を見る
年功賃金、企業内労働組合と並ぶ日本的経営の特徴の一つと言われる終身雇用制であるが、近年その崩壊が言われている。本書は終身雇用制について、伝統的な経済学とは異なり、経済学の中に文化的要因を取り入れて論じている。
第1章では、長期雇用が労働者間の協力を生み、それが労働者にも企業にも利益をもたらすというメカニズムを明らかにする。ゲーム理論を用いてはいるものの、「直感的な理解」のための平易な説明が随所にあるため、経済学になじみの薄い人にも分かりやすい。
長期的な関係を設定することによって協力関係を実現する、ということが日本の経済社会の多くの局面に見られるが、それと日本の文化との関係を論じたのが第2章である。新古典派経済学の個人主義的に私利の追求を行うという合理的経済人のモデルに疑問を唱え、実験から人間は話し合いや説得によって協調的行動をとることも多いことをことを明らかにする。そこには文化も影響する。自己規制、遠慮、信頼、忠誠心といった日本的価値が関係し、そもそもこれらなくしては組織が機能しないとも述べる。
第3章では近年の官庁や大企業の不祥事と終身雇用制の関連について述べる。終身雇用制下で発生する、多数決、根回し、インフォーマルグループ、密室での意思決定、陰口等が不祥事の温床になるとする。これらは私利の追求から生まれるものであり、不祥事は集団主義から生まれるのではないと論じている。これらは倫理的な問題であり、自由と個人の尊重によって終身雇用制の問題を回避すべきであると第4章で提起している。
終身雇用制に関して、産業社会や経済情勢の変化から論じているものは多いが、本書は長期的な人間関係が生み出すメカニズムや日本の文化との関連において論じているという点で独自性がある。新たな雇用制度を考える上で本書の視点は有益であろう。
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