紙の本
<安全はやみくもに危険をもみ消したり、危険、危険とただ叫んでいるだけでは実現できない>
2003/05/20 18:23
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投稿者:まんでりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
飛行機事故でなくなった機長が、出発前に「やっこらしょ・どっこいしょ」と言っていたことが、ボイス・レコーダーの記録からわかった。
マスコミはこぞってコックピット内のたるんだ空気を「道義的に」非難した。
後に、これは機長が気合を入れるときの学生時代からの癖であったとわかる。
まあ、マスコミは引っ込みがつかんわな。
一を聞いて十のことがわかったようなつもりで仕事をするのはマスコミというものの性(さが)であるから、これをとやかく言っても始まらないが、「道徳的に」いくら非難してみても危険は去りはしないという当たり前のことを当たり前に主張するのがこの本の趣旨である。
この手の失策をしでかしたマスコミもまた「道徳的に」非難されるのはテレビ朝日だったかが、坂本弁護士一家惨殺事件に責任の一端があると指摘されて自粛したのを挙げれば十分だろう。
また、引っ込みがつかないと、開き直ってあくまで非を認めないという態度に出るか、さもなければ自粛と称して萎縮してみせるしかないのかもしれない。
いずれにしても本来の問題の解決にはつながらない。
世の中は危険に充ちているということは「火宅」のたとえの昔より自明のことであるにしても、今は余りにも余計な危険を抱え込んでしまって、もう後戻りもきかないところにまで来てしまっているかのようである。
著者は、この危険を広く具体的に取り上げて吟味し、真の安全を目指すにはどのような方向性や可能性が考えられるだろうか、あるいは回避不能な危険についてどう考えるのが妥当であるのかについて総合的に考察していく「安全学」なる新たな学問を提唱しようとしている。
奇妙なタイトルに惹かれて手にとってみたのだが、広い学問分野を包摂する一つの卓見ではある。
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医療関連のことについて非常に興味深いことが書いてあるんですけど、気付けば個人的な関心分野である異文化理解や文化侵略、途上国の経済開発の問題にからめて読んでいました。
とにかく、かなり面白いです。日頃見過ごしている、自分の安全を取り巻く深刻な問題についても考えさせられました。
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今回の震災、特に原発の問題に動機付けされていたところで、書店で見つけて衝動買い。
久々の本格的な社会科学書で、スッキリと頭に入ってこない箇所もあったけど、医療など具体的事例の紹介を通して、日本人の文化として、最初にリスクを前提とした安全対策をしない傾向があることは同意。
安全に関する考察を、他分野でのさまざまな課題検討の前提となる思考のプラットフォームにしようという提言については、まだ腹に落ちていないけど、議論の方向性としてはありえることは納得。
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安全科学ではなく、安全工学だというのは、エンジニアには分かりやすい。
しかし、安全工学ではなく、安全学だというのは少し分かりにくい。
法律や制度が必要なので、安全工学+工学以外=安全学だといわれれば、少しは分かる。
村上陽一郎の論点が、そうとも言い切れないところが少し不安だ。
村上陽一郎が抽象的な論議が好きなのは学者なのだからよい事だ。
危険は現場で起きていると思う。
最初に、次の2人の書籍を紹介した意味も、不明確かもしれない。
辛島恵美子 安全学索隠
武谷三男 安全性の考え方
武谷三男は、原子力の平和三原則にも関連するので大事だと思う。
安心学を目指しているのだろうか?
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かつて『現代思想』に連載されていた文章を単行本にまとめたもの。「安全」を学際的にまとめようとした意欲作ではありますが、結局は「安全」の範囲をあまりに広汎に定義し過ぎて、安全工学などを支える思想を中心にした「安全倫理学」にとどまっている所は手詰まりを感じさせます。新天地開拓ということで、全体的に手探り状態で構想をまとめた感は否めませんが、取り上げているテーマの中での指摘は重要なものばかりなので、是非とも学問分野して発展させて欲しいのですが。
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人間の安全を脅かすものが多すぎる。
戦争以外にも環境、自然、人工物、あらゆるものが平和を脅かす。
極めて頻度が高くない危険に対す手、対策を講じることの是非。空振りに慣れること。東海地震がよい例だろう。もう40年以上、東海地震の危機がいわれているが、まさか東北に大地震が来た。
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病院や原発の安全性は問われることが少ないと言います。安全かどうか議論していると、ひょっとして安全でないのではないかと思われてしまうからです。それでも実際には事故は起こっています。公立の大学病院で、2人の患者を取り違えて手術をしたというケースもありました。予防接種はその地域全員の安全を目指して行われて来ましたが、そのために個人の安全がおびやかされる(予防接種がもとで亡くなるなど)こともあったため、最近は強制ではなくなっています。飛行機については最悪の場合を考えての実験が繰り返されます。それでもいずれ事故が起こるということになります。我々は今、自分たちの子孫の安全を害するようなことをしています。環境問題です。我々の生活が豊かになることだけを考えていて良いのでしょうか。著者は科学思想史の専門家です。歴史的な知識の上に安全をテーマにした学問を確立しようとされています。この学問の事始めのしめくくりとして、著者は、「寛容」ということばを用いられています。何かの問題が起こったとき、答は唯一ではない、いろいろな価値基準をもとにしたいろいろな答があって良いのだ、と言われています。これは「文明の衝突」を防ぐはたらきもあるように、私には思えました。
単行本、1800円、「現代思想」という雑誌に連載されたものなのでかなり難解かと思いましたが、具体例も多く読みやすく書かれていました。(2015年現在、これは文庫になっていないのでしょうか? ちくま文庫さん お願いします。最新の話題を1章付け足していただけると、なおよいかも知れません。)