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一気読み。物凄く面白くて興奮しました。鏡花の小説は文体が身体に馴染むまでに時間がかかるのですが、一度物語世界に絡め取られてしまえばグイグイ読み進められます。早瀬と芸妓のお蔦の悲恋が主軸かと思いきや後半は急転直下のどんでん返し展開。昼ドラとハーレムラノベとフェミニズムとミステリをじっくり煮詰めたエンターテイメントでありながら擬古文調の戯作風味というどこにもない文学です。三島が谷崎らと対談した際「鏡花ファンは変態なんですよ」とブーメラン発言していたらしいが、変態でもいい。鏡花を読む幸せを知る変態でありたい。
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泉鏡花の作品の中でも評価が分かれると聞きましたが、なるほど読んでみると、確かにそうかもしれません。
これはピカレスク。
一般に思われているような文学作品とは違いますね。
読んでみて良かったです。
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素顔に口紅で美しいから、その色に紛うけれども、可愛い音は、唇が鳴るのではない。
お蔦は、皓歯に酸漿を含んでいる。
これ以上に魅力的な書き出しを他に知らない。
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もう大衆娯楽を地で行くような、メロドラマのような作品。それでも品がないわけではなく、文体の独特の美しさがあって読まさせられる。ストーリーも徐々に盛り上がっていく感じの持って行き方に、つい引き込まれてしまう感じ。
でも、今一つ深みが欲しくなるというか...ちょっと物足りなさを感じてしまう。
かるーく読みたいときにオススメの1冊。
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明治時代の文豪。さすがに文章が美しい。
婦系図といえば、「湯島の白梅」の舞台が有名だそうだが、原作にはその描写は出てこない。
どちらかというと、原作で描きたかったのは、媒酌結婚が主流だった世の中に対する異議申し立てだったのではないだろうか。また、その媒酌結婚をさせられた河野家の女性や、酒井家の女性が、実は芸者の子だったり、不義の子だったりと実は卑しい出自であることから、いかに、出自がその人を創るのに関係するのではなく、身を置いた環境次第なのだということを伝えている気がする。
読むのにとても時間がかかったが、(導入部分が長く、文章が明治に書かれたものだから読みにくいのだ)後半部分、すごく面白くなってくる。
時間のある年末年始などに読むのが良い。
他の泉鏡花作品も読んでみたい。
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これは何を言っているのかさっぱり分からん。こんなにも言葉の通じない時代が明治の初めにあったなんて信じられんな、しかし。いつも読んでる時代小説みたいんじゃなかったのか、いや薄々分かっていたけども。
というわけで、珍しく解説を読んでみて、ええ、主税さんってそういう役だったってことなの?!ってなぐらいに分かってなかった。てか解説読んでから本文読み直しても、非常にあいまいというか、まさにハイコンテキストていうか、その時代の日本人にしか分からん表現なんよね。
というわけで、久しぶりに脳みそのシワが増えた感。
あ、ラストもヤバいですよ。意味が分かっても意味分からんていうか。もうハチャメチャ。
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面白かった...!言葉も平易だし、筋も明快で、鏡花作品の中ではだいぶ読みやすいのではなかろうか。主税と蔦の悲恋、先生との師弟関係、家族主義・河野家への復讐と話がどんどん展開して、面白かった。文章も調子が良く、登場人物の美しさもぴかいち。蔦と先生好きだった....
まず蔦。一途に思いながら、主税に来客ある時はそっと身を隠し、また師の言いつけを守り、別れ二度と会えなかった人。恋しい男のために、身を引く様がもう涙だった...最期も先生が許してくれて嬉しいって、それだけを言うのがね...はあまじで好き...切ない...
そして江戸っ子の先生!別れろ!って言うんだけど、そこまでのやり取りも、蔦の最期に駆けつける所も、決して人情がないわけではなくて、ずっと小気味が良い人だった。鏡花の実体験ベースということで、紅葉こういうところあったのだろうか。これは偉大な師匠だなあ笑
最後に主税。おまええええと一回は絶対言いたい。蔦だけでなくて、菅子も道子も籠絡しおって!まあとはいえ蔦ありきなところが好きだったよ...すず夫人のこと好きだったんだろうなあと思いました。
短編「湯島の境内」では別れる直前だったので、本作の悲劇的なエンディングには驚き。そうだったんだな...本当に鏡花たまらないなあ〜
さて好きだったところは以下。
(前編)
「羽織が無いから日中は出られない、と拗ねたように云うのがねえ、どんなに嬉しそうだったでしょう。それに土地馴れないのに、臆病な妓ですから、早瀬さんがこうやって留守にしていなさいます、今頃は、どんなに心細がって、戸に附着(くッつ)いて、土間に立って、帰りを待っているか知れません、私あそれを思うと……」(四十三)
「地方へ行かない工夫はないの?」と忘れたように、肩に凭れて、胸へ縋ったお妙の手を、上へ頂くがごとくに取って、主税は思わず、唇を指環に接けた。
「忘れません。私は死んでも鬼になって。」
君の影身に附添わん、と青葉をさらさらと鳴らしたのである。(五十九)
(後編)
「ぶるぶる震うと、夫人はふいと衾を出て、胸を圧えて、熟と見据えた目に、閨の内をみまわして、ぼうとしたようで、まだ覚めやらぬ夢に、菫咲く春の野をさまようごとく、裳も畳に漾ったが、ややあって、はじめてその怪い扱帯の我を纏まとえるに心着いたか、あ、と忍び音に、魘された、目の美しい蝶の顔は、俯向けに菫の中へ落ちた。(十九)
「おお、半襟を……姉さん、江戸紫の。」
「主税さんが好な色よ。」
と喜ばれたのを嬉しげに、はじめて膝を横にずらして、蒲団にお妙が袖をかけた。
「姉さん、」
と、お蔦は俯向いた小芳を起して、膝突合わせて居直ったが、頬を薄蒼う染るまでその半襟を咽喉に当てて、頤深く熟と圧おさえた、浴衣に映る紫栄えて、血を吐く胸の美しさよ。
「私が死んだら、姉さん、経帷子も何にも要らない、お嬢さんに頂いた、この半襟を掛けさしておくれよ、頼んだよ。」
と云う下から、桔梗を走る露に似て、玉か、はらはらと襟を走る。(二十三)
「未来で会え、未来で会え。未来で会ったら一生懸命に縋着ついていて離れるな。己のような邪魔者の入らないように用心しろ。きっと離れるなよ。先生なんぞ持つな。」(四十六)
「咽喉が苦しい、ああ、呼吸が出来ない。素人らしいが、(と莞爾して、)口移しに薬を飲まして……」
酒井は猶予らわず、水薬を口に含んだのである。
がっくりと咽喉を通ると、気が遠くなりそうに、仰向けに恍惚したが、
「早瀬さん。」
「お蔦。」
「早瀬さん……」
「むむ、」
「先、先生が逢っても可いって、嬉しいねえ!」
酒井は、はらはらと落涙した。(四十七)
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序盤は「エモい!エモ過ぎる!この先どうなるんだろう…」とどきどきしながら読んでいたけれど、中盤以降は衝撃の展開、一体何の話になってるんだ?と思っている内にまた衝撃の結末。ただし、個人的にはちょっと引いてしまう感じでした。そっちにはいかないで欲しかった。序盤の二人をもっと見ていたかったので、残念。
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早瀬主税(ちから)という、オイオイ、と思われるむちゃぶりのドイツ文学士の主人公をめぐる、女性たちの純情あり、妖艶あり、きらびやかで哀れなものがたり。というさしずめ、現代ので言うところのエンタメ(ピカレスクというそうな)は、とても面白かったです。
文章がべらんめえ口調だったり、美文調なのも古さ加減が心地いいし、解説(四方田犬彦)で述べられている構成の危うさも、どんでん返しのおもしろさでおつりがくると思います。ちなみに吉田精一解説は大褒めです。
100年前にこんなユーモアに富んだ現代にも通じるものが書かれたとはびっくりですが、私事を言うと、母方の曾祖母が講談本を読むのが老後の楽しみだったという、母の思い出話が真実に思われてきます。
このひいおばあちゃんというひとは旦那が飲んだくれの風来坊で、役所での給料日に押しかけ代わりに受け取り、給金の中から米・醤油・味噌を買い、残りを全部渡してやり、おかずは自分の針仕事で賄ったというのです。
旦那が山梨の田舎で身上をつぶして江戸に出、深川に住み、子供の祖父は兵学校から海軍に、大叔母(妹)は看護婦に育てた、強い女性なのです。
晩年、海軍軍人の息子に養われながら、孫の母と同じ部屋で暮らし「一生の分働いたので、もう何もしない」と読み物にふけり、呉、佐世保、台湾と息子の転勤転勤の際は、深川の医者に嫁いだ姉娘の所に滞在、遊んでくらしたというのです。
小説の中とはいえこの小説の時代背景と重なる曾祖母を想い、さながらの気分を味わいました。
大げさに言えば人間への愛は時代が古くても変わりないのであります。
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泉鏡花は好きな作品が多いが、何回かトライして読み終えられなかった婦系図。先日、金沢の泉鏡花記念館に行ったのを機に再トライ。
途中ちょっとよく分からなくなってしまったが、最後は一気読み。
ようやくあらすじが分かったので、いずれもう一度じっくり味わって読んでみたい。
泉鏡花は男性で、あの時代の人にも関わらず、常に女性の悲しみに自然と寄り添っているから、作品も普遍的になるのだろう。
この作品は義理人情がテーマにあるといわれるみたいだが、義理人情のイメージともちょっと違う気がする。義理人情よりもっと深いというか。
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中盤まで展開が進まず,かつ,酒井先生があまりに冷徹な言葉と態度で,心優しくたおやかな芸妓たちを見下すものだから,自伝小説とわかっていても辛く,哀しく,読むのが苦痛だったが,中盤で一挙に話が転じたかと思えば,そこから怒涛の展開に読後しばし呆然。
女性の着物,髪型,手回り品への執拗なほど細部に込み入った描写や,椿姫のマルグリットのごとき「男のために身を引く女」の登場はいかにも鏡花らしい。しかし,他の作品であれば「幸薄の女は儚い身となるも,男はつねに生き延びる」のが定石のところ,本作はそこから外れている。男でも身分卑しき者は例外ということか。
当時隆盛をみたとかいう舞台などより,本作こそ小村雪岱の挿絵で読んでみたい。