- 現在お取り扱いが
できません - ほしい本に追加する
アルジャーノンに花束を みんなのレビュー
- ダニエル・キイス (著), 小尾 芙佐 (訳)
- 税込価格:902円(8pt)
- 出版社:早川書房
- 発行年月:1999.10
- 発送可能日:購入できません
文庫 ネビュラ賞 受賞作品
- 予約購入について
-
- 「予約購入する」をクリックすると予約が完了します。
- ご予約いただいた商品は発売日にダウンロード可能となります。
- ご購入金額は、発売日にお客様のクレジットカードにご請求されます。
- 商品の発売日は変更となる可能性がございますので、予めご了承ください。
高い評価の役に立ったレビュー
10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2010/02/02 12:17
知性か感情か、それが問題だ、そして超高齢社会に係る問題提起の書
投稿者:風紋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『アルジャーノンに花束を』は、まず中編小説(1959年)として世に送られ、ヒューゴー賞を受賞した。ついで、書きあらためられた長編小説(1966年)に、ネビュラ賞が与えられた。
世界各国の老若男女多数から支持された、SFの傑作である。
本書の主題は、日本語版文庫への序文に明らかである。
すなわち、知識/教養は「人と人との間に楔を打ちこむ(障壁を築く)可能性がある」から、学校や家庭で「共感する心というものを教えるべきだ」
愛情を欠いた知能は、精神的道徳的な崩壊をもたらし、神経症ないしは精神病すらひきおこす、と主人公は小説の中でいっている。人間関係を排除する心は、暴力と苦痛にしかつながらない、と。
主人公、チャーリー・ゴードン(32歳)は、知的障害者【注】である(医学的に
いえば精神遅滞者)。全編の言動から推定するに、発達遅滞の程度は、「裸の大将」で知られる画家、山下清よりもやや重い。
亡伯父の親友の保護下で、パン屋で働いていた。地域の子どもからからかわれ、同僚からあなどられつつも、その正直、暖かさ、率直、思いやりを愛する「ともだち」がいた。
ビークマン大学がチャーリーを被験者として選び、かしこくなる手術をする。
効果は驚異的だった。急速に知能が伸び、術後1か月で大学生と対等に会話をかわすにいたる。
だが、よいことばかりではない。善悪の識別が可能になったため、あらたに葛藤が発生したのである。
チャーリーは、同僚が店の金をくすねる現場を見つけた。不正を糺して「ともだち」を失うか、知らぬふりをしてよき保護者の損害を見過ごすか。ばかにしていた男のめざましい知的成長に、同僚たちはいらだち、敵意をつのらせる。
チャーリーは馘首された。
知能はどんどん高まり、天才の域に達する。多数の言語、数学、物理学、経済学、地質学、ありとあらゆる知識を吸収していく。
術後3か月たった。自身の症例が報告される学会にチャーリーも参加した。ここで学者たちの無知、無能を知り、チャーリーは愕然とする。
学者たちは、居心地が悪くなった。天才となったチャーリーの学者たちに対する関
係は、学者たちの知的障害者に対する関係と同じなのだから。
学者たちは、チャーリーを単なる実験の対象としか見ていなかった。天才である今
の自分も知的障害者であった頃の自分も人間であることはかわりがないのに、学者たちが注目するのは今の自分だけである。
不満を抱いたチャーリーは、学会から逃げ出す。
彼の手術に先立って被験体となったねずみ、アルジャーノンとともに。
チャーリーは孤独だった。
恋人はいた。チャーリーに暖かな目をむける教師アリス・キニアンがそれだが、知能の高まりにつれて、アリスはついていけなくなった。
チャーリーの知識を求める心が、アリスの愛情を排除してしまうのだ。
知的な自由をもちながら人々と感情を分かちあえる方法を、チャーリーは見つけることができない・・・・。
ところが、ある事態が生じて急転直下、チャーリーの悩みは解消される。
それは、たしかに幸福な結末だが、別の側面からみると不幸な解決のされ方だった。
チャーリーがのこした手記の末尾は、涙なくして読めない、と或る友人は漏らした。
同感する人は少なくあるまい。
このSFは、読者にさまざまの考察を強いる。
たとえば、知性と感情との関係について。感情は客観的であり知性は主観的であ
る、と三木清は通念に逆らって独特の見解を示したが、本書を念頭におくとわかりやすい。三木のいう「客観的」とは、多数に分かりやすい、というほどの意味である。そして、「主観的」とは、多数に理解されにくく孤独な立場に身をおく、といった意味だ。
あるいは、超高齢社会の今日的な疾患、軽度認知障害(MCI、Mild Cognitive Impairment)について。知的障害は発達期(おおむね18歳まで)に生じるのに対し、軽度認知障害は成人に生じる。また、知的障害は知的能力の獲得に遅れがあるのに対し、軽度認知障害はひとたび獲得した知的能力が減少する。こうした相違があるものの、両者の感情面は損なわれない。むしろ、敏感でさえある。この点に注目すれば、本書、チャーリーの一代記は、児童のキュアまたはケアに関わる人にも、高齢者のキュアまたはケアに関わる人にも(当事者にも)、多くの示唆をあたえてくれる。
【注】
「知的障害」は、日本にしかない行政用語。従前の用語、「精神薄弱」は差別感を助長するという理由で、1999年施行の「精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」に基づき、関係法令が一斉に改正された。
低い評価の役に立ったレビュー
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2002/03/27 10:07
長編版
投稿者:真 - この投稿者のレビュー一覧を見る
同名の中篇を長編にあらためた作品。でも直す前の中篇のままの方が良かった。長編になってお涙頂戴みたいな余計なシーンが増えて、その結果冗長になり、作品全体の切れ味が鈍った感じがする。その元となった作品は「心の鏡」という短編集に収められているので、ぜひ読み比べてみてください。
紙の本
タチコマ
2017/12/30 22:54
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:鯉狂い - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を読んだきっかけが某SFアニメの思考型戦車・タチコマが作中で読むシーンがあるというだけの、文学好きとは少しかけ離れた理由から。まさかタチコマの急速な成長と少佐の懸念を本作にかけていたとは読むまで気づかなかった。
さて、本書自体の内容に関してだが、人間とは常に他者との比較をする動物で、一度他者より勝ると思えば見下すこともしばしば。何かこう主人公の段階的に変わる目線からー悪いことばかりではないがー人間の本質を改めて教えられた。
筆者(訳者)の技術的には主人公の障害の度合いを、ひらがな/漢字や誤字脱字で表現し、謎の手術での知識の獲得/そして崩壊を描いていたのはかなり凄いテクだ。筆者自身が自身の幼少期を思い出しながらなどの述懐があるが、にしてもこれは凄い。
中高生に薦めたい一冊と思う。今、意味や意図が分からなくても良い。部分々を覚えているだけで良い。きっと歳を重ねるにつれ、違った捉え方ができるようになる。
ところで、同タイトルで日本では何度かドラマ化されているが、どうしてああもコンセプトだけパクった似ても似つかないストーリーを日本のTVはつくるのか?は理解しがたいところである。
紙の本
他人にとっての幸福は、己にとっての悲劇。
2015/10/26 18:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ひでり - この投稿者のレビュー一覧を見る
彼が望んだ世界は無垢で穢れのない世界だったはずなのに。みんなに好かれたい。ただ、それだけのことを叶えるにも世界は残酷だなんて。
紙の本
ダニエル・キイスの唯一最大の名作
2001/01/25 01:46
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:谷池真太 - この投稿者のレビュー一覧を見る
文句なく感動するお話。「知」のむなしさ、栄光を失うことのつらさ、友を失うことの悲しさ、全部つまっている。
でも少しだけ文句をいえば障害者=純粋という図式に乗っかりすぎているような気がする。
それにしてもダニエル・キイスって、「ダニエル・キイス文庫 」なるものまで作られるほど名作がたくさんあるのだろうか。これ以外はいまいちだと思うのだが。