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監督ハワード・ホークス〈映画〉を語る 新版 みんなのレビュー
- H・ホークス (述), J・マクブライド (著), 梅本 洋一 (訳)
- 税込価格:2,860円(26pt)
- 出版社:青土社
- 発行年月:1999.12
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紙の本
プロブレマティックな「物語」の実践
2002/06/24 01:35
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投稿者:あおい - この投稿者のレビュー一覧を見る
かつて“インディペンデント”の雄として知られた映画作家ジム・ジャームッシュは、自分の作品に“The film by”の字句を入れることは、現在の映画産業では贅沢の極みに近い栄光の証なのだ、とインタビューでそういう意味のことをいっていたが、僕が映画で何度も目にしたその字句からごく自然に覚えてしまった名前がハワード・ホークスである。ゴダールをはじめとするカイエ派の人々がもっとも愛したアメリカというよりもむしろハリウッドの映画作家であり、チャップリンと同年同日にほとんどメディアでは知られることなくひっそりと逝ったこの人物の作品は、そのほとんどが大ヒットを記録し申し分のないストーリーテリングとスターを発掘し扱う捌きの見事さで職人的な大衆映画の一級品という評価を恣にしてきたのだが、実際にその作品をつぶさに見ると、物語の滑らかさが決してわかりやすさには結びつかないし、また物語の題材となるものに文学的な深みのあるアプローチがほとんどなされないがゆえにむしろ悪夢的な手触りを引き寄せているという状態によって芸術のもっとも恐ろしいものを露呈させているとして再評価、発掘され、今度は一部でほとんど神話化されるにいたっていたりもする。ようするにこの事態は「優れた作品は優れている」という同語反復に近い、だからこそ真実であるしかないような芸術作品の本性に由来しているのだろう。
この本に登場する様々な人物、ローレン・バコールやハワード・ヒューズやウォルター・ブレナンの魅力的な肖像は、まさに依存ではなく信頼と協力に基づく人物の関係を描き続けた映画作家に相応しく、節度とユーモアを保って単に作品(映画)を作ることのみを愛し実践する場所を語る希有なものであり、ヒッチコックのインタビューにある偏狭さやブニュエルの皮肉っぽさ、ゴダールの騒々しさや攻撃性とは無縁の人格的な豊かさを感じさせてくれるものであり、だからといって、トリュフォーのような、映画製作の場所をひとつの“失われた家庭の幻影”のようなノスタルジーでもって神話化することもなく、あくまでプロブレマティックで「みずからの責任を果たせ」というほとんど道徳的な命令のもと主体的たらんとするプロフェッショナルな集団の一員、いやリーダーであることに自覚的な人間の<証言>として、実に堂々として欠くところなく見事である。物語作家であることにホークスは多大な自負を抱いているらしいが、しかしたとえば『三つ数えろ』のストーリーをきちんと理解して語れる人はおそらくほとんどいないだろう。彼のいう物語を明確に語ることというのは実は「理解すること」とは本質的にズレているある明快さ、映画はスクリーンの上に映し出された光の痕跡であり、そこで生み出される<物語>とは抽象的な「理解」を必要としない、ただそこにある現実を明るみに出すような種類の明快さであることを、この実践的な対話から読みとること。
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