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今の日本や世界の経済混乱のルーツが記されています。
ここで言う「満足の文化」は否定的な要素を持っています。
なぜアメリカは、富裕層を優遇し、貧困層の対策を行わないのか。「満足せる選挙多数派」をキーにレーガン、ブッシュ大統領の時代について話を進める。根底にあるのは目先の不安・恐怖の解消。
敗戦国日独伊が経済に価値を置き、戦勝国アメリカは軍事を増強する。1980年代アメリカは債権国から債務国になった。
●下層階級なしに社会は機能しない。かつては貧しいながらも将来への希望が持てた。しかし、今のアメリカの下層階級は経済生活向上の期待ができないものとなっている。
●満足せる人々の経済学の核心は自由放任「市場のなすがままに委ねる」。ここには企業を破壊させる諸力が潜む。自己破壊的傾向は大企業から始まる。
●経済学者は自らの見解を特定の経済的政治的利害に適応させる能力を身につけた。
著者ガルブレイス、1992年の出版。
「願望をかなえようとする意識。それは幸福がありふれたものになると弱まり、逆境に直面すると強まる。」
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ガルブレイス 「 満足の文化 」
レーガン&ブッシュ政権下の経済停滞原因を分析した本〜満足の文化を 経済停滞(財政赤字、国際収支赤字)の原因とした。
満足の文化とは、裕福な市民(選挙における多数派)が持つ 満足意識であり、投票行動を通して アメリカ経済を停滞させている。
著者は アメリカ市民を 裕福な市民(選挙行動を起こす市民=選挙多数派) と下層階級(投票行動を起こさない移民など)に区分。
裕福な市民の投票傾向や特徴
*短期的な平安と満足を求める
*国家の介入に反対する=自由放任が最善
*改革に抵抗を示す=無策をのぞむ
*小さな政府と減税を求める→ 納税者と便益享受者の非対称性
*軍事支出は優先、所得格差は容認、増税は抵抗、高金利は歓迎
*財政政策より金融政策→財政政策は政府の役割大
*失業よりインフレが恐ろしい
レーガン政権下の財政赤字時の減税の意図
*富裕層減税→おこぼれが貧困層、中間層へ
*選挙多数派の支持を受けられる
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楠木建教授のおすすめ本。戦略読書日記には結局収録されなかったが、当初紹介予定の30冊には含まれていた。
「戦争が終わった時、アメリカなど英語圏の諸国は、強い満足感と自己肯定の感情にひたっていた。その感情が、とりわけ近年になって、経済的社会的成果の著しい低下をもたらすことになった。…
右で述べた自己満足の感情が、『満足の文化』と呼ばれるものである。」
この「満足の文化」の性格を明らかにしているのが、本書である。
「満足せる人々は短期的な問題には目を向けるが、長期的な問題は無視するか先送りする」
「幸運で恵まれている人々は、明らかに、自分たちの長期的福利を考えて反応したりしない。むしろ彼らは、当座の平安と満足に精力的に反応する。…そして、これは資本主義社会だけに当てはまるものではなく、もっと根の深いもっと人間の本性にかかわる問題である。」
「下層階級がより大きな経済家庭の分かちがたい一部分となっていること、そしてより重要なことだが、恵まれた人々の生活水準と快適さがこの階級によって支えられていることはあまり認識されておらず、まためったに話題にされることもない。…容赦ない社会的排斥の苦難を救済できるような政治経済システムの構想が求められているにもかかわらず、満足せる人々の都合だけが社会の正面に出て、明瞭きわまる現実を押し隠しているのである。」
「レーガン政権、ブッシュ政権は右のような政策―福祉等の支出の削減、富裕階層を優遇する減税、増税への抵抗、財政赤字―に対する批判を免れることはできない。彼らの政策はおしなべて同情心に欠けており、経済的には有害であり、政治的にも利口なものではないと見なされてきた。しかし、従来強調されることもなく、言及されることさえまれだったのは、彼らが、支配的な政治勢力との関係を熟慮してきたということである。彼らが追い求める政策は、自らの選挙民である満足せる選挙多数派の意志を忠実に反映したものだった。実際、彼らは民主主義の原則に忠実だったのである。」
そして結び。
「現在の不満と不協和音、およびその原因である満足せる人々の状況に対して、いつかは何らかの衝撃的事件が起きるであろうということを、本書を通じて理解するのは、ささやかとはいえ決して無意味なことではないだろう。」
約20年前に書かれたというから、特にこの結びは驚きの一言。
自分の問題意識からしてこのようなテーマは興味深いのだが、楠木教授もこの手が嫌いではなかったのは意外。
ただ中身の本質は、正直どこかで語られた気がしないでもないのだが、「満足の文化」と名付けることで一般化できているし、個人的にも頭の中で整理されたのは大きいことだと思った。