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故郷で医者を勤めるベン。しかし彼は30年前からある事件に関する暗い記憶を抱え続けていた。ベンの回想から徐々に事件の真相が明らかになっていく。
クックの小説を読むのはこれで三作目。はじめて読んだ作品は『緋色の記憶』という作品ですが、その作品も主人公が過去の事件を回想していくという形式でした。
どちらの作品にも共通して言えることは主人公の語りの美しさです。今作の主人公ベンが回想する時代は15、16歳くらいの時代です。
語りの何が美しいかというと、少年時代の主人公の心情を、30年が経ち大人になってしまった現在から語るという点です。その語り口から浮かび上がってくるのはあの頃への郷愁の念と事件に対する遺恨の念、正義心に燃える感情、そしてこの作品で何より自分の心に迫ってきたのはベンの初恋の感情です。
初恋の相手がピンチに陥るのを助ける姿を妄想したり、恋愛感情を意識してからのぎくしゃくした感情、自己否定をしてしまう主人公など、その姿はいつかどこかの自分の姿と重なる人も多いと思います。そうした感情を大人になった主人公に語らせているからこそ、青春小説の青臭さとはまた違った懐かしさと切なさを感じさせられました。
何かしら事件があり、それに主人公が関わっているということは、最初の段階から匂わせているのですが、それを最後まで具体的に語らないのもクックの手法です。回想で描かれるのは日常のシーンが多くまどろっこしく感じる部分もあるかと思います。しかし、最後まで読んだ時なぜ主人公は苦悩し続けなければならなかったのか、その本当の意味が分かります。
痛快さとは無縁の作品ですが、ミステリとしても文学としても非常によくできた作品でした。
2000年版このミステリーがすごい!海外部門3位
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ケリー・トロイが町外れのブレイクハート・ヒル(「心臓破りの丘」)で襲われた事件がベンの回想によって語られて行く。
最後の真相にショックを受けた。
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内容(「BOOK」データベースより)
名医として町の尊敬を集めるベンだが、今まで暗い記憶を胸に秘めてきた。それは30年前に起こったある痛ましい事件に関することだ。犠牲者となった美しい少女ケリーをもっとも身近に見てきたベンが、ほろ苦い初恋の回想と共にたどりついた事件の真相は、誰もが予想しえないものだった!ミステリの枠を超えて迫る犯罪小説の傑作。
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大いにネタバレなので未読の人は絶対読まないでください。興趣を削いでしまうのが申し訳ないので。
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クックの名作「緋色の記憶」よりは面白い。
読み初めの1/3くらいまでは感情移入できず失敗作ではないのか、と思いながら、辛抱を重ねて読んだが、真実がなんであったか、の想像がつくようになってからは(最終的には、それが作者による巧みな誤導に依るものであることが分かる。)ページを捲る指ももどかしいくらい、この傑作に引き込まれていった。
「ミステリー小説」と呼ぶには軽すぎる。
優れた「青春小説」であり、「心理小説」でもある。
一括するなら「文芸作品」とでも呼んだ方が似つかわしい。
捲るページの一枚一枚が真実を覆う薄皮を一枚、また一枚と剥いでゆくと同時に、自分の青春時代を思い起こさせ、グリグリと良心が錐で突かれ、自分の人間性が纏った虚飾も剥がされていくような怖さも覚えながら…。
ついに最後の薄皮一枚を剥いだ刹那、押し留めるものを失くした驚愕の真実が雪崩を打つように僕を襲い、脚元を掬った。
主人公ベンのみならず、彼とケリーを取り巻く多くの人たちの人生が心に闇を抱えたいかに悲惨なものであったか、ただただ、呆然としてしまう。
ありふれた若者の恋愛が、これといって悪意の者は登場しないにも関わらず、近松作品のようにふとしたことで純粋な想いが絡み・もつれあって生ずる悲劇だ。強いて言えば「若さ」が産む罪か。
主要登場人物のキャラ設定のうまさ、人種問題をさりげなく背景に据えたことで生まれる社会性とリアリティ。
何気なく聴いたセリフが、後々、全く別の意味を持ってきたり、何気なく配置された小道具が再登場するに至って大いなる恐怖を醸し出す仕掛けなど、なんとも巧緻なストーリーテリングだ。
最初、読んで理解できなかった点は次の事柄だが、再読してハタと気がついた。
420P「エディがトッドには喋らず、代わりにライル・ゲイツに喋ってしまうことになるとは…。」
427P「トッドの耳元で、ケリー・トロイについて知りえたことをせっかちに囁く、エディ・スマザーズの姿が見えた。」
この両者の記述は一見矛盾する為に、僕の頭を混乱させた。
しかし、前者はベンがそのように思い込んでいたということで、それが故にケリーに手をかけたのはライル・ゲイツだと三十数年、思い込んでいた。
ライルが冤罪であるとは思っていなかったのだ。
終盤、ベンはケリーの家を訪ねてシャーリー・トロイからケリーの指輪を渡されて(426P)、初めてトッドに耳打ちしたのがやはりエディであったということを確信した。
これでゲイツの冤罪が明らかになり、ベンは自分のした事がそれまで自分が思い悩んでいた以上に罪深いことであった事実にうちのめされ、遂に、長年、真相に疑問を抱いていたルークのもとを訪ね、真実を告白するに至るのだ。
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それでもスッキリしない点が残る。
そもそも事件によってケリーがどうなったか、ベンが知らなかったはずはない。ルークも知っ���いた。(かつての)同級生はじめ、街の人たちも知っていたはずだが、真実は慎重に伏せられている。ちょっとアンフェアな気もするが、これについては作者による読者サービスとしての確信的誤導だと受け止めておこう。
ゲイツがその日、ブレークハート・ヒルを訪れたのは、偶然に過ぎないようだ(上述のように、ベンは、そうは思っていなかった。エディからケリーの出自に関する噂を聞いたことがその理由だと思っていた(420P))がこの偶然があまりに作為的なのが残念だ。
それにしても、ゲイツが裁判になっても特に争うそぶりもないのは、ベンの主観によって回顧されているからだろうか。
ゲイツがその後、自ら死を選んだのは、不運な自分に(その不運は自分が招いたものであるということに)絶望したのだろうか。
ゲイツの人間性は興味深いのだが、ここをあまり膨らませることは物語全体のバランスを欠くことになるだろうし、語り手がベンである以上、無理なことなのだろう。
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いやはや、結構、結末はドンデンでした。
ちょっと、予想してませんでした。
それよか、印象的なのは、60年代の南部田舎町の雰囲気。
なんだか、ミステリ版「アメリカン・グラフティ」って感じでした。
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冒頭の『私の記憶にあるなかでもっとも暗い話である』に思わず突っ込んでしまった。
いやいやクックさん、これ迄六冊読んできたけど、結構何ともならない暗ーいお話ばかりですよね。
でも読み終わって、あぁ確かにそうなのかもと納得。
それにしてもベンはあの事件以来どうして一度もケリーに会わずにいられたのか、ライルは何故現場にいたのか、エディには良心の呵責は無かったのか…読み直したけどここは分からない
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記憶三部作と言われるている中の一冊。
主人公の一人称で語られるミステリーなのだが、最後の最後までミステリーらしくなく、文学のような感じで進んでいくが、読み終わったときに色々な仕掛けに気付かされた。
最後の場面が冒頭へと続く感じのになっている。
主人公の現在の視点と30年前の学生の視点で描かれているのだが、事件は30年前に起こっている。
転校してきたケリーに恋心を抱く主人公のベン。
あたかも恋に破れたベンがケリーを殺したような文章が並ぶ。
それがミスリードで最後に真犯人が分かる。
またケリーは殺されたような印象を持たせて 最後にドンデン返しするのも作者の狙い。
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転校生ケリー・トロイを想う主人公ベン・ウェイドが現在から高校時代を振り返る一人称の独白として語られる。切なく、悲しい物語。
吉野仁氏による後書きにある作者の「闇をつかむ男」の一節、「大量死の時代にあっても、ミステリーは不法に奪われた人ひとりの生命がなおも人間の世界で重要な意味を持つと主張する、ロマンティックな個人主義の最後の砦となっている。」という文章。ミステリーが面白いのはまさにその点だと思った。言い換えると、その他大勢の命ではなく、家族や親友の人生を扱うようなものだから面白いということか。